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料理に愛情を込めるって何? という妻の問いへのベストアンサーだったはず
夕食後、食器を洗っていると妻が、
「料理における愛情って何かね?」
とつぶやいた。
「おいしさのために手間を惜しまない、というのであれば」
僕が答える前に、彼女は独り言のようにさっきの問いを補足した。
「それはプロの技と何が違うのだろう」
彼女はさらに続ける。
「愛情によって物理的な、あるいは化学的な変化が、料理に起こるとでも? 例えば、AさんとBさんが全く同じ工程で同じ料理を作るとして、Aさんは愛情を込め、Bさんは込めない場合、二人の料理は同じではないのかしら。いえ、愛情を込めるって具体的にどんなことかわからないんだから、Aさんは本当に込めたのか、Bさんは本当に込めなかったのか証明できず、この比較は成り立たない」
彼女はそこでこの問いを放り投げたのか、鼻歌を始めた。
しばらくそれを聞いて、僕はやっと発言した。
「さっき、作る予定のなかったポテサラを作ってくれたでしょ」
「ああ、うん」
「愛情ってそういうやつだよ」
「そっか」
「うん」
「きれいにまとめられてなんだか悔しい」