<起業家 VC 対談> 起業家の二度目の挑戦に「また出資して欲しい」と言われることの重要性
起業→ピボット→M&Aを経て、ただいま2回目のチャレンジ(再起業)!
服部:山崎さんには今回二度目の出資となりますが、これまで公私に渡り長い付き合いですね!(笑)
山崎:服部さんに投資していただくのは今回の起業で2回目です。1回目は株式会社アールキューブという「結婚式のスタートアップ」を経営していた当時、服部さんはSMBCベンチャーキャピタルに在籍中で、担当として出資していただきました。2006年、私が23歳で作った会社ですが、紆余曲折あってピボットしました。初めは、イベントにミュージシャンを派遣する事業で、派遣先の一つに結婚式場がありました。当時の相場が結婚式に300万円。とても高いなと感じてしまって。当時、毎年10万組ものカップルが結婚式を諦めていることを知り、何とかできないか?と考えました。約半額の150万円で結婚式を挙げられるサービスをつくりました。それが2011年くらいでした。
服部:僕がアールキューブに出資させていただいたタイミングでは、事業拡大フェーズに入り上場に向けて準備している時期でしたよね。
山崎:はい。直前期まで進行していましたが、その間いくつかの企業からM&Aのオファーがあり、くふうカンパニーの穐田(あきた)さんからも「一緒にやろう」という声をかけてもらっていました。「みんなのウェディング」がくふうカンパニーグループにいたので、メディアとサービスが一緒になることで、より大きなビジネスになっていくと。上場することよりも、大きな事業が展開できると判断しました。結婚式を諦めている人たちがいなくなる時代を作るために、グループ入りを決めました。
服部:くふうグループ入りしてから、「アールキューブ」と「みんなのウェディング」の2社の社長を兼任、2020年に任期満了に合わせて退任しましたよね。その後も連絡は取り合っていましたが、読者のためにも何をしていたのかを教えていただけますか?
山崎:服部さんにご紹介いただいたスタートアップもそうですが、個人でいろいろなベンチャー企業に出資していました。またアドバイザーや顧問をすることも多かったのですが、サポートする側よりも、やはり自分で何かをやっていきたいなという思いが生まれてきまして……。「次は何をやろうかな」と考え始めていました。コロナ禍だったこともあるのか、SNSの誹謗中傷などで自殺してしまった方や人が人を傷つける行為が盛んに報道されていて、「本当に人間にとって幸せな社会とは何だろうか?」ということをいつも考えていて。デジタル化が進み、AIがどんどん発展していく。色々なことができるようになって、効率的で、世の中は便利になっていくけど、頑張ってる人を攻撃したり、悲しいニュースも毎日のように目にする。もはや人間の心が対処できない限界まで来ているんじゃないかと。本当に一人ひとりが生きやすい世界をつくりたいと思い、2023年6月に株式会社チッピーを創業しました。
コロナ禍で考えた、「ありがとう」を伝えるサービス
服部:ここだけの話、今回のチッピーを起ち上げるよりもかなり前から、僕は「次は何をするのですか?」と聞いていましたよね(笑)。
山崎:服部さんには、自分でまた挑戦したい気持ちがバレていましたね。みんなが生きやすい世の中の実現に向けて、人の良い面や優しさをたくさん引き出していけるサービスを考えて、「Chipee(チッピー)」を作りました。
服部:Chipeeのサービスについて、教えてください。
山崎:Chipeeは法人向けのサービスからスタートしています。町にある飲食店や美容院などのお店、施設でお客さんやユーザーが「ありがとう!」「応援しているよ!」といった応援や感謝の気持ちをスマホ1つで届けることができるサービスです。今の時代働いてる中で褒められたり感謝されることが少なくて、むしろ誹謗中傷やクレームがSNSや口コミサイト等に書かれてしまうことも多い。ポジティブなメッセージによって、従業員のモチベーション向上につなげていくということと、AIも活用してお客様の応援の声から、サービスの改善、従業員の評価など、企業の課題解決につなげる、そんなサービスです。
服部:最初のラウンド後ももちろん試行錯誤はありますが、最初は主にサービスよう従事者を対象にチップを送るという「チップ送金サービス」をしていましたよね。
山崎:実は、試験的にギフティングを前面に出してサービスを作ったのですが、一度は興味本位から使ってくれるのですが、二度目、三度目とリピートさせていくことが非常に難しくて……。日本の生活に馴染んでいくには、めちゃめちゃ大変だなと感じました。もともとチップ文化を日本に広めたいわけではなかったので、「今日も美味しかったですよ!」「親切にしてくれてありがとうございました!」というような、シンプルに感謝のメッセージを送る、というスタイルに変更しました。でもメッセージの後に追加でギフティング(チップ)をすることも今もできますよ!
