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乞食と罵られる経験を超えて試行錯誤しながら育ててきた媒体との紆余曲折〜大分トリニータ公式有料コンテンツ「トリテン」のこれまでとこれからと
8月は暑さに加え天皇杯含む連戦があったりして、その上プライベートにおいてもちょっとした負荷がかかったのでnote書くのもすっかり御無沙汰してました。今回は本当は第22節のヴィッセル神戸戦に来場してくださったアーティスト・強さんのことを書く予定だったのですが、先に書いておいたほうがいいのかなと思う案件が発生したので、今夜はそちらを。
テコ入れがスタートしたのは2014年の終わり
J1・大分トリニータのオフィシャルサイト内には「トリテン」という有料コンテンツがあり、わたしがその制作を担当させていただいています。
現在でこそスマホ対応のデザインになっていますが、わたしが関わるようになった2015年当時はまだガラケーデザインのままでした。その時期、公式サイトの制作会社が新たに「株式会社デジタルファーム」に代わり、わたしにコンテンツ制作をオファーしてくださったのが、わたしがトリテンを書くようになったきっかけです。
デジタルファームは札幌を拠点とするIT企業ですが、現在も公式サイトを制作しているコンサドーレ札幌のみならず複数のJクラブとの取引実績があり、またかつては元日本代表選手のオフィシャルサイトも制作・運営していたりと、Jリーグ界隈の事情に明るく、ノウハウも持っています。その他の業界にも広く取引先があり、創業19年。移り変わりの激しい業界にあって大変頑張っている企業です。
引き継いだ当初は荒地状態だった
ただ、サイトの制作会社は交代したものの、当時のクラブはまだ経営再建の途上で、リニューアルする予算がない。とりあえずは現状のサイトをちまちまとマイナーチェンジしながら運営していこうということでスタートしましたが、他社の作ったサイトを引き継いでいくのは、なかなか難しかったりもどかしかったりという実情もあったようです。
ガラケー時代から有料コンテンツはすでにあって、その名も「トリニータ・モバイル」通称「トリモバ」と呼ばれていました。以前担当されていたライターさんが一身上の都合で退いたあとは、クラブ広報が忙しい業務の合間を縫ってぽつりぽつりと更新していましたが、まったく更新できない月もあったりして、事実上の開店休業状態。会員数も数百名という状態でした。それでも数百名が月額324円を払っていたというね…定額制課金方式のコンテンツって一度入会するとずるずる退会せずにいる人も、結構いるんですよね。
雨ニモ負ケズ、ミンナニ「乞食ライター」ト呼バレ
さて、「トリモバ」を任された仕事人ひぐらしのミッションは何か。
まずはコンテンツを充実させて月額324円にふさわしいクオリティーを実現し、有料会員数を増やしてクラブに利益をもたらさなくてはなりません。
まあ、書きましたね。試合プレビューとレビューに練習レポート、監督や選手のコメント、コラム、小ネタ。そしてそれをSNSで告知する日々。こんなの書いてますよー、読んでくださーい、よかったらもっと読めるように課金してね。当時はクラブ公式ツイッターも未開設だったので、自分の個人アカウントで告知するしかありません。
で、罵倒されました。「乞食ライター」って。現在でこそ「タグマ!」をはじめ多くの有料コンテンツが購読されていますが、当時は宇都宮徹壱さんとか西部謙司さん、杉山茂樹さんたちが有料メルマガから徐々に有料サイトへと移行しつつあった時期で、課金して記事を読むという習慣が、まだ根付いていなかったのです。トリモバの活性化はかなり早かったと思います。
システム運用費やコンテンツ制作費等の経費が必要なのだときちんと理解してくださっている読者の方々に支えていただきながら、あれはひたすら我慢の時期でした。寝る間を惜しんで書いても全然モトは取れず、廃業した同業者が最も多かったのもその頃だったかな。だからあの当時に支えてくださったサポーターの方々には、いまでもとても感謝しています。あなたたちがいたからこそ続いてきたんですよ。あの頃もう売ってるマッチで放火したい気分だったあたしを思いとどまらせてくれてありがとう(笑)。
しかし、それまでのほとんど更新がなかった時期には情報が有料で提供されていることに対するクレームなんて皆無だったのに、活性化した途端に「クラブもこんなのでちまちま稼ぎやがって」と言われはじめる矛盾。言いたいことは山のようにあったけど、ひたすら我慢していました。
