GEの新型風車が出力15.5MWに?
洋上風力ラウンド2の結果から、村上胎内沖の事業者がGEの18MW風車を選んだことがわかりました。これは、現在GEが開発中の新型風車です。
ところが、この結果発表からほどなくして、米国証券取引委員会の公開資料から、GEの新型風車の出力が15.5MWになることがわかりました。
今回の記事では、GEの新型風車の出力が15.5MWになることによる日本の洋上風力に与える影響について解説します。
電気新聞の解説記事
電気新聞は2024年4月9日付で「洋上風車、中型機に軸足」と題する解説記事を掲載しました。この記事では、GE Vernovaが新型機の出力を15.5MWにした理由を以下のように解説しています。
この電気新聞の記事と米国証券取引委員会資料から、GEが18MW風車の開発工程を変更したと考えてよいでしょう。
風車メーカーの慣習として、風車の型番の中に「ローター径(ブレード回転時の直径)」を示す数字が入ります。例えば、Vestasの最新機種はV236-15MWです。この風車は、ローター径が236mであることを示します。同様にHaliade-X 15.5 MW-250は、ローター径が250mの風車であることを示します。
ところで、GEの現行機種は、Haliade-X 14.7MW-220です。Haliade-X 15.5 MW-250は、ローター径が30m大型化しています。つまり、Haliade-X 15.5 MW-250は、明らかに新型風車で、現行機種の改良版ではないのです。
ここをご理解いただくために、風車の開発プロセスを考えてみましょう。
風車の開発プロセス
風車の開発にも、自動車のような「フルモデルチェンジ」と「マイナーな改良」のような開発プロセスがあります。自動車の場合、車体のデザインを含めた全面改良した「フルモデルチェンジ」をしたら、しばらくは車体のデザインをそのままに改良を加えていくというのが、通常の開発プロセスでしょう。
自動車に興味がない方には、ソフトウェアの「バージョンアップ」と「アップデート」に喩えたほうがわかりやすいかもしれません。Windows 10からWindows 11にバージョンアップして機能追加がなされつつ、その後もバグ修正などの細かいアップデートが続きます。
風車の場合、「フルモデルチェンジ」や「バージョンアップ」にあたるのが、「発電機の出力とローター径の両方の拡大」です。いったんフルモデルチェンジしたら、デザインを変えずに発電機の出力をアップデートしていきます。
例えば、GEの現行機種Haliade-X-220シリーズの場合、ローター径220mにフルモデルチェンジして出力が12MWになりました。その後、12MW → 13MW → 14.7MWと出力を改良していきました。
ところで、2023年時点で、GEは、新型機種を以下のように発表していました。
この時点でローター径の記載はありませんが、現行機種のローター径が220mであることから、新型機種のローター径は250mで計画されていたはずです。メーカーは、将来の段階的な出力の改良も見据えて、フルモデルチェンジで10%以上の延伸を狙うはずだからです。
また、上記の発表に出力15.5MWの記載もありません。だとすれば、GEは、少なくとも2023年時点では、ローター径250mでフルモデルチェンジした風車を、出力17MWで開発し、その後出力18MWに改良していく計画だったと考えられます。
Haliade-X 15.5 MW-250が意味すること
今年に入ってから、Haliade-X 15.5 MW-250という機種の話が出てきたということは、ローター径250mの新型風車の開発プロセスが、出力15.5MWから始めて、17MW → 18MWと改良していくことに変更されたのかもしれません。15.5MWの風車を新型機種Ver.1とすると、Ver.2が17MW、Ver.3が18MWになるような感じです。
同じモデルのまま、一発の改良で出力を2.5MWも上げられるとは考えられません。そもそも、それが可能なら、当初の予定通り、新型機種Ver.1が17MWのはずです。そう考えると、それだけ18MW風車が登場するのは、当初の想定より先になるでしょう。
そうなると、これまで18MW風車の採用を前提にした計画は、変更を余儀なくされるのではないでしょうか。風車の出力が変わるということは、事業計画が変わるということです。関係者は頭が痛いはずです。
また、所轄官庁にとっても、頭の痛い事態です。入札結果の公平性・妥当性を揺るがしかねないためです。入札後、しかも、選定後に、風車の開発計画が変更されたのであれば、所管省庁にとっては、想定外もいいところです。そこまで所轄官庁が入札制度に織り込むのは、無理です。
とはいえ、今後の対応について所轄官庁の判断が遅れれば、影響はどんどん大きくなります。米国では、3海域の事業者が、GEの18MW風車を採用を予定しています。米国、日本、それぞれの所轄官庁が、どのように動き、どのような判断を下すのでしょうか。影響を最小限にとどめるために、所轄官庁の早急な対応が望まれます。
脱線:持論推論
なぜ新型機種の開発目標を最初から15.5MWにしなかったのか?
GEには、新型風車の開発を急ぐ理由がありました。それは、SGREが2020年にGEを特許侵害で訴え、Haliade-X(たしか220)の米国内での販売差し止めの仮処分が出たことです。
また、このころから中国メーカーの急激な大型化開発攻勢が目立つようになります。これらの背景により、GEは、SGREの新型機種をしのぐだけでなく、中国メーカーにも対抗できる17/18MWに新型機種の目標を置いたのかもしれません。
当時のGEの最新機種は12MWでしたから、それをコツコツ改良して15MWあたりまで引き上げていくつもりで、その2~3MW上を狙ったのでしょうか。もしそうなら、欧米メーカーではありえないほどの野心的な目標です。
なぜ今になって野心的な目標を現実的に変えたのか?
2023年にGEとSGREは和解し、両社は特許のクロスライセンス契約を結びます。これにより、両社は開発の手のうちを半ば見せ合う形になります。また、このころから欧米メーカーは、中国メーカーが仕掛けてくる急激な大型化競争に乗らない方向に舵を切っていました。
中国は、1国で欧州全体をしのぐほどの旺盛な需要があるため、急激に大型化しても、サプライチェーンもついてくるのでしょう。いまや中国メーカーの風車の機器は、すべて中国製です。中国国内で発電機や変圧器などの主要機器も開発・供給できています。機器メーカーと一体での風車開発もしやすいのでしょう。
その一方で、欧州や米国では、せっかく新型機種向けにサプライチェーン、基地港湾、建設機材を揃えても、中国と同じペースで大型化したら、それらへの投資を回収できないうちに、次の投資が求められてしまいます。そうなれば、風力業界全体に深刻な影響を与えます。
欧米の風力業界から、中国メーカーのしかける急激な大型化競争に乗るのは危険だという認識が広まり、欧米メーカーも大型化への開発をスローダウンする流れが生まれました。
とはいえ、欧州も一枚岩ではありません。中国メーカーの大型風車に抜け駆けする発電事業者もいます。欧米メーカーも大型化への開発を、ごく普通のペースで続けることにはなるでしょう。
今のところ、GEだけが国内工場で風車を造ることを決めている唯一の風車メーカーです。その点で、個人的には、GEに期待を持っています。