Nikki Glaspie インタビュー
9月17日にストリームされたインタビューシリーズ、WIM Chat #47 with Nikki Glaspieの翻訳をお届けします。
インタビュアーはWomen In Music JapanのAine Fujiokaです。
Nikki Glaspie
ビヨンセが結成した女性だけのバンド、Sugar Mamaに始まり、Dumpstaphunk、Maceo Parkerなど多くのバンドでファンキーなグルーヴを支え続けているドラマー。
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Aine (以下A.): 人種差別への関心を呼びかけるプロジェクトでイベント: Justice Comes Aliveをしたり、ミュージックキャンプなどにも多く関わっているけれど、ずっとそういう事ををしようと思っていたの?
Nikki(以下N.): ここ数年ミュージックキャンプに音楽講師として参加して来たけれど、今年はオンラインで開催したよ。The Nth Powerというバンドとして愛・平和・癒しなどをメッセージとして伝えたいから、それを若い世代に伝えて、教育という形でも渡していきたいんだ。
今の時代はテクノロジーへのアクセスが自分達が子供だった時よりも多いけど、人種的な問題などが深刻になっている中、それらをどう解釈すればいいのかわからない子供達が多いと思ってる。子供だけではなく、あらゆるオーディエンスにポジティブな影響を与えられる音楽を届けたいし、そういう存在でありたい。大人になるにつれ、そういう教育やエンパワメントの大切さに気がついてきたし、音楽を通してそれが出来ることを改めて確認しているんだよね。
A : ずっとこういう社会的な目的を持って音楽をやってきたの?
N : どちらでもあるかな。音楽を始めた時からずっと"メッセージを伝える"という意図を持って演奏してきてる。更に、仕事として音楽をする中で、音楽の内容が暴力やお金についてだけだったり、演奏している人達、ミュージシャン・プロデューサーが良い人ではなかったり、そういう経験をする中で自分の意図がもっと明確になってきたんだよね。高校生の頃は外科医になりたいと思って勉強していたほど、人の役に立ちたい、人を癒す仕事をしたいと思っていたんだ。実際に仕事としてそれをスタートするにはものすごく時間がかかるということに思い至った時、今まで自然に生活の中に入り込んで当たり前になっていた、「音楽が人を癒す」力で同じように人を助ける事が出来ると気がついたんだよ。そしてキャリアを積む間にその想いがもっともっと強くなっていったから、一緒に演奏しているミュージシャンやその音楽がどういうメッセージを伝えているのかというのを気にするようになっていった。そして意見が違うと思った時にはそこを去ってでも自分の思う「愛を根本にしたメッセージ」を伝えるプロジェクトをしなければと思った。お金や車や家を手に入れる事だったりアルコールやドラッグのことばかりを歌っている、現在のポップス業界でありがちな歌に加担するのはイヤだから。
A : 何でそんな風な歌ばかりが流行るんだろうか。
N : そこには自分達よりも大きな、この世界をコントロールしようとする大きな力が働いているんだよ。こういう音楽を強調して売り出し、モノばかりに自分達の意識を向かわせることで、人々は自分の事をケアしたり自分について考えたりする事を忘れてしまう。そうすれば彼らは我々をコントロールしやすくなるからね。でもだからこそ音楽はとても重要だ。音楽がそういう悪い目的にそんなにパワフルに使われているのを自分達は目撃している。音楽が人々にそこまで大きな影響を与えられるという事が明確なら、それをポジティブな方向に使う事だってもちろん可能なはずでしょ。
A : 音楽業界の最前線で演奏し続けているニッキーのような存在がこうやってあらゆる場面で発言していることはとても良い影響力を持つと思う。
N : 昨日読んだ、Dave Mathew Bandで演奏するJeff Coffinのポスト*では、「ミュージシャンが何か政治的な発言や行動をしたりすると、絶対に『ミュージシャンに何がわかるんだ。音楽だけやってろ』というコメントがある。でもビートルズに始まって多くのミュージシャン達はその時に起きている個人的なことや社会的な事に対しての自分の気持ちを表現してきたし、それがミュージシャンとしての自分達の仕事だ。そして『音楽家は音楽だけやってろ』という発言はそもそも音楽が何であるかを理解していない。」と言ってた。音楽というのは自分の気持ちやメッセージを伝えるものであり、ミュージシャンはそれを広めていかなきゃならない。そしてミュージシャンは、自分達のやるべきことや自分達の仕事は重要なものであり、自分達の表現や発言はとても価値のあるものなんだと自覚していかなきゃいけない。音楽は歴史にまで影響を与える力強さを持っていることは証明されている。平和への運動やデモ、ベトナム戦争や内乱の時に人々に勇気を与えた、メッセージを伝えた音楽がどんだけある?
