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360度フィードバックのゴールは結果レポートではない!~事後フォローの重要性とその進め方~

「結果をどのように返せば良いですかね?」360度フィードバックを実施した会社の人事担当者からよく受ける質問です。結果レポートをそのまま返却し、その後は、対象者任せという会社も少なくありません。本人の主体性に任せるというのは聞こえは良いものの、日々忙しい中、結果を見て自発的に何かアクションを変える人材はそう多くありません。

調査結果の紹介 株式会社シーベースは、2023年に360度フィードバックに関する調査を実施しました。726名の管理職に対して「対象者として、360度フィードバックの意義を感じるか?」という質問をしたところ、肯定的に回答したのは全体の51%でした。さらに、その中で、事前、事後でなんらかの施策やフォローを受けた人と受けていない人で分類して、肯定的回答割合を見たところ大きな差が生まれました(下図)。

株式会社シーベース「360度フィードバック」導入状況(2023年版)P18の図より筆者加工

結果をただ返された人については、360度フィードバックについて25%しか意義を感じず、なんらかの施策を受けた人は75%も意義を感じたという結果となりました。360度フィードバックは、事前・事後のフォローを行うことで、その効果に大きな影響が出ると言えます。

事後セッションの進め方
この結果を踏まえて、本コラムでは、フォロー施策の中で多くの会社が実施していると思われる事後セッションの進め方について解説したいと思います。下記は、事後セッションの一例です。

概要
参加者:360度フィードバックの対象者
時間:1時間程度
手法: オンラインまたはリアル開催
目的
・360度の結果レポートを読み解く。
・普段の行動を可視化する情報を得る。
・『自分の成長』と『組織の関係性向上』に向けたプランを立てる。
内容
1)結果の解釈方法
2)2人1組での共有
3)アクションプランの作り方

内容について解説します。

1)結果の解釈方法

~以下の4つの切り口で解説します~
・自己評価と他者平均の比較
・上司評価、部下評価、同僚評価の解釈方法
・他者平均の具体的解釈方法
・コメントの解釈方法

例えば、他者平均というのは、評価者である上司、部下、同僚の全体の平均値のことです。この他者平均が360度フィードバックの中でもっとも注目すべきデータで、この数値の高低によって、対象者の強みや課題が明確になります。

ただ、他者平均は高いから良い、低いから悪いといった短絡的な解釈をすべきではありません。他者評価の高低を解釈をするときには、下図のような観点で見ていく必要があります。


まず、他者平均の高い、低いは、どのように判定すれば良いでしょうか。私はこれまでの経験から「最高点の70%」を軸にしています。つまり、5点満点であれば、3.5点、4点満点であれば、2.8点ということになります。

~点数が高い場合の解釈~
他者平均が高い場合、様々な解釈ができます。まず、その行動については、多く評価者がポジティブに評価しているので、その対象者の強みと言えるでしょう。ただ、ネガティブな要素としては、それで安心してしまい、その後、それを磨いたり、意識していくことを忘れ、人によって行動として影を潜めてしまうこともあります。また、「自分の考えを率直に伝え、相手を納得させている」といった設問があり、それが高い場合、その逆の相手の話を聴くという行動がとれていない場合があります。つまり、高い点数の逆の行動がとれているかを見ていく必要が出てきます。さらに、多くの項目が高い点数の場合は、ストレッチしてがんばり過ぎていることもあり、少し緩めることも検討された方が良い方もいます。

~点数が低い場合の解釈~
低い場合は、行動として出ていない可能性があるので、職場で課題となっている場合も多いようです。ただ、ここは周囲が改善して欲しいというメッセージとして受け止め、自身のチャレンジ項目として、ポジティブに受けていくことも必要です。そして、その行動がとれていない反面、違う強みが発揮されている場合もあります。権限委譲が課題となっているときは、反面、自分が責任を持って対応している場合があります。課題となっている行動がある場合、その代わりに自分がどのような行動にエネルギーを使い過ぎているかを確認し、両者のバランスを取ったり、使い分けていくことが大切になります。

2)2人1組での共有
事後セッションで最も大切な要素の一つは、「呼吸」です。360度フィードバックのレポートは多くの情報が詰まっており、その情報を「吸ってばかり」だと息苦しくなるばかり、それを冷静に咀嚼する余裕がなくなります。大事なことは、それを見てどう思ったかと言う部分。感想も含めて、同じレイヤーの対象者と共有する時間を取ることが必要です。自分の思いを「吐き出す」ことで、その結果をより客観的に見られるようになり、結果を受け止める余裕ができ、新たな気づきが生まれることもあるでしょう。通常、1人あたり7分ずつ時間をとり、計14分程度の時間をとっています。

3)アクションプランの作り方
360度フィードバックの目的は、それをもとに、対象者が行動を起こしてもらうことです。そのために、事後セッションでは、アクションプランの作り方を共有し、セッション後に自分自身でプランを作ってもらうようにします。だだ結果レポートを見ると、課題が沢山あり、何をすべきか分からなくなる場合もあります。「これって言われたことすべて改善すれば良いのですか」という質問を受けることもあります。私は、全てに取り組む必要はなく、優先順位を付けていくことが大切だと考えます。そして、その優先順位付ける際に、2つの制約条件(自分の役割とあるべき姿)を考慮する必要があります。それを表したのが下図です。


例えば、結果レポートを見たら、コミュニケーション、権限委譲、情報共有、さらには他部署の連携など様々な課題があがったとします。もし、対象者の方が、部長クラス(役割)で、部下である管理職の成長を通じた組織変革(あるべき姿)を目指すのであれば、恐らく部下である管理職への権限委譲が優先事項となるでしょう。

最後に ~アクションプランの活用方法~
出来たアクションプランをどのように他者と共有し、実効性の高いものにするかも重要なポイントになります。作ったものを上司と共有し、目標管理の目標に追記するのも良いでしょう。そうすれば、上司ととも進捗を共有するので行動がより確実なものになります。また、360度に協力してくれた部下にその結果を共有し、自分の行動開発宣言として発表も良いと思います。管理職としての覚悟を部下に見せれば、部下の組織へのコミットも変わってくるように思います。もし、この2つは抵抗があるというのであれば、自分の手帳やスマホにアクションプランを登録して、いつでも見えられるようにするのも手です。自分に合ったやり方を選択すると良いでしょう。

360度フィードバックは、対象者の行動開発を促す上で、とても有効なツールですが、一方で、とてもセンシティブなデータでもあるので、会社としてのフォローアップがとても大切になります。今回、ご紹介した事後フィードバックの進め方などを参考に、是非有効活用して頂ければと思います。

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