野鳥マナーと野鳥モラル
それぞれの趣味にそれぞれのマナーやルールがあると思います。
マナーやルールとは何なのか?と、あらためて考えてみると「法律や条例にはないけど、全体の利益のためには、こうしましょう」と内発的に自主規制するものだと思います。
法ではないのでマナーやルールを破っても罰金は無いし、逮捕も無いわけです。でも皆がやりたい放題やってしまうと問題が起こるから、あるいは実際に問題が起きているから、それを避けるためにマナーを設定して、自粛したり、問題防止策を考案したりする、そういうものだと思います。
具体的に提唱されている野鳥マナーを見てみると、大原則として
●野鳥に影響を与えない
●人に迷惑をかけない
●(上記二つを達成するために)情報の公開を抑制する
という3つの柱があると思います。
詳しくは
日本野鳥の会 : 野鳥観察・撮影の初心者の方に向けた、マナーのガイドライン (wbsj.org)を参照してください
上記、野鳥の会のガイドラインⅠ『野鳥の観察・撮影について』の
①ストレスを与えないように野鳥との距離を取る
②営巣中、育雛中の野鳥や巣へは近づかない
③音声による誘引はしない
④餌付けによる誘引はしない
⑤撮影にフラッシュ・ストロボを使用しない
は鳥そのものに影響を与えないようにしようというものです。
そして
⑥立ち入り禁止場所への侵入はしない
⑦私有地や団体等の所有地への侵入はしない
⑧公園等公共の場でのマナー
⑨駐車について
⑩他の観察者・撮影者へ配慮する
⑪プライバシーを守る
は周辺の人に迷惑をかけないようにしようというものです。
Ⅱの項目『 画像・映像・情報の公開について』は、昔の野鳥マナーには無かった項目です。
今は情報ツールが変わり、伝達スピードも変わりました。なので時代に対応して必要となったマナーで、これは古参勢の古い考え方ではなく、ネット時代ならではの最新のマナーなのです。
情報マナーは具体的には、『ネット上への公開は地名を書かない』『場所が特定されないようにする』というのが基本になっています。
野鳥界隈の事情を知らない方は「なんで地名を書いちゃいけないの?」と思うかもしれませんが、珍鳥や希少種など魅力的な鳥の写真が地名付きでネットに出ると、翌日には100名を超えるカメラマンが集結するというような事態も実際に起こっているので、情報伝達に制限をかけなければならないのです。
大勢のカメラマンが集結すると、繁殖中の鳥であればストレスを感じて営巣放棄したり、繁殖成功率を低下させたりする可能性があります。そしてさらに、多数のカメラマンによる場所の占有や無許可での駐車などは、その地域の人に迷惑をかけることになります。実際に毎年このような事例が発生しています。
さて、野鳥モラルはどうでしょうか?
マナーやルールが方法論であることに対して、モラルは善悪の判断基準のことで「道徳」や「倫理」と道義になります。
野鳥マナーが
●野鳥に影響を与えない観察・撮影をする
●人に迷惑をかけない観察・撮影をする
これに対して、野鳥モラルは
●野鳥に影響を与えたくないと思う心をもっているかどうか?
●人に迷惑をかけるのは良くないと思う心をもっているかどうか?