A : 『音楽家は音楽だけやってろ』発言は日本だけの問題だと思っていたから、アメリカでもそれはあって、同じ問題に立ち向かって考えている人達がいると知れたのはとても嬉しいな。
N : 多くのミュージシャンはこういう事を考えるのを忘れてしまっているよね。その前にキャリアで成功しなければいけないから。有名でお金持ちになるために。でもそれは音楽の本質的な目的ではないよね?
現在のロックダウンの状況はとても大変だけど、だからこそ、本当の意味でのアーティストではないミュージシャン達は淘汰されてしまうと思っている。自分はただ楽しいから音楽をやってるんじゃない。愛の為に、音楽への愛、愛から出るメッセージを伝える為にやっている。だから今の状況が緩和されて演奏やツアーが出来るようになったら真っ先に演奏しに向かうよ。今だってこの後すぐ練習するつもりだしね。ほら、今スタジオにいて横にドラムあるから、準備万端だよ。
でも、今起きていることには理由があるはずだから、今、焦ったりはしない。時間をかけて集中して自分の創作活動に専念しているんだ。
A : BLM(Black Lives Matter: 黒人差別への抗議運動)について。ニッキーはフェスティバルやトークセッションをホストしたりと活動的だけれど、日本の人達はどう考えたら良いんだろうか?これは人種問題ではなく人権問題であって、全ての人はこれに関して「自分がどう思うか」を考えるべきだと思うんだけど。
N : その通り。人間の問題であって、人種によって人を分けようとする意図が動いているのに気づかなければいけない。そしてホロコーストのような事を二度と繰り返してはいけない。自分にも起こるかも知れないと思って考えて話をしなければいけないし、自分がそのグループに所属していないからと言って他のグループに起きていることを話題にしないのは間違っている。音楽は人を繋げる力があるし、その時に誰が演奏しているかだとか、黒人の女の子がドラムを叩いているとかそういう事は関係ない。音楽そのものにパワーがあるんだよ。
A : 黒人の女の子ドラマーだという事が何かの妨げになった事はある?あたしは”女性”ドラマーとして見られる事がすごく嫌いだったんだけど。
N : すごくわかるよ。性別関係無く、"いいドラマーだ"っていう評価が欲しいよね。だってAineはとてもいいドラマーだもん。自分はそういう時にそれをガソリンのように自分のやりたい事を達成する為のモチベーションとして、エネルギーとして使うよ。そうだよ、あたしは女性で、そしてドラムを叩くんだ。それが何か?という感じ。もう2020年だけどね。見た目かとか人種とか性別とかそこばかりに注目するのは終わりにしたいよね。そんなの誰が気にするの?
ドラムはまだまだ男性的だと見られがちな楽器だけど、モリモリの筋肉なんて必要ないじゃん?強いということの意味を間違えているし、武道みたいにその方法さえ知っていれば小さくたって大きな敵を倒せるし、小さな女の子だってそのやり方さえ知っていればドラムも叩けるんだよ。
A : 日本の、特に若いオーディエンスに向けてメッセージはある?
