速報!!藤井風ライジングサンロックフェスレポ
北海道で開催中のライジングサンロックフェスティバルに、Vaundyの代打として藤井風の出演が発表されたのが8月11日。そしてYouTube生配信がアナウンスされたのはライブ当日の夕方だった。
配信開始予定の13日24時45分。深夜にも関わらず藤井風を待つオーディエンスが広い会場を埋め尽くしていた。10万人近い配信組も眠い目を擦りつつ画面を凝視していたに違いない。
終わってみれば同時接続人数は20万人に達し、瞼を重くしていた眠気は何処かに吹き飛んでいた。
圧巻とは違う、胸熱の48分間
一言で言えば、”代打であることに徹したステージ”だった。ワンマンライブのように客を煽ることもなければ、変顔をかますなどのノリノリパフォーマンスでもない。
この真摯で誠実で控えめな48分にあったのは、”本来の主役であったはずのアーティストと、そのファンへの深いリスペクト”だ。
Vaundyメドレー
ピンク色のセットアップにサンダルというカジュアルなスタイルで、ちょっと恥ずかしそうに姿を現した藤井風はステージ中央に立つと、深々と一礼。いきなりアカペラで”トゥルルル、トゥルルル、ルルルー”とVaundyの「踊り子」のコーラス部分を歌い出す。エモい、、、
「今、ここにいるお客さんはバウくんを聴きたかったはずだ」という想いと「それでもこれから一緒に楽しんでくれたら嬉しい」という願いが混ざり合ったトゥルルル〜だ。緊張に声が少し震えている。
そして、囁くような「ねぇ。。。」からピアノと一緒に歌いはじめたのは、オリジナルよりテンポをだいぶ落としたメロウな「踊り子」。歌詞にある”ねぇ、どうして私を好きなの?”って??
そういうところだよ!
2曲目「恋風邪にのせて」では、多少ピッチが不安定になるところもあったが、会場の暖かい手拍子に支えられ、力強い打鍵と伸びのある声で歌い切った。
すっと立ち上がり歌いはじめた3曲目は、またしてもVaundyの「napori」。冒頭の歌詞が飛んだのはご愛敬。
ブレイクなくジャジーなピアノアレンジの「東京フラッシュ」へ。ただでさえオシャレな曲が、藤井風フレーバーを纏い煌きながら北の夜空を浮遊する。アウトロのピアノが星のように瞬く。
4曲連続でVaundyをカバーし、オーディエンスを酔わせた直後のMCが
「どーも、Vaundyです〜。言うてますけどMORE」
拍手と共にドッと笑いが起きる。
あくまでもVaundyとそのファンを立てるMCだ。”謎に”配信されていることに触れ、画面の向こうのファンにも手を振る。
その直後、1匹のバッタ(イナゴ?)がマイクが止まった。一瞬驚いたものの、これで多少リラックスできたのか「スッゲー」と無邪気に破顔。バッタを振り払うでもスルーするでもなく、愛おしそうにそっとつまみ優しく放してやる。虫にも愛を注ぐ風の谷のナウシカか?
Vaundyとはデビューが近く勝手に弟のように思っていること、精一杯リスペクトを込めてカバーをやったことを語り、遠慮がちに自分の曲を紹介した。
藤井風オリジナル曲 part1
まずはデビュー曲の「何なんw」。藤井風独特のグルーブ感に会場から自然に手拍子が湧き上がる。やはりオリジナル曲になるとキリッと挑むようなオーラを発する。いつものダイナミックなグリッサンドで「何なんw」が終わると、照明が落ち真っ暗闇に一筋のピンスポットライトが降りてくる。
そこに「帰ろう」のイントロ。この日は盆の入り。まるでこの細い光の橋を渡って、ご先祖様たちの霊が帰ってくるような錯覚を覚える。バックからのカメラが藤井風のうしろ姿越しに遠くの灯りを映し出し、微かな虫の声がまるでコーラスのように美しい。
「調子に乗って自分の曲を2曲もやっちゃいました」と笑いを誘い、さらにこのフェスを辞退せざるを得なかったアーティストのカバーを”コロナメドレー”と名付け更なる笑いを巻き起こす。
コロナメドレー
「一昨日出るんが決まって昨日練習したんやけど、ぼっけぇ難しくて・・・」と言いながらイントロを弾き始めたのはKingGnuの「Vinyl」。選曲が渋い。本家の持つ毒っ気あるオルタナロックテイストをレトロなビッグバンドっぽいアレンジで聴かせた。
一生懸命、譜面立ての歌詞ファイルを見ながら歌う顔に必死さが滲む。本当に難しかったのだろう。
続くカネコアヤノの「祝日」では、打って変わって子供に童謡を歌ってあげるような包容力のある歌声に。この日1番のほっこりタイムである。
BiSHの「オーケストラ」は立ち上がってアカペラからスタート。アップテンポながらも切ないメロディのこの曲を、ブレスが特徴のアイナ・ジ・エンド風にちょっと苦しげな息使いで歌う。モノマネしてた??
急遽決まった出演だけに、どの曲も十分なリハの時間が取れなかったに違いない。贔屓目に見ても完璧な仕上がりではなかった。だが、それでも彼は演り慣れた自曲での完成度よりも、この場に立てなかったアーティストへの敬意を優先した。
とは言え、譜面台のファイルにはコードもスコアの記載もなく、ただ歌詞が書いてあるだけだった。たった1日で7曲もの他アーティストの曲を覚え、おそらく耳コピであそこまで大胆且つ魅力的にアレンジし、ぶっつけ本番でやり切る技量はやはりタダモノではない。
藤井風オリジナル曲 part2
カバー曲を歌いきりホッとしたのか、ここでやっと水を一口飲み、聴いたことのない洒落たイントロを奏で始める。「きらり」だった。
自身最大のヒット曲だが、サビの高音部が掠れてしまう。それは上手く修正できず、どんどんファルセットが擦り切れていく。そこまでにかなりのエネルギーを使い切ってしまったのだろう。それでも途中、「ライジングサーン!!!」と声を限りにオーディエンスに呼びかけた。
MCで「人生いろいろあるけど、昨日より少しでもいい人間になろうと努力している。僕も全然ダメな日もあるけど、少しでもいい人間、優しい人間になろうと努力することに意味があると思う。ボチボチ頑張りましょうや」と訥々と話し、まさにそのことを歌った「旅路」を最後の曲とした。
すべてを出し切り終了かと思った時、マイクスタンドが登場。オマケの1曲はみんなで踊る「まつり」だ。「お盆やし、簡単やし、みんなで踊りたくて」と振り付けをレクチャー。
「え?みんな何でそぜんすぐできるん?!シュールやな。シュール映像じゃ!w」。そこでは何万という観客が一斉に掲げた手を左右に振っていた。
それまでのプレッシャーや疲れや緊張を一気に脱ぎ捨てた藤井風は、水を得た魚のように「ただのカラオケじゃ」と「まつり」を歌い踊った。会場の観衆だけでなく配信組、そしてこの世に里帰り中の数多の魂とともに。
それは、熱く幸せな盆踊り大会だった。
最後に、Vaundyをはじめ出演を諦めざるを得なかった皆さんの1日も早い回復を心からお祈りします。
読んでいただきありがとうございました。
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