となると思います。
このような『鳥も人も大事にする心』を完璧にもっていれば「マナーだ、ルールだ」と、つべこべ言われなくても、おのずと良い行動ができるのだろうと思います。でも人は利己的な面もあります。皆の心の中に「天使と悪魔」の両方が住んでいるとも言えますので、マナーやルールの設定が必要になってくるのだと思います。
えらそうなことを書く(言う)私ですが、私の野鳥モラルはどうなのか?というと、そんな崇高な心の持ち主では決してないです。ごく一般人です。
ただ、親に「人に迷惑をかけるな」と教えられて育ち、それは上記の野鳥マナーとも合致して通ずるものです。
それから野鳥が好きで観察しているなら、野鳥を大事にするのはあたりまえで、繁殖期も、非繁殖期も、なるべく影響を与えないほうが良いということはごく当然、普通に受け入れられる考えです。
そしてこれまで自分でもマナーについて考え、行動し、経験し、を繰り返してきた結論として、やはりマナーを守って行動することが一番だと感じています。
『野鳥に影響を与えない』と『人に迷惑をかけない』は、日本初の探鳥会(昭和9年)がおこなわれ、野鳥を楽しむ趣味が日本に発生したときから今日まで、ずっと一貫して変わることのない大原則だと私は思います。
これを変えたほうが良い未来があるとは思えません。
情報公開のマナーなど補足事項は、時代の変化に合わせて加筆修正していくべきだと思いますが、『野鳥に影響を与えまい』と『人に迷惑をかけまい』というモラルを出発点に改定していくことを忘れてはならないと思います。
営巣に張り付いて撮影する人も、いまだに後を絶たずいます。
最近はコロナ渦の影響もあり野鳥撮影を楽しむ人も急増しているので、上記のマナーなどを知らずにやってしまっている方もいます。
全体の人口が増えるほど、起こる問題も大きくなります。
たとえば「××公園で何々猛禽が繁殖しています!」というような情報をネットで拡散した場合、これまでなら1日に来るのはせいぜい5~10人程度でさほど問題にならなかったとして、総人口が増えたら集まる人数は増えていくので後に問題化する可能性もあるのです。
ですから、「むやみに情報を流さない」ということは、これから先、今まで以上に必要性が増していくマナーだと思います。
「巣に張り付いても大丈夫だ」等の、マナー不要論を言う人もいます。でもその理屈は科学的に証明されたものではなく、自分の行為を正当化したいがゆえの、無理やりの推察や憶測が多いように思います。
科学的に証明されたものとしては下記の論文などがあります。
今年2023年に発表されたものです。
営巣林への立入制限はオオタカの繁殖成功を促進する | バードリサーチニュース (bird-research.jp)
科学的証明は、たとえば1か所の観察記録などでは成立せず「説が優位に正と言える」ためには多くのデータが必要です。そして、査読者の厳しいチェックを通過する必要があります。
この論文にもあるように、人に慣れきっているように見える都市の野鳥でも、人が立ち入らない場所で営巣したほうが3倍も繁殖成功率が高くなっているのです。
繁殖成功した例を1例あげて「ほら営巣に張り付いても大丈夫だ」というのをよく耳にしますが、1例では科学的な説としては成立しません。
下記の写真は私が中学1年生のとき、武蔵野野鳥クラブで書いたノートです。
私は小学5年生で武蔵野野鳥クラブに入ったのが野鳥観察の始めです。最初にこういった野鳥マナーを教えていただけたことに感謝を感じています。
(このノートを書いたのは私が中学1年生で、講師は日本野鳥の会の安西英明先生、飯塚利一先生でした。両氏がまだ大学生のころでした)
このようにマナーを教えられて、当時の私は「守るべき」と思ったし「巣に近づくな、ってそりゃそうだ!」と、違和感なく受け止めました。
あれから推定40年(笑)くらいの月日が経っているわけですが、マナーに従った観察・撮影だけでも充分に野鳥は楽しめます。
ライファー(生涯観察種数)は一向に上がらないですが、ライファーを競うというような感覚はなくなりました。代わりに「ヒヨドリの声のバリエーションは何を意味するのだろうか?」など、身近な鳥でもわからないことだらけで、鳥を観ることの楽しさは尽きないです。
なにより、マナーを守っていると誰からも後ろ指を刺されないから、精神的にいつも清々しい気分でいられます。
自分自身が笑顔でいられて、仲間とも笑顔で語り合える、そういう時間は私にとってかけがえのない時間だと感じています。
心の底から野鳥を楽しむためにはマナーを守ったほうが得だと思います。『徳』でもあると思います。
大げさな教えのようにも書きましたが、社会人として、ルールを理解して受け入れて行動するのは一般常識の部類でもあると思います。
『公園を利用するなら公園のルールに従う』などは議論することでもなく、当たり前のことだと思います。
私は皆でマナーを守った観察・撮影を実践して、マナーを守る人のコミニュティーが広がっていくことを願っています。
同時に笑顔も広がると思います。
みなさんはどう思われますか?
長々と書きましたが、この文章がマナーやモラルについて考えたり、話し合ったりするきっかけになってくれたら幸いです。
異論も含めて、コメント歓迎いたします。