まったくもう、という顔
電車に乗りこんで駅のホームを見るともなしに見ていたら、電車のドアが閉まる間際にぼくの乗っている車両に駆け寄ってくる女の人がいた。その人が黄色い点字ブロック(点字ブロックについて語るとき「黄色い」という副詞をわざわざつけてしまうのは駅のアナウンスの刷り込みのせい)の前まで走ったところでドアが閉まった。その人は走っていた足を止め、点字ブロックの内側まで下がり、髪をかきわけ、まったくもう、という顔をした。
その一連の仕草がなんだかとっても演技的だった。もしもぼくが映画監督で、オーディションの課題として電車に間に合わず苛立つ女を演じてくださいとその人に伝えていたとして、そしてその人がさっきの通りに演じたとしたら落としてしまいそうな、そんな演技くさい仕草だった。
いつか小説に使えそうと思ってこういう風景をいちいち覚えています
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