服部:チップの送金の方法について教えてください。
山崎:企業によってチップ機能のON/OFFは選べるのですが、ONにした場合はユーザーがメッセージを送った後に、「チップを送る」というボタンが出てきますので、そこから送ることが出来ます。さらに、Googleマップにも口コミを投稿する、というボタンも設置できます。現在、Googleマップの口コミがすごく重要になってきています。飲食店の口コミサイトで検索するよりも、Googleマップで飲食店を探す人が増えてきているのは実感しています。特にインバウンドの皆さんは、ほぼ全員Googleマップだと思います。Googleマップは自動で翻訳されるので、訪日外国人がレストランだけでなくお店を探すときにはみんな使うのです。
服部:Googleマップにある情報や口コミはとても重要なのですね。でも、お客様がチッピーにメッセージを書く動機は何になるのですか? インセンティブはあるのですか?
山崎:インセンティブはありません(笑)。割引とかクーポンの発行などはしていません。「返報性の原理」といって、人から親切にしてもらったり好意を受けた時に「お返しをしたい」と思う人間の心理があります。「ありがとう」と言われた後に、「こちらこそありがとう」と言ってしまいますよね。先に企業から思いをきちんと伝えることで、お客さんも思いをお返ししようと、そういう心理を活用する等の工夫でインセンティブなしにメッセージを集めています。
服部:チッピーは飲食店で働いているスタッフ、例えばAさんやBさん個人宛にメッセージを送れるのですか。
山崎:はい、スタッフ登録をしてもらっているお店では、送りたいスタッフを選んで送ることも出来ます。例えば、美容室の場合、働いている美容師をスタッフ登録してもらうと、お客様は自分の担当美容師を選んでその方にメッセージを送ることができますね。業種にもよるとは思いますが、担当者がついていたり、スタッフの名前や顔が良く知られているお店などは、そのようなユースケースも多くなってくると思います。
服部:僕は特に、郵便や配送物を届けてくれた配達員さんなどにも感謝の気持ちを届けられたりしたら良いなと思いますし、そう考えると対象となる方々は多岐に及びますよね。
山崎:運送会社さんにもゆくゆくはサービスを導入していきたいと思っています。天気の悪い日とか、重い荷物を注文したときとか、配達員さんにお礼したい場面ってよくありますよね!
「結婚式を変える」から、「世の中を変える」へ!
服部:チッピーはずっとテストを重ねてサービスを改善しつつ最近、法人サービスを最近リリースしましたよね。テスト導入における、チッピーの成功体験を聞かせてもらえませんか?
山崎:ちょうどこの対談日に法人サービスをリリースしましたが、これまで全国約100店舗でテスト運用していました。石垣島にある居酒屋さんでの例ですが、1ヶ月で約50件の応援や感謝の声が集まってました。メッセージの大半が週末に居酒屋で開催されていた三線ライブに言及していました。「三線がすごく良かった!」と。あまりにもその内容が多いため、お客様がこんなに喜んでくれるのだったら、週末だけではなく、平日も三味線ライブをやろうとなり、毎日ライブが開催されるようになりました。小さなことかもしれませんが、こういった日々のユーザーの声によってリアルタイムで、すぐに事業の改善につなげられるということが、様々なお店で発生しています。
服部:企業の行動というか、飲食店側の戦略自体が、「お客様の声」で変わるのですね。
山崎:店内にあるQRコードからリンクを読み取って、メッセージを送るという極めて簡単な仕組みになっていますが、応援や喜びといった非常にポジティブな思いが相手にしっかりと伝わっていく。これが人の心を動かしますし、ちゃんと企業の課題も解決できる。まだ走り始めたばかりではありますが、目指している世界に近づいているイメージはあります。
服部:感謝の声や応援の声が集まれば、スタッフの人たちも楽しく働くことができ、サービスもどんどん良くなる。いい循環が生まれますね。飲食店以外にも、テスト導入はしたのですか?
