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楽しみながら森を活かし、野生動物と互恵共存できる地域の未来をつくりたい

 南丹Wildlife tours(ワイルドライフツアーズ)は、京都府南丹市を拠点に、野生動物と人が互恵共存できる未来を地域に作ることを理念として、2021年から活動を開始しました。 

 note公開初の回では、
南丹Wildlife toursの想い、理念、達成目標、活動、実績、活動に至る経緯、についてお話します🌳🌲

🙂想い🙂

 南丹市の森林面積は88%です。地域の森林は、先祖代々に受け継がれてきているところが多いです。よく耳にする言葉ですが「こんな山持っててもなんの価値もないわ」とおっしゃられます。
 なんの価値もないというのは国産の木材が価値を見失ってしまっている事もあり、もうどうしていいかわからないという不安や諦めを感じておられるようです。

 でも私には、地域の森が、宝物にしか見えません。そう考えている自分にできる事は何だろうか・・。そうして考え、頭に浮かんだことが、木材資源以外の「体験できる価値」を創造すること、多様性のある森そのものが価値になる取り組みをつくることでした。

 自然林でも人工林でも、植物や野生動物を体験できることが価値となり、その利益を山主さんへ還元したり、さらなる森づくりへ繋げる。多様性の高い森そのものが、より価値の高い体験を育む。そのようにして、森の存在そのものや、野生動物を体験することや、森のめぐみが価値になる森づくりを循環させる仕組みをつくりたいと考えています。

 森を利用し、持続的に利益が産まれれば、保全する意欲に繋がり、地域の森もより良い環境になると考えています。

 そして、この取り組みによってもう一つの重要な部分は、ワイルドライフマネジメントに基づいた管理(※ー活動に至る経緯ーの部分で綴ってますので読んで頂ければ幸いです)を、地域のなかで進めることで、中山間地域で生じている、人と野生動物の軋轢という社会的課題を解決する事です。
 ワイルドライフマネジメントによって確立されている被害管理を地域のなかで適切に進める事は、野生動物による軋轢(農産物被害、生活環境被害、人的被害)を大きく減少させます。
 さらに一歩進んで、野生動物と持続的に共存(=軋轢を減少させたまま持続可能な状態を継続)するために必要なことが、被害管理が適切に機能している状況での生息地管理になります。

 ここでいう生息地管理とは、林縁部の緩衝帯整備ではなく、野生動物が本来の自然のなかで生活するという行為を継続させるための管理を指します。
 つまり、人との棲み分けに干渉することのない生息適地(森林)を、生態行動調査や採食状況調査により特定し、その周辺の森林の採食環境を維持する、または好適環境の質を高める行為です。
 前述の多様性の高い森は、野生動物の生息地管理にも寄与します。
 生息適地はひとつの大きなまとまりである必要はありません。行動圏内においてパッチ状に好適な生息環境が複数に渡り、存在する事が重要です。それらは緑の回廊(グリーンコリドー)とも呼ばれています。
 生息適地の選定には、該当地域において実施する野生動物の追跡調査から得られるデータを基にして、収容力を保有する森林、樹種等の選定が必要です。
 森づくりの樹種は野生動物が利用するもののみに限定をせず、斜面防災となるもの、景観をつくるもの、めぐみや体験を育むものなど、野生動物も人も相互に利用できるものを選定します。
 そうすることで野生動物と人とが互恵(互いに森の恵みを享受)し共存できる森を整え、多様性のある森による、人と野生動物の棲み分けを実現したいと考えています。

 多様な豊かな森林環境を保全することが、わくわくする楽しい体験に繋がり、体験が価値になる豊かな森には野生動物が生息する。
野生動物のためだけではなく、人と野生動物のためでもあり、そして地域の森をより良くしたいと思います。
 地域の森で、森の恵みを体験する子どもたち、家族が増え、子どもたちの未来により良い京都の森林を育む活動としたいと考えています。

