ファンタジーの浅瀬 第3回 ワンダと巨像

 ちっぽけである安らぎ
 ワンダと巨像


「だがその代償は重いかもしれんぞ……」
「覚悟の上だ」

ワンダと巨像 ソニー・コンピュータエンタテインメント 2005年


第三回はアクションゲーム「ワンダと巨像」
プレイステーション2専用ソフトです。PS3版(HDリマスター)、PS4版(リメイク)、それぞれ廉価版も出ています。
今買うとしたらPS4のDL版が入手しやすいと思います。
私PS2版を二十周くらい遊んだんですけど、やりたいタイミングでセールしてたからPS4版も買っちゃった。
ワンダと巨像 Value Selection (playstation.com)

ワンダ。リメイク版は蝶が目立つ

かつて人がいた痕跡のある、自然に溢れた古えの地(「古え」の「え」が、日本語的には間違いだけど格好いい。いいんですファンタジーだから)。
ここにいる人間は、主人公ワンダと、いけにえになった少女だけ。

目的は少女の魂を取り戻すこと。

その為には十六の巨像を討ち倒さねばならない。
いわゆるザコ敵はおらず、ただ世界とボス戦だけがある、シンプルかつ尖った構造のゲームです。

この少女がワンダにとってどんな存在だったのか、語られることはありません。
十六の巨像の正体や、少女が何故いけにえになったのかもわかりません。
テキスト自体が最低限しかないので、ほとんどの出来事はプレイヤーの想像に任されます。

でもこれだけでシチュ萌えじゃん!?!?!?!?



美しいビジュアルと環境音、異様に上手い振動機能の使用によって、巨像に生えた湿った苔の感触や馬の体温の高さ、雨に濡れる森の匂いまで、古えの地を五感で感じることができるのです。

美しくシームレスな3Dマップを馬でうろつけるというだけでもかなり嬉しい!

馬のアグロの挙動も素晴らしい。
普通の乗馬をはじめ、口笛で呼ぶ、流鏑馬、曲乗りなど様々な操作ができますが、あくまで操作しているのはワンダなので、方向を変えるのにタイムラグがあったり、アグロが崖っぷちを走るのを嫌がったり、なかなか思い通りにはいきません。
でも、あちこち散策しているうちにプレイヤーは馬の扱いが上手くなっていきます。アグロは賢いので、手綱を離してアグロの行きたい方へ向かわせることもできます。息の合った動きができるとめちゃめちゃ気持ちいいです。

ワンダは馬ゲー。


思い通りに操作できないのは、実はワンダも同じです。
足元が悪ければ上手く走れないし、剣の振るい方もぎこちない。ジャンプも下手だし、地面が揺れればあっさり転ぶ。重い攻撃を受ければしばらく動けなくなる。
何故かといえば、そもそも身体って自由ではないものだからです。たとえプロのスポーツ選手だとしても、揺れる壁にいつまでもしがみついていることなんてできないし、砂漠を走るのは難しいことでしょう。
そしてこの肉体のままならなさこそ、没入感の正体であり、ワンダのもどかしさの表現でもあります。それを後押しするように極端に少なく作られたUIもまたいいんだな。

R1ボタンで巨像にしがみつく時、巨像の弱点を思い切り突き刺す時、本当にワンダと一体化したような感覚を覚えます。
汗で滑る手で剣(コントローラー)を握りしめ、歯を食いしばり、足に思い切り力を入れて、ちょっとした建物サイズの巨像にとどめを刺す。
爽快というよりはほっとするような、ひどくくたびれてベッドに横たわった時のような感覚。

寂しい時って寂しいゲームをしたくなりますよね。なるんです。
そういう時、ワンダは最適です。

例えば季節外れの海に行ったり、人混みの中に突っ立ってみたり、あるいは宇宙に思いを馳せた時に、自分はちっぽけで無力だとなぜかほっとする気持ち、あの感覚がこの作品にはあります。

それはそれとして超でっかい相手と戦うのめっちゃ楽しい!!馬めっちゃかわいい!!曲すげーいい!!

(音楽は大谷幸さん。「灰羽連盟」の音楽が好きな人は是非サントラだけでも!)


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