N : こういう時はやっぱりゴールデンルールしかないよね。
自分の母親がいつも言っていたように。
「自分がしてもらいたい事を他の人にしてあげなさい。(Treat others as you would like to be treated. )」
とってもシンプルだけど、より良い自分になりたいとそれぞれが努力すれば、絶対にコミュニティは良い方向に変わっていく。今ある問題もみんなで解決していける。人やその人の意見を変えるんじゃなくて、それぞれが違う意見を持つ事を認めていく事。本質的な善悪の判断なんて根本的に人はわかっているはず。悪い行動は減らして、良い行動を増やせば良いだけ。
そして共感すること。誰かが表現しなければいけない事を表現する時間を与えてあげる事。
歳を重ねるごとに、自分の親や祖父母や年配の人達が言ってた事をやっぱり自分も同じように周りに伝えていることに気付いていってるよ。そして、こういう事は音楽にも影響してくるんだよね。人として良い人は良いミュージシャンだよね。表現する幅が増えるほど、メッセージを伝える力も大きくなる。そうなるには時間がかかるけど、だからこそ毎日が学びだし、それが音楽や人生の素晴らしいところでしょ?
挫けないで欲しいんだけど、今のこの状況で自分は孤独だと思わされているかも知れないけど、あたし達は一人ではない。同じように物事が変わって欲しいと思っている人はいる。そして自分達はそれを変える事が出来るんだよ。何を変えたいのか、どう変えたいのか知る事。それを可能にする為に行動していく事。それを続けるだけだよ。
NikkiのZildjian LIVE! インタビュー
https://www.youtube.com/watch?v=Oz_GazDTH1I
NikkiのZildjian LIVE! 演奏
https://www.youtube.com/watch?v=5MNUgW19mos
WIM Chat #47 with Nikki Glaspie
https://www.facebook.com/womeninmusicjapan/videos/2807463276190321
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Jeff Coffinのポスト* (9/16付けFBページのポスト)
Music has never been just ‘entertainment’. Maybe for some listeners. But for the artist, It’s been a social justice platform since the beginning of recorded musical history. From Johannes Bach to James Brown. From Neil Young to Radiohead. From Bob Dylan to Miles Davis. From NWA to Kendrick Lamar. The list is endless. Sam Cooke, Aretha, Coltrane, Sly Stone, The Beatles, Oumou Sangare, Jimi Hendrix, Rage Against The Machine, The Dixie Chicks, Steve Earle, Garth Brooks, Kirk Whalum, Charles Mingus, Beyoncé, feel free to add ur favorites. So telling us to ‘shut up and play’ won’t work. Never has. Never will. If u want art u get what comes with it on the same plate. If u don’t like the food, don’t eat it. But we are gonna keep cooking regardless.
音楽がただのエンターテインメントだった事は一度だってない。もしかしたらある特定のリスナーにはそういう意味しか持っていないかも知れないけれど、アーティストにとって音楽はいつだって社会的正義を表現するためのプラットフォームだったんだ。音楽というものが歴史的に記録されるようになった最初から。バッハ、ジェイムス・ブラウン、ニール・ヤング、レディオヘッド、ボブ・ディラン、マイルス・デイビス、NWA、ケンドリック・ラマー。サム・クック、アレサ・フランクリン、ジョン・コルトレーン、スライ・ストーン、ビートルズ、オウモウ・サンガレ、ジミ・ヘンドリックス、レイジ・アゲインスト・ザ・マシン、ディキシーチックス、スティーブ・アーレ、ガース・ブルックス、カーク・ウェイラム、チャールズ・ミンガス、ビヨンセ、自分の好きなそういうアーティストを足していったらいい。そうやって表現して来たアーティストのリストは終わらない。だから、「黙って音楽だけやってろ」ていうコメントは意味が無い。だってアーティストが黙って音楽だけやっていた時なんて無いんだから。これからだってそんなことにはならない。アートという食べ物を欲するなら、それに付属するあらゆるサイドメニューもついてくるんだよ。好きじゃ無いなら食べなきゃいい。それでもオレ達は料理し続けるけどね。
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翻訳 by Aine Fujioka
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