 まずは、理念と目標に基づいて活動し、多様性ある自然環境を保全する価値を取り入れた小さなモデルつくりを目指したいと考えています。

🙂理念🙂
楽しみながら森を活かし、野生動物と互恵共存できる地域の未来をつくる


🙂達成目標🙂
🌳野生動物と人が共存する地域をつくる
→人と野生動物の軋轢を変え、子どもたちの未来へ豊かな地域を残す。
🌳野生動物と互恵共存する森づくり
→身近な野生動物&森の多様性を体験する価値をつくり、多様性のある森づくりに繋げる。


🙂活動🙂
以下の活動に重点を置き、取り組みます。

🌳里での被害対策講座 、棲み分け活動
🌳子ども(家族)向け野生動物体験プログラム
🌳地域性苗木(*)づくり
🌳多様な森のめぐみを活かす商品づくり
🌳自伐型林業の技術を活かす森づくり
🌳野生動物や森づくり等の情報発信
*地域の母樹から種を取り育てる事により、遺伝子撹乱を防ぎ、地域の気候風土に適した苗木を指す

🙂実績🙂
けものカメラ痕跡さがしゲーム
(ゴー!ゴー!ワクワクキャンプ)
森の痕跡さがし(森の京都DMO)
森人オズ(Organic,Diversity,SDGs)
里山の樹木おもしろ体験(さまさま市)
痕跡フォトハンター(NWT)
ニホンザル追跡ワークショップ(NWT)
被害対策出前講座

🙂活動に至る経緯🙂
ここからは、話が少し長くなりますが、興味を持って下さった方は続きを読んで頂ければ幸いです。

\野生動物保護管理で獣害を無くす/
 私は、2012年の5月にワイルドライフマネジメント(以下、WMに略)と出会い、各地でニホンザル、シカの生態調査、痕跡調査、被害対策や個体数調整等の保護管理に関わって来ました。
 そのなかで人と野生動物との関係の現状、野生動物の生態&生息状況を知り、各地の森の現状と植生環境の変化等について経験してきました。

 WMは訳すると野生動物保護管理となります。保護管理には、保護・捕獲・保全・管理が含まれます。
 野生動物保護管理は、人と野生動物の関係、または野生動物を科学的に調査研究し、人と野生動物に生じている軋轢を解消または減少させる事を目指し、共存を図る手法です。

 WMを用いて、人と野生動物の軋轢を減少させるために必須な3つの概念が、被害管理、個体数管理、生息地管理です。
 これら3つの概念をバランスよく絡めて実行することが重要となります。
 特に獣種毎に、生態や特性を考え、地域毎に現状を把握し計画性を持って管理を実行する事が大切です。

WMに必須な3つの概念

 計画性のない管理、例えば、対策がやみくもな(検証&修正のない)捕獲のみを続けている場合では、シカの場合は効果的に頭数が減らない、サルの場合は加害が増える、その後の対策が困難になるなど、逆に軋轢増加に繋がってしまいます。
 "捕獲のみ"の対策では、「何頭捕ったから被害が減る」という錯覚に陥りやすいのですが、実のところ、被害は減らない、数年後には頭数が元に戻るというリスクを抱えており、地域の人の意欲低下、労力疲弊や、その後の対策費用の増加に繫がっています。

 捕獲(個体数管理)のみではなく、被害管理と、生息地管理をバランスよく実行し、正しい対策知識を持って取り組む事が被害を減らす第一歩になります。
 しかし残念ながら、多くの地域ではまだまだ、人は動物をやみくもに恐れ、捕獲重点の対策を続けています。

\WMには生息地管理が重要/
 森は遠目からでは景色として美しいものですが、実は京都の森の多くが危機的状況にある事を知る人は、あまり多くはありません。

 京都の多くの地域では、過去から現在までの人間による土地利用改変、虫害による森林環境の変化、シカの分布拡大と頭数増加による植生の衰退、近年の異常気象等によって自然林の荒廃、生物多様性の減少が進んでいます。