山崎:飲食のほか、フィットネス、美容院、療育・就労支援などでも「Chipee」を利用してもらっています。就労支援のスクールでは、「本当に人生が変わりました」という熱いメッセージが、療育では「出来ないことが少しずつ出来るようになりました」とお母様から感謝の思いが届くことも。僕らもメッセージを見て、涙ぐんでしまうことも良くあります。働いてるひと、頑張ってる人へ、感謝のメッセージが届くこと。どんな業界でも、どんな世界でもすごく大事なことだなと思っています。インターネットの世界だと誹謗中傷などのネガティブなことが強調、フォーカスされがちです。でも一生懸命に働いている、頑張って生きている人たちは眼の前にたくさんいて、褒められたり感謝されることによって励まされ、やりがいにつながると思っています。それにより、また頑張ろうという動機が生まれ、また良い価値を提供できる、そういう思いやりからはじまる循環を生んでいきたいのです。
服部:自分では、感謝の気持ちを伝えているつもりだけれど、もしかしたら、伝わっていないこともあるかも……と思いました。Chipeeはお店だけではなく、自治体などの地域のプロジェクトにも積極的に関わっていますよね。
山崎:お店だけではなく自治体や地域とも連携してプロジェクトを進めています。一つは北秋田市にある秋田内陸縦貫鉄道の「秋田内陸線」のプロジェクトです。旅行で訪れた方や、地域住民の方から応援のメッセージと車両へのギフティングによって、つながり生んでいこうというチャレンジが動いています。また大分県の別府市の花火大会のプロジェクトにも関わっています。物価の上昇によって、花火の原材料、警備員さんの人件費など、全体的にコストが上がっているのが実情です。受け継がれてきた文化を遺していくうえでの多くの地域が抱えている課題だと思います。この取り組みも、観光客や地元住民からの応援のメッセージが主目的ではありますが、一定数ギフティングが発生すれば、新たな収益チャンネルとして期待できるという今までにない取り組みになります。
服部:僕が今回も投資させてもらった理由は、「山崎さんがまたやるなら!」に尽きるんですよね。山崎さんの前職、アールキューブ時代からお付き合いさせてもらっていますが、売却後もコミュニケーションを取り、長く関係を築けてきたのも大きい。今回のチャレンジもアールキューブからの地続きと捉えています。サービス提供ユーザーの対象が結婚式から、世の中へと変わりより大きな市場、かつ人生を賭けてチャレンジされる山崎さんの意気込みを聞いた際に、ぜひ投資したいと思いました。二度目のチャレンジでもこうして最初に、声をかけてもらえることこそ、キャピタリストとして意義があることだと感じました。山崎さんの数ある魅力の1つのうち「仲間作り」の能力は、人としてはもちろん、起業家として強い部分だと思うのです。「Chipee」にはアールキューブで一緒に働いていたメンバーが集まっていて「社長がやるならやるに決まっている」っていうのは、さすがです! 社員だけではなくて、投資家もお客様すら巻き込んでいかねばならないスタートアップに、「人に好かれる才能」を持つ経営者は必要不可欠ですから!
山崎:服部さんをはじめ、投資家やVCの皆様に僕たちの事業に共感していただくことはすごく嬉しいです。ただ、前例のないビジネスなので、新しいカルチャーを社会実装していくために頑張っています。弊社のサービスにご興味がある方は、是非こちらからご連絡ください。
服部:山崎さんの人生を賭けた二度目の挑戦を、最初の投資家として「Chipee」に投資・支援させてもらえたのは、嬉しかったです。これからも全力で応援いたします。本日はありがとうございました。