洋上風力ラウンド2の促進区域の指定と2030年度洋上風力導入目標に黄信号
2022年8月25日、経済産業省・国土交通省は共同で、再エネ海域利用法に基づき、以下の3海域を促進区域に指定し、その案を公表しました。
長崎県西海市江島沖
新潟県村上市・胎内市沖
秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖
これらに、公募を中断した「秋田県八峰町・能代市沖」を加えた4海域で、洋上風力のラウンド2の公募が実施されることになるでしょう。
筆者が特に動向を注目していたのは、「村上市・胎内市沖」です。この海域は、「由利本荘市沖」に次ぐ広さでありながら、エネ庁資料には、その想定出力が「35万kW, 70万kW(キロワット)」と併記されたままだったからです。
以前の記事で、エネ庁が2030年度の洋上風力の導入目標を5.7GWとしたのは、「村上市・胎内市沖」の出力が70万kWである前提ではないかと書きました。しかし、今回の促進区域の発表で、「村上市・胎内市沖」の出力が35万kW行くかどうかぐらいであることがわかりました。
今回の促進区域のウェブページに、各海域の協議会資料が添付されています。これらの資料には、風車設置禁止ゾーンの協議結果が示されています。そこから、各海域で実際に風車を建てられる広さがどのくらいなのかを知ることができます。これを見ると、「村上市・胎内市沖」の禁止ゾーンの縛りがきついことがわかります。
村上市・胎内市沖
下図は、村上市・胎内市沖の禁止ゾーンを示しています。あっちもこっちもダメということで、筆者が風車設置可能ゾーンを黄色で示しました。
結局、促進区域の面積の30~40%ぐらいしか残っていません。これでは、70万kWどころか、35万kWでさえ難しいのではないでしょうか。促進区域というより「促進する気があるのか区域」です。
今回、促進区域に選ばれた他の海域と比べてみると、村上市・胎内市沖の禁止ゾーンの異常さが、よりはっきりおわかりいただけると思います。
男鹿市・潟上市・秋田市沖
男鹿市・潟上市・秋田市沖も、そこそこ禁止ゾーンの多い海域です。とはいえ、設置可能ゾーンを黄色で示してみると、促進区域の60%ぐらいになります。
西海市江島沖
西海市江島沖に至っては、促進区域の80%ぐらいが建設可能ゾーンです。
ラウンド2の想定合計出力
ここで、ラウンド2の想定合計出力を整理します。
長崎県西海市江島沖:30万kW
新潟県村上市・胎内市沖:35万kW
秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖:21万kW
秋田県八峰町・能代市沖:36万kW
合計122万kW=1.22GW(ギガワット)です。1ラウンドごとに、1.2~1.3GW規模となると、2030年度に5.7GWの洋上風力の導入目標は、早くも黄信号と言わざるを得ません。
ラウンド2の想定基地港湾
さらに、ラウンド2の想定基地港湾を整理します。
長崎県西海市江島沖:北九州港
新潟県村上市・胎内市沖:秋田港❓
秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖:秋田港
秋田県八峰町・能代市沖:能代港
筆者は、「1ラウンドあたりの公募数の上限は、基地港湾の制約を受ける」と考えています。同一ラウンドでは建設時期が同時期になります。日本の基地港湾は、35N/m²の地耐力を有する場所が8haしかなく、しかもSEP船が着岸できる岸壁数は1か所です。そうなると、複数案件の同時並行は極めて難しいです。したがって、経済産業省・国土交通省は、同一ラウンドで同一基地港湾の取り合いになるようなことをしないだろうと考えていました。
ところが、今回、村上市・胎内市沖がラウンド2に入りました。村上市・胎内市沖は、近隣に拠点港がありません。しいて最寄りの拠点港を挙げると、秋田港になり、男鹿市・潟上市・秋田市沖と重なります。山形県の酒田港が基地港湾の指定に名乗りを上げましたが、村上市・胎内市沖の建設には間に合わないでしょう。
洋上風力政策は、基地港湾の整備との整合が肝です。与党自民党は、経済産業省・国土交通省に入札ルールいじりをやらせた愚策を恥じて、肝となる基地港湾の整備に集中してほしいものです。