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米津玄師 名前に宿る色彩の美学

「米津玄師の歌詞を因数分解して分かったこと」<第4章>

*プロローグと第1章〜3章は下記マガジンでご覧ください。

 人間の色彩識別能力は通常100万色と言われている。もちろん個人差があり、特殊な錐体細胞を持つ人だと1億色を知覚できるらしい。

 テレビやスクリーンで見ているのは光の色であり、RBGと言う三原色で構成されている。印刷物は特殊なモノを除いてほとんどがCMYKと言う4つの色の掛け合わせで多くの色を表現しているのだ。

 私は仕事がら色校正を嫌と言うほどやってきた。表現したい現物と、映像もしくは印刷物の色が限りなく同じになるよう調整する作業である。

 しかし、いつもいつも疑問に思ってきたことがある。

あなたにはこの世界の彩りが どう見えるのか?

 米津玄師が「春雷」でこう歌ったように、自分が見ている色が他の人にはどう見えているのか?この謎は永遠に解けない。

 また、仮に同じ色に見えていたとして、その色をどう呼ぶかの共通認識が必要となる。黒や白でさえ幾通りもの名前があるのだから。

 白を例を取ると、日本の伝統色においては「白」「純白」「生成色」「白百合色」「月白」「卯の花色」「胡粉色」「白練」など精細に識別されている。それ以外にフランス伝統色などもあり色の名前は無限に存在する。

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 イラストレーターでもある米津は、当然こう言った知識を持っているだろうが、歌詞で使用しているのは白、黒、赤、青、灰、緑、金の
わずか7色である。

 白については「白い」「真白」「ビアンコ(伊語で白の意」。黒は「黒い」「黒」「真っ黒」。その他の色についても「真っ赤」とか「青い」とか、意外なほど淡白な表現に止まっている。

 とは言え、そこは米津玄師、真白と形容されているのは「陶器みたいな声(orion)」だったりする。やはり侮れない。

 色にまつわるワードは全体の4割に当たる38曲で述べ57回使用しているが、特定の色の名前は「フラミンゴ」に出てくる「唐紅」と「サンタマリア」で使用している「紺碧」くらいだ。

「唐紅」とは下記のようなほんの僅かに青を含んだ赤である。
 英語だと「Crimson(クリムゾン)」と言い、単に色の名前だけでなく「血なまぐさい」「怒りや戸惑いで顔が赤くなる」などの意味がある。
「フラミンゴ」の世界観にピッタリではないか。

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 「紺碧」は、空や海の色を表現するときによく使われる深い青である。
 英語だと「Dark Blue」と何の捻りも情緒もない。色の名前を紐解くだけでも日本語の豊かさに改めて驚嘆する。

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 さて、米津は色の表現にさほど特殊な言葉を使っていないことが分かったが、「米津玄師の色表現は意外と単純でした」では済まない。

色彩表現だけに収まらない色使い

 彼は「色」と言う言葉を13曲で使用。名詞としての「色」以外に「色づく」と言う動詞もある。「彩り」も加えると15曲となる。

 辞書で「色」と引くと第一義である「色彩」の他に以下のような意味がズラーっと記載されている。

人間の肌色
表情や態度に現れる心身の状態
急変した感情が現れた場合の様子
気配
調子・響き
容姿が美しいこと
物事の美しさ、華やかさ
ものの趣
性愛、情事、欲情、色情
愛人、色男・色女、遊女
邦楽で主旋律ではない修飾的な節
醤油や紅の異称
(広辞苑、明鏡国語辞典からの抜粋)

 上記を踏まえて、歌詞中の「色」と言う言葉を抽出してみよう。

 「シンデレラグレイ」では「いろんな色で満ち溢れた街」「色づけやしないあたしへの当てつけみたいで」「色づかないあたし」とグレイなあたしの沈む気持ちを表現している。逆に「FlowerWall」では「限りない絶望も 答えが出せない問いも 全部ひとつづつ色づいていく」と歌う。

 米津は「色」を幸せの象徴として表現している。これは辞書にも定義されていないが、映像として鮮やかにその心模様を捉えることができる。

 また、何色と限定していないのにその色に既視感を覚えるのが「灰色と青」の「何故か訳もないのに胸が痛くて 滲む顔 霞む色」だ。
 
 この曲を聞くと私の脳内では、この風景が再生される。「朝日が昇る前の欠けた月を君もどこかで見ているかな」とこの時思ったのだ。

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 米津に限らず、曲はMVの色彩に引っ張られてしまうものだ。しかし、純粋に音楽から感じ取れる色合いを大切にしたい。
 色の名前を知らずとも、色の形容詞がなくとも、米津の歌から引出される記憶のパレットが人それぞれにあると思う。

「滲む色」はあなたにとって何色だろうか?

 余談だが、赤や黄をも含んだ深い深い黒色を「玄」と言う。

 美術家の篠田桃紅曰く「一筆の濃墨で書くのではなく、淡い墨を重ねて刻していき、真っ黒の一歩手前で控えた色」だそうだ。

 生来の才能に幾重にも努力を重ね、知識を重ね、経験を重ねてきた

米津玄師 そのものの色 「玄」

これからどんな色を塗り重ねて行くのだろうか?
漆黒の、その一歩手前まで。


この連載は2021年もまだまだ続きます。最終回は「愛」をテーマにしようと言うことだけ決めていますが、あとは行き当たりばったりです。引き続きご愛読いただけると嬉しいです。

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*日本の伝統色の出典はhttps://irocore.com/
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