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藤井風のユニークすぎる曲名

 曲名というのは言わば商品名である。曲の世界観を表現しつつ、記憶に残るインパクトがあるか?ストリーミング時代にスルーされないためのフックはあるか?アーティストやプロデューサーは頭を悩ませていることだろう。

 だが、藤井風はちょっと違う。デビュー曲「何なんw」は自分の口癖である「何なんw」をタイトルにしようと先に決め、それ縛りで書いたらしい。他にも藤井風にはネーミングのユニークさが際立っている曲が多い。

24曲中14曲のタイトルがオンリーワン

 そこで、最新J-POPからアニソン、懐メロ、童謡まで33万曲以上のデータベースの中から藤井風オンリーの曲名がどれくらいあるか調べてみた。

 下記はその結果だ。色付きセルがオンリー曲名なのだが、オリジナル全24曲中、約6割にあたる14曲のタイトルは日本にひとつしかないことがわかった。ロンリーラプソディ*以外は実質世界に1曲と言っていいだろう。

*ロンリーラプソディは60’の洋楽に同タイトルの曲がある

黄色セルは1stアルバム、ピンクセルは2ndアルバム収録曲
太字はシングル曲

 
 こうして見ると、11曲中8曲が唯一無二のタイトルだった1stアルバム「HELP EVER HURT NEVER」は、サウンドや歌詞、MVだけでなく、曲名と言う面でも強烈なインパクトがあったことがわかる。

 途轍もなくスタイリッシュなサウンドに、ベタな岡山弁による口癖タイトルをつけ、さらに「w」までつける軽妙さは、藤井風にしか使いこなせない飛び道具だ。

 ほとんどの曲名がそのまま歌詞に使われており、「何なんw」「へでもねーよ」「やば。」「特にない」「もうええわ 」「死ぬのがいいわ」「調子のっちゃって」「キリがないから」「燃えよ」などの曲名がキャッチーなメロディとともに直接脳にインプットされる。

 洗練されたビートや旋律やコードに飾らない話し言葉のタイトル。この真逆のエレメントによる化学反応こそが藤井風らしさの真骨頂だと思う。だが、2ndアルバム以降は、曲名被りが比較的多い”普通”のタイトルが増えている。

同名曲が多かった曲

 そうなると、タイトルかぶりの曲は誰のどんな曲なのか気になってきた。

 藤井風オリジナル曲の中で、最も同名曲が最も多かったのは「ガーデン(25曲)」でクレイジーケンバンドやglobeにも「ガーデン」という歌がある。

 次いで多かったのが自身最大のヒット曲「きらり」で、いきものがかりの「キラリ」をはじめ同名曲が22もあった。

 3位は五木ひろし、小林旭などの大御所も歌っていた「旅路」の20曲、4位は「まつり」で19曲。

 「まつり」の代表曲と言えば、ニッポンの風物詩的なサブちゃんで決まりだろうが、実は北島三郎と被ってるタイトルがもう1曲ある。

 「風よ」だ。

 尺八をゴリゴリにフィーチャーした力強い男のド演歌と言った曲調だが、歌詞は藤井風の「風よ」にも通じる無常感と祈りが感じられる。

 実は「風よ」は北島三郎だけでなく松山千春、中村雅俊、BEGINなど9曲でかぶっている。

 特に松山千春は「風よ」「帰ろう」「旅路」の3曲が同名で、藤井風との曲名かぶりが最も多かったアーティストだ。松山千春と藤井風、年代も音楽性も全く違うが、北海道の足寄と岡山県の里庄という小さな田舎町を一躍全国的に有名にしたと言う共通点がある。

 「優しさ」は他に4曲あったのだが、森山直太郎の「優しさ」はシンプルなメロディに奥深い歌詞が滲みる。藤井風の「優しさ」がなかったら出会わなかった曲だ。

本当の優しさとは
優しさについて考えることではない
例えあなたがいなくても
世界はただ在るのだと認めてみせること

森山直太郎「優しさ」歌詞より

 「帰ろう」は藤井風の他に、松山千春、ウルフルズなど4曲。それらは”家”や”故郷”という”場所”に「帰ろう」なのに対し、藤井風の「帰ろう」だけが死生観を歌っており異次元だ。

いつまでも いつまでも
そんな顔しないで
おまえとおれとふたり
帰ろう 元気を出して
帰ろう ぬれた手をつないで

ウルフルズ「帰ろう」歌詞より

ねえ帰ろう
青い空の中へ
ねえ帰ろう
僕の心は故郷へ故郷へ

松山千春「帰ろう」歌詞より

 
 英語タイトルの「damn」は三浦大知他5曲、「Grace」はLUNA SEAなど7曲、「The Sun and The Moon」は2曲だった。これらは洋楽も含めればかなりの曲数になると思われ、試しに「Grace」や「damn」をAppleMusicで雑に検索したら軽く20曲前後あった。

果たして新曲のタイトルは?

 最近のSNSでの匂わせを見ると、アメリカのアップカミングな若手アーティストと何やらレコーディングしている気配がある。となるとバッチバチにグローバル市場を意識した王道タイトルになるのか?

 2ndアルバム以降、突拍子もない珍しいタイトルが減っていると前述したが、彼はもはやタイトルでオーディエンスを振り向かせなくともOKなフェーズに入ったのかもしれない。

 だが、「死ぬのがいいわ〜」という日本語が他のどこにもないメロディーとともに、パリの地下鉄で子供が口ずさみ、NYのスケートリンクやタイの街角で当たり前のように流れる世界を実現した今、次も堂々の日本語タイトルで勝負して欲しいと密かに願ってやまない。

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*当記事の曲名データは「Uta-Net」及びAppleMusic、Spotifyを参照しています。
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