「とり天」発祥の店は諸説あるが「トリテン」発祥は…
そんな中で公式サイトがようやく、スマホでもパソコンでも違和感なく閲覧できるデザインにリニューアルし、それとともに「トリモバ」も「モバ」ではなくなったということで、新たな通称をつけることにしました。「トリテン」の誕生であります。「トリニータ・スペシャル・コンテンツ」の略称というのは完全な後付けで、単純に大分名物「とり天」に掛けた、響き重視のネーミングでした。無事定着してよかった…。
しかし、初年度からいきなり試練のシーズン
本格的にスタートした2015シーズン、トリテンはいきなり試練を強いられることになりました。その年のトリニータはボタンを掛け違えたように不安定な戦いぶりで、J2第16節終了後に田坂和昭監督を解任。後任の目処も立てずに踏み切った人事で、1ヶ月も監督代理を続けた柳田伸明強化部長が結局そのまま収まったものの、J2・J3入れ替え戦で町田ゼルビアに敗れて敢えなくJ3降格。
その模様を日々、生々しく伝えなくてはならないのは針の筵状態でした。チームの調子が悪いと一部のサポーターは目につくものすべてに当たり散らしたくなるようで、チーム付きの番記者も格好のターゲットとなる。そしてそういう状況の現場では表では書けないことも山のようにあるものです。いっそ仕事でなかったら全部ぶちまけるのに。やらないけど。
当時中継のなかったJ3で求められたテキスト速報
そうしてやってきました、2016年J3。片野坂知宏監督就任でどん底のチームに光が射してきたものの、当時J3ではスカパー!の試合中継がなく、試合情報が流せない。じゃあどうするかといったときに「すべてのアウェイでテキスト速報をやれ」との司令が下りました。J3降格で緊縮財政状態のクラブに、テキスト速報要員を別に雇う余裕などありません。やるならトリテンで、わたしが汗をかくしかない。
ただ、わたしもJ3降格のあおりを受けて収入が半減しています。1年だけ耐えようと決意しての2016年シーズンの契約で、懐もさみしい。トリテン運営会社のデジタルファームが交通費を負担してくださることになり、全アウェイに行くことになりました。
ですが、テキスト速報をやっているとマッチレポート用のメモを取る余裕がありません。なので余計な情報も入り込んでしまうなー見づらいだろうなーと思いつつも、テキスト速報そのものをメモ代わりにしていました。本当はもっとシンプルに要所だけお伝えできればよかったのですが、やはり背に腹は変えられず。当然そのことでも叩かれました。自明の流れであります。
しかもJ3のアウェイスタジアムでは、J1との格差に愕然とするばかり。記者席に電源がないのは当たり前で、スタンドに会議机が置かれただけだったり、その会議机の脚が壊れていて膝で支えながら仕事したり、椅子に座ると前に座ったベンチ外の選手の頭でピッチが見えなかったり。いちばん悲惨だったのは机すらなくて膝の上に置いたスーツケースを机代わりにテキスト速報を入力し続けた試合だったかな。しんどかったけど、いまとなっては貴重な経験をさせてもらったと思っています。
2017年、トリテンTVがはじまった
2017年、J2に戻ってきてテキスト速報の必要もなくなり、ほっとしていた矢先のこと。ひぐらしをまた新たな試練が襲います。
クラブの方針でマッチプレビューとレビュー及びコメントを無料公開することになった一方で、有料コンテンツも充実させなくては有料会員を確保できない。ではどうするか。時代は動画文化。よし、動画をやろう。しかしまだ経営再建中のクラブには動画制作担当者を雇う余裕はありません、というデジャヴ。ではひぐらしやれ、という指令もデジャヴ。ひー。
自慢じゃないけど当時のわたしは動画ソフトをいじったことさえありませんでした。MacOSに付属のアプリも全然です。そんな手探り状態からスタートしたのが「トリテンTV」でした。通常の有料版の他に、シーズンパス販促告知やスポンサーさま絡みのネタなどはクラブ公式Youtubeで無料公開する場合もあり、現在までに制作した動画は有料無料あわせて88本。選手のみなさんの協力のおかげで、数々の記憶に残る名作が生まれました…。
運営費の都合で、動画は1ヶ月ないしは2ヶ月限定公開。みなさんはいくつ御覧になりましたか? いくつ覚えてますか?
