連載小説「この夏が終わらなければ」第一話
学校から帰ると庭におばあちゃんがいた。玄関のすぐ横にある犬小屋の前でしゃがんでいた。
おばあちゃんがケンタにご飯をあげているのだと思った。ぼくはただいまと言った。おばあちゃんと、ケンタに聞こえるように言った。ケンタはぼくが帰ってくるといつも元気にすり寄ってきた。大きいくせに甘えん坊で、かまってあげると飽きることなく喜んだ。この頃は夏の暑さでバテたのか、春ごろと比べると元気が減っていたが、ぼくが帰ってきたときは変わらず熱烈な歓迎をしてくれていた。
おばあちゃんはぼくに気付くと振り返った。おばあちゃん越しに犬小屋のなかが見えた。でもそこにケンタはいなかった。
おばあちゃんは線香を持っていた。犬小屋の前に庭の土で作った小さな山があり、そこに火のついた線香が刺さっていた。おじいちゃんの仏壇に供えている線香と同じものだった。
「ミナトも手あわせえ」おばあちゃんが言った。
「荷物たくさんだから置いてからくるね」とぼくは言った。終業式でいつもの倍は持って帰るものが多かった。工作で作った立体迷路を机の上に置いて、ぼくはおばあちゃんの言ったことの意味を考えた。ほんとうは考えるまでもなかった。でも、ぼくは考えた。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?