森は多様性を失い、ボロボロになっています。

 ここで考えるべきは、自然林という森の存在で、それらは野生動物の生息地であるという事実です。 被害管理が進んでいき、生息地の森林環境が野生動物を収容する条件を満たしていれば、持続的に農産物被害、人身被害、生活環境被害などの軋轢は無くなります。 被害管理を継続する事は重要ですが、生息地管理が伴う事で将来的に労力負担の軽減に繋がります。

 ところが現状では、森林(特に自然林)においては、生息地としての管理には予算がつかないほどに一般にその重要性は知られていません。
 日本社会、経済のなかでは、森林とは、人工林つまり木材でしか図られていない状況にあり、野生動物の住処である森林環境は悪化していく状況にあります。戦後に比べて面的質量は増加しましたが、野生動物の環境収容力という点では質が衰えていると考えられます。

 写真1のように密度の高いシカ生息地では自然林の天然更新に必要な稚樹の存在がありません。根圏環境を失った土壌は乾燥し、土壌中の菌糸の繋がりが衰退して、落葉まで留める力を失い、地表への直接の雨滴は、地表流となり、徐々に土壌が流失し地形を変化させるきっかけになります。
 そして、生息地環境の悪化は、時限爆弾のように山裾や下流の地域の人々の生活をも脅かす事に繫がっています。
 天然更新が困難な地域では、限定したエリアを決めて、そのシカ密度を下げるための計画的な捕獲とともに、防護ネット等による被害管理、多様性を回復するための植栽等の生息地管理が必要と考えられます。

\地域の森と木材自給/
 地域の森の多くは、近年は放置されている人工林も増え、それらは価値のないものまたは安価であると判断され、B材C材としてバイオマス焼却になるような施業が増えているように感じています。
 価値を失った木は皆伐され、天然更新を待つか新植栽を選択しますが、シカ密度の高いエリアでは天然更新は非常に厳しい状況(*写真2)にあり、新植栽においても防護柵の負担や、将来の木材利用の計画性が無く植えているのが現状と聞きます。
 皆伐のために大型重機を通す作業道は、日本の山林に無理をさせてしまうようで、法面が高すぎる作業道や、谷を埋める施業では、水みちが集中して、崩壊が起きている現状(*写真3)もあります。

写真2:皆伐地に見られる矮小化した植生
写真3:大規模作業道による崩壊

 人間にとっても、森林の多様性が少ないことは、ひとつのインパクトで森が崩壊する危険性をもっています。

人工林を皆伐ではなく最小の間伐で森を育て、地域の木材自給として利用ができたら、どれだけ豊かだろうかとも考えています。
人工林に対する現状を見て、悩んでいたときに出会った取り組みが自伐型林業でした。
 自伐型林業は少人数と小型重機による作業道施業に特化した林業で、山林環境の保全と最小の間伐による良質な木材生産を可能にしています。昔ながらの地域の小さな区割りの山からも施業が可能で、小さな尾根に道づけする技術があり、壊れにくい作業道を持続的に使うことで、地域の木材を低コストで搬出します。大規模作業地とのコストの差を山主にも還元できるため、中山間地域での施業に注目が集まっています。

\地域のより良い未来をつくりたい/
 この地域に移住し10年が経ちました。
 地域の森林の現状、野生動物との軋轢の状況、子どもたちが森に近寄らない現状を、地感じるほど、森と人と野生動物の関係について、知れば知るほど、危機感が募っていきました。 
 正しい情報も広まらず、野生動物は害獣と呼ばれ、人との溝はどんどん深まる。このままでは、森と人、人と自然の関係はどんどん離れていってしまうし、共存は難しくなり、持続可能な地域が継続できなくなってしまうだろうとの思いから、悩むより前に進みたい、自分にできることから活動していこうと思い、2012年から続けてきた活動を具体的な活動に向けるため、2021年から南丹Wildlife toursとして活動をしています。

😀あとがき😀

noteでは、森あそびのネタや、京都の野生動物の生態、森林環境の現状、森づくりの方法、商品開発裏話、人と森・人と動物の関係などについて発信していきますので、よろしければフォローのほど、よろしくお願いいたします。

2025.1.6

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