ファンタジーの浅瀬 第8回 シェーラひめのぼうけん

闇があるところには光もある
シェーラひめのぼうけん 村山早紀


 ライラは、それが良いと思いました。微笑みが、浮かびました。
 もうずっと長いこと、大好きな姫君に、とっておきの贈り物をしたいと思っていたのです。

村山早紀「愛蔵版 シェーラ姫の冒険 下」2019年  287P


第8回は名作アラビアンナイト風ファンタジー「シェーラひめのぼうけん」
かつてフォア文庫から全10巻出ていました。図書館版というハードカバーのものもあったようです。
今は童心社から加筆修正された「愛蔵版 シェーラ姫の冒険」上下巻が出版されています。今回読み比べしてみましたが、フォア文庫ではひらがなだった部分の多くが漢字になったほか、ファリードやサウードが使う魔法の呪文が少し長くかっこよくなっているのが主な加筆部分です。佐竹美保さんによる挿絵が少ないのが残念なところ。(フォア文庫版は1冊につき30枚ほどの挿絵がありました。すごい……)

シェーラ姫の冒険 愛蔵版 :村山早紀/佐竹美保 - 童心社 (doshinsha.co.jp)
フォア文庫版 シェーラひめのぼうけんシリーズ :村山早紀/佐竹美保 - 童心社 (doshinsha.co.jp)

シェーラひめ。指輪を掲げて長文の呪文唱えたら魔神が出てくるの良すぎ


シェーラひめは勇敢でかわいい怪力のお姫さま。

王国にかけられた石化の呪いを解くため、"七つのかぎ"と呼ばれる魔法の宝石を集める旅に出ます。
旅の仲間は、シェーラひめの幼馴染の魔法使いファリードと、ナイフ使いの少年ハイル、そして虹色月長石の指輪に宿る最強の魔神アルフ・ライラ・ワ・ライラ。(それから空飛ぶ魔法のじゅうたん!)
1000年前あちこちの国に預けられたという宝石を求めて、3人は廃墟になった都や消えない霧に包まれた島、飛行都市など砂漠の世界中を旅してまわります。
ところが、王国に呪いをかけた悪の魔法使いサウード錬金術師のハッサンも宝石を集めているのです。
シェーラひめたちは三人とも戦えて勇敢で賢くて、無敵のライラや魔法の地図の助けもあるけれど、子どもは子どもですからなかなか大人たちに敵わないことも多く、旅は困難です。
それでも、真っ直ぐで明るくて誰よりも頑張っているシェーラひめを、旅で出会った人々は助けたくなってしまうのです。

今回久しぶりに通しで読みましたが、今読んでも超面白い!!!!
これ本当にみんな読んだ方がいいよお……
わたしのシチュエーション萌えの源流は、だいたいここにある気がします。

いつの間にか幼馴染の少女の背を抜いていた少年も、それぞれに癒えない悲しみを背負いながら笑う強さも、人とはかたちの違う人外の愛情も、美形で妙に真面目な悪役の良さも、物語が始まる以前に死んだ女もぜーーーんぶシェーラひめで読んだ!!

伏線回収の楽しさを知ったのもここかもしれないです。
アニメ化してくれ!! って20年言ってる。キャラデザも超かわいいし、飽きさせない作りをしているし、向いてると思うんですよね。2クールくらいでオリジナル回も作って、木曜夕方6時とかからやってほしい。誰か……

故郷を石に変えられたシェーラひめはもちろん、ファリードもハイルも、登場人物はみな心に癒えない悲しみを抱いています。
みなというのは、名前がある人物の八割方くらいそういう描写があるということです。
旅の途中にも、悲しいつらい出来事がたくさん起こります。
それでもこの作品の印象が明るく楽しい冒険物語であるのは、言ってしまえばシェーラひめが強いからなのでしょう。
光があるところには影があると言うけれど、逆もまた然り、どんなに深い闇の中にも光はあるのです。シェーラひめが主人公たる所以は、この光を見つけるのが上手だからだと思います。でも、本当は誰でも光を見つけることができるはずなのです。

もちろん世界の命運を左右するような話もそうなのですが、細かいところで言うと、ハッサンとかもそうですね。

 盗賊だったという過去はいまさら消すことはできません。人の手で変えることができるのは未来だけです。だからハッサンは”偉い人”になろうと思いました。誰からも尊敬されるような偉い人にです。

村山早紀「愛蔵版 シェーラ姫の冒険 上」2019年  97P

過去を知られたハッサンは妻に逃げられ、それから七年(!)もの間錬金術を勉強・研究し続けています。妻に言えない過去があった、どうせ自分はそういう人間だ……と腐らずに、じゃあどうすれば顔向けできるようになるだろう? と考えて実行してるの、控えめに言って偉すぎ。
これは子どもの頃にはわからなかった良さだなあ。

新シェーラひめのぼうけんもおすすめですよ。こちらはもうちょっとシリアス度高くて難しめのお話だけど。

お客様の中にファリード(32歳)について語れる人はいませんか!!

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