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IEC61400-1の地震条件評価の規定で耐震設計できるか?
2022年6月24日、経済産業省から、発電用風力設備の技術基準の解釈等(通称、風技解釈)の改正が出ました。(参考:風技解釈とは何か?)
風力業界のおおかたの予想通り、パブリックコメント募集時点から、内容は何一つ修正されていません。民衆の意見を聞いたふりをするだけのお役所仕事でした。
今回のパブリックコメントの内容を見る限り、風力発電設備の設計の実務に関わっている方々によると思われる詳しいコメントが多くみられます。そのわりに、経済産業省電力安全課(通称、電安課)は、「電力の安全を司っているというプライドがあるなら真面目に答えろ」というような回答ばかりでした。これは、電安課が長年続けてきた専門家の先生への基準作り丸投げにより、電安課にまともに答えられる人がいないということを意味しているのではないかと危惧します。
今回のパブリックコメントで特に多かったのが、運転時の風・波荷重と地震荷重の足し合わせに関するものでした。これは、今回の風技解釈改正の関心事でもあります。これに対する電安課の回答のほとんどは、「IEC61400-1(Edition 4.0 2019-02)を参照」でした。IEC61400-1という規格には、11.6章に地震荷重の足し合わせに関する記述があります。 しかし、この記述が「どうしようもない」のです。
IEC61400-1の11.6章の地震条件の評価
今回の風技解釈の改正で追加された項目が、IEC61400-1の11.6 Assessment of earthquake conditions(地震条件の評価)の以下の部分です。
The earthquake loading shall be superposed with operational load that shall be the largest of → 地震荷重は、次のうち最も大きい運転時の荷重と重ね合わせて評価すること
a) mean loads during normal power production determined at Vr, → Vr(定格風速)で決定した通常発電時の平均荷重、
b) loads during emergency stop at Vr, and → Vr(定格風速)での緊急停止時の荷重、および
c) loads during idling or parked condition at no wind and Vout. → 無風状態および Vout(カットアウト風速)におけるアイドリング状態または待機状態での荷重
ところが、このIEC61400-1の中での足し合わせの記述が要領を得ないのです。
The seismic load evaluation may be carried out through response spectrum methods, in which case the operational load is added using the SRSS (square-root-sum-of-squares) or equivalent load combination arising from the seismic loading. → 地震荷重の評価は、応答スペクトル法によって行ってもよく、その場合、運転時の荷重は、SRSS(平方根和二乗)または同等の地震荷重由来の荷重の組み合わせを用いて足し合わせること。
The seismic load evaluation may be carried out through time-domain methods, in which case sufficient simulations shall be undertaken to ensure that the operational load is representative of the time averaged values referred to above. → 地震荷重の評価は、時間領域法を用いてもよいが、その場合は、運転時の荷重が上記の時間平均値を代表するように十分なシミュレーションを行わなければならない。
応答スペクトル法ならSRSSで足し合わせよ、時間領域法ならシミュレーションせよと読めます。ところが、この11.6章の最後の一文にオチがついています。
The response spectrum method shall not be used if it is possible that seismic action will cause significant loading of structures other than the tower. → 応答スペクトル法は、地震動によりタワー以外の構造物に大きな荷重が作用する可能性がある場合には用いてはならない。
「なに、それ?地震で基礎も揺れるに決まってんじゃん?じゃぁ、時間領域法しかないじゃん?それ、時刻歴解析だよね?十分なシミュレーションって何そりゃいいの?まさか、連成解析?そんなのできる会社、日本にある?」ということで、万事休すなのです。
つまり、このIEC61400-1の地震条件評価の規定は、これを読んだからと言って、具体的に何をしたらよいのか、耐震設計に取り掛かれるようには書かれていないわけです。
使えないIECの規定を補うあの先生の研究
電安課の基準作り丸投げ先の専門家の先生も、IEC61400-1の地震荷重の足し合わせの不備を指摘し、自らそれを補う手法の研究に着手されています。
政治家、メディアの皆さん、電安課に目を向けて
今回のパブリックコメントで多く寄せられていた「地震荷重の足し合わせ手法」に関する詳しい質問は、上記の論文もIEC規定も両方とも読んでいる人たちによるものであることは、風力業界の人が読めば明らかです。
それにもかかわらず、電安課は「IEC61400-1(Edition 4.0 2019-02)を参照」というふざけた回答をしているのですから、非常に問題です。電安課が基準作りのイニシアティブをとらない代償が、審査に3年もかかる洋上風力のウィンドファーム認証プロセスです。世界に恥ずべき日本のお役所仕事です。
萩生田大臣、洋上風力を加速したいと真剣にお考えなら、入札ルール担当(エネ庁)をいじめるよりも、電安課をなんとかするほうが先ですよ。メディアの皆さんも、エネ庁だけでなく電安課にも切り込んでいただきたいものです。
コメント欄で教えてください
IEC61400-1にあの中途半端な地震既定を入れたのも、あの専門家の先生だという説は、本当でしょうか。だとしたら、これは日本の風力行政を弄ぶマッチポンプということでは?