トリテンTV、まさかのパンク状態に!
このトリテンTVが、思いのほか好評をいただきます。会員限定コンテンツなので内容的にもかなり攻めており、内輪ウケのオンパレード。選手の素の姿を垣間見せたり、選手同士のじゃれあいの様子を収めたり、ときには選手にカメラ目線で語りかけてもらったり、という具合で、一般公開されている他社さんの動画よりもだいぶ踏み込んだ内容に仕立てているのです。サポ歴の浅い人には伝わりづらい程度のハードルの高さが醸し出す内輪感が、会員限定のカタルシスを供給できるんですね。選手のみなさんもオフィシャルコンテンツだけあって、快く撮影協力してくれます。ありがたいことです。
ところがそんな選手たちのおかげと、J1昇格したチームの好調もあいまってトリテンTV人気が沸騰し、最近は当初想定していた再生回数を大幅に上回る事態が相次ぐことになりました。サーバーコストの関係で再生回数には限界が設定されており、それを超えると閲覧制限状態になってしまう。そのたびに再生回数枠を追加で再設定するのですが、この8月はなんと3回も閲覧制限に突入する事態に。さすがに3回目にはわたしも目が遠くなりました。
ええええええええええええええええええまたトリテンTV閲覧制限なのーーーーーーーーーーーーー?????
— Hinatsu Higurashi (@hinatsu_h) August 28, 2019
こないだかなりの閲覧数まで枠を広げてもらったはずなのに…どんだけ見られてるんですか。以前はこんなことなかったのに。
#トリテンTV閲覧制限 pic.twitter.com/7Njz1Mn1Wk
— Hinatsu Higurashi (@hinatsu_h) August 28, 2019
もう!この事態を!防ぐためには!
— Hinatsu Higurashi (@hinatsu_h) August 28, 2019
誰も見たくないような動画を作るしかない!!!!!#でもどうやって
…錯乱してましたね(笑)。
トリテンは有料コンテンツなので、閲覧できない状態というのは絶対に避けなくてはなりません。が、運営計画もあるでしょうし(外部制作スタッフのわたしには詳細はわからないのですが)、即時対応できるものでもない。
そもそも数年前から、ターゲットや内容、更新ペース、有料にするか無料にするか、どのような手順を経て更新するかといった実に様々な議論や試行錯誤を重ねに重ねてきて、現在に至っています。ハード面の調整だけで二転三転した末の現状です。そうやって築いたものの想定を大きく上回る視聴数が叩き出されているわけですから、うれしい悲鳴と表現するべきなのかもしれませんが、とにかく早急にこの状況を改善しなくてはなりません。
もとより公式サイト全体のリニューアルも含め、近日中にインフラの見直しを行う予定だったようなので、そこに期待したいと思います。
媒体を育てるということ
しかし、おかげさまで2015年にわたしが引き継いだ時点からは比べものにならないくらい、現在は有料会員数が増えました。会員の方々はもちろん、取材に協力してくださる選手やスタッフたちにも感謝です。
チームがJ1で戦うようになった今シーズンは媒体として注目されることも増え、サポーターだけでなく解説者、サッカーライター、戦術クラスタといったみなさまからもツイッターなどで言及していただくようになりました。
[試合レポート]全員で遂行した“アラバロール封じ”。勇者×2+完封で今季リーグ戦3勝目
— 戸田 和幸 (@kazuyuki_toda) March 19, 2019
クラブの公式サイトでここまでのレポートが出せるのは凄い事です。
昨晩試合を見ましたがシステマチックな中にもテクニック・判断・そして何より主体性を感じる素晴らしい内容でした。 https://t.co/I9qYMWQht9
