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洋上風力の入札結果を左右する送配電買取スキーム

2022年2月4日、洋上風力ラウンド1の公募入札結果が出来レースではないかと思わせる資料が、エネ庁から出てきました。この資料から、エネ庁は、FIT価格を下げるために、とある送配電買取スキームを、洋上風力の入札参加企業に使わせようとしていたのではないかという気がしました。

洋上風力の入札価格を左右する送配電買取スキーム

2022年2月4日にエネ庁が、調達価格等算定委員会「令和4年度以降の調達価格等に関する意見」なる資料を公表しました。これを読むと、洋上風力(再エネ海域利用法適用外)もFITからFIPへの移行を早める方向で検討していることがわかります。FIP化を早める理由として、洋上風力ラウンド1の落札結果を挙げています。ラウンド1の入札結果が公表されたのは、2021年12月24日です。結果公表から実質1か月とは、あまりに首尾が良すぎます。

出典:エネ庁「令和4年度以降の調達価格等に関する意見」

洋上風力といっても、「再エネ海域利用法適用外」なら、「対象は港湾海域だけなのか?」と思わせておいて、↑この表の欄外の※が気になります。「FIP制度のみ認められる対象は再エネ海域利用法適用対象も同様」と小さい文字で注記されています。ということは、一般海域でも着床式のところは、2024年度以降FIP制度のみとも読めます。

エネ庁は、かねてより国民負担になっている再エネ賦課金を早くやめたい意向がありました。そのために、エネ庁では、FIPへの移行とコーポレートPPAの普及に向けて布石を打っていました。それが別のエネ庁資料にあります。

電源・供給先固定型(特定卸供給)スキームとは?

出典:資源エネルギー庁「市場価格高騰を踏まえたFIT制度上の制度的対応」(2021年2月16日)

電源・供給先固定型(特定卸供給)」という枠組みが用意されています。これを使うと、発電事業者はFIT電力を小売事業者指定で送配電事業者に卸すことができてしまいます!

これを洋上風力ラウンド1に勝った事業者グループに当てはめるとどうなるでしょうか?

電源・供給先固定型(特定卸供給)スキームで洋上風力の入札価格を下げられるか?

ここでまた、誰にも頼まれていないのに勝手に「もし私が●●だったら」シリーズです。今回は、もし私が三菱商事の洋上風力担当者だったら、洋上風力の入札価格の決定に、電源・供給先固定型(特定卸供給)スキームをどう使おうとするか三菱商事のプレスリリースに名を連ねた企業を当てはめて、思考実験をしてみます。

電源・供給先固定型(特定卸供給)スキームをラウンド1落札者に当てはめた場合の想定

電源・供給先固定型(特定卸供給)スキームを使えば、FIT電源が小売事業者を指定して、送配電事業者にFIT電力を卸すことができるというわけです。FIT価格とは発電事業者から送配電事業者への卸値のことで、送配電事業者から小売への卸値でも小売価格でもありません。

風力発電の建設費を見積もるためには、地盤調査と風況観測が必須です。いずれも地元の根回しが欠かせません。そのため、どの事業者が地盤調査や風況観測をしているのかは、だいたい知られています。三菱商事グループが入札前に地盤調査や風況観測をしたという話は、風力業界の中では聞いたことがありません。ということは、彼らは、建設費をかなりザックリ見積もって入札していたと想定されます。

さらに風況観測は、売上の見積もりにも使います。つまり、彼らは、建設費だけでなく、売上もザックリ見積もっていたと想像できます。

私が担当者なら、自分たちの見積もりが、他の入札者に比べてダントツにザックリになることは、恐ろしいぐらい自覚するでしょう。それでも入札に間に合わせろと厳命が下っていれば、そのリスクをヘッジする手を考えます。それが「電源・供給先固定型(特定卸供給)スキーム」です。三菱商事グループの傘下には「MCPD合同会社」という小売電気事業者があります。この会社は、三菱商事エネルギーソリューションズ(MCES)の子会社です。ここを使えば、FITで損しても、小売で取り返すというリスクヘッジが見込めます。

とはいえ、このスキームを使うには、別のリスクが伴います。それは、ルール違反のリスクです。

電源・供給先固定型(特定卸供給)スキームを洋上風力の入札価格に織り込むのはルール違反か?

洋上風力の公募は「発電事業者」を対象としています。「発電事業者」単体で黒字化できない計画を提出したら失格です。つまり、スキームを織り込んで入札価格を下げる選択肢は、そもそもありえません。

その一方、前述した通り、地盤調査も風況観測も入札前に実施していなければ、正確な建設費を見積もれませんから、建設費を過小評価してもおかしくありません。さらに、以前の記事で書いた通り、洋上風力の選考委員には、それを見抜けるようなプロはおそらくいません。建設費の過小評価を見抜けるプロがいなければ、発電単体黒字シナリオさえ書ければよいことになります。

それならば、電源・供給先固定型(特定卸供給)スキームを洋上風力の入札価格に織り込むまでもありません。それをただコンソーシアムの中で握っておけばよいだけです。

そう考えると、ラウンド1は最初から「電源・供給先固定型(特定卸供給)」というカードを切れるグループしか勝ちようがなかったことになります。ラウンド2以降、このカードを見据えることのできるグループが、さらに現れるのでしょうか?

補足

  • この記事は、三菱商事グループがラウンド1で「電源・供給先固定型(特定卸供給)」というカードを切ったと断定するものではありません。

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