一生傷
子供の頃の私はよく転ぶ子だった。三半規管が未発達なことに加えて運動神経のなさとバランス感覚の欠如が災いして、ちょっとでも走ったりするとすっころんだ。小学生の体育の時間にグラウンドで走って転んだとき、小さな石の混じった地面に叩きつけられひどく膝を擦りむいた。半ズボンで剥き出しになった素足の上で砂が血で固まり泥になっていた。慌てて先生におぶられ保健室に連れていかれ、すばやく手当てをうけた。水道で傷口の砂を洗い、しみる消毒液を吹き付けられ、大げさなほどでかい絆創膏を貼られた。
「跡が残るかもしれないね」と保健室の先生は言った。続けて、「でも顔はなんともなくてよかった」とも言った。
「どうしてですか?」と私はきいた。保健室の先生は四十代ほどの女性教諭で、優しいけれど気の弱そうな笑顔を浮かべる人だった。
「顔は目立っちゃうからね。女の子で顔の傷は苦しくなるわよ」
「私は気にしません。もともと顔はよくないし、結婚にも興味がないのでモテなくてもいいです」
女教諭は困ったように微笑んだ。「いまは平気でも、我慢できないときが来るかもしれない。世界中の鏡を割って、だれとも会わないようにしても、忘れられない。傷を一番見ているのは自分の目よ。自分で自分を許せなくなるの」
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