大分トリニータの公式のマッチレポートがとても良い。戦術面の狙いを書く事でサポーターに目指す姿を示せるし、何が出来て何が出来てないかを一緒に考えられる。上手くいった時のチームとサポーターの一体感高まり凄そう。感情面の共有だけでは出せない世界。素敵。 https://t.co/IJPUoy3y0X
— カブスキー👀 (@frontaleeeeee) March 20, 2019
片野坂トリニータ、戦術・プレーの評判通りの質だけでなく公式の試合レポートの質の高さにも驚きました。的確。
— 五百蔵 容 (@500zoo) March 19, 2019
[試合レポート]流れを引き寄せ狙いを遂行。相手の退場にもバランスを崩さず勝点3をつかむ | 大分トリニータ公式サイト https://t.co/aBiE404Yzl #trinita #トリテン
大分の公式HPにあるレポート。是非ご一読を。クラブがここまで情報オープンなのは画期的ですが、書き手の理解度と原稿に対してクラブから信頼があって出来ること事ですよね。幸せな関係。そして、そんなクラブを応援するサポーターも幸せなんだろうな。 https://t.co/Xggo8ytsmA
— 飯竹 友彦/ライター,カメラマン (@tomo2take) March 19, 2019
大分トリニータの公式サイト「トリテン」がようやく話題になってるけど、2015年からすでにこのスタイルの有料サイト運用が始まっていて、注目度皆無のJ3時代も今と変わらないクオリティーの記事が読めたので、戦術ブログの流行とは異なるどころか、だいぶ先駆けた流れにあるのは主張しておきたい(笑)
— 竹内達也⚽️📝 (@thetheteatea) March 19, 2019
つい4年前まで「乞食ライター」と呼ばれながら地を這うように取材して書いていた媒体ですよ。時代は変わるもので、そしてそんな日が来ることなんて全然信じていなくても、ただひたすらブレずに続けていればきっと積み上がっていくものはあって、評価してくださる人も現れてくるのです。
この「トリテン」という媒体は、わたしにそれを体験と体感をもって教えてくれました。日々取材させてくださった片野坂知宏監督のチームとともに育ってきた媒体でもあります。スタートした2015年に田坂和昭監督のチームをもっと後押しできなかったことが悔やまれもする。
そしてトリテンを育てたのは、クラブと、チームと、運営するデジタルファームはもちろんですが、読者のみなさまでもあります。トリテンTVの閲覧制限の際にみなさんが寄ってたかってアドバイスをくださったりするのもこの媒体ならでは。それは大分トリニータが過去に財政難に苦しみ、みんなでそれを乗り越えてきた、血の通った日々が自然と作りあげてきた雰囲気によるものなのだろうと思っています。
チームがJ1に昇格して、経営再建が終わり、クラブがさらなる成長を見据えている現在、もしかしたらトリテンも、いままでのようなアットホームでハートウォーミングなものではなく、より大きな規模を目指すクラブにふさわしい雰囲気のものへと変わっていかなくてはならないのかもしれません。
これからどうなっていくのかな。出来ればもう少しこの場所でこの媒体を育て続けてみたいけれど、わたしも名前のとおり、その日暮らしのフリーランスのライターです。明日の保証はなく、突然クビになるかもしれません。だからわたしが必要としてもらえるあいだは、という限定つきですが、これからも、ここまで大事に育ててきたトリテンを、発展させるお手伝いが出来たらいいなと思います。
乞食と呼ばれたときも、J3降格したときも、初めておそるおそる動画アプリを操作したときも、寝落ちしながら原稿を書いた夜も、いつも「クソッタレ!」と歯を食いしばってやってきました。それが原動力だった。という締めで、これで次回こそガッツリと強さんの記事が書けますね。お待ちを。
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