藤井風のWORKIN'HARDでちょっと泣いた
いきなりだが、正直に告白する。藤井風に対し少しだけ行き詰まりを感じていた。もっと言えば若干飽きてきていた。
デビューアルバム「HELP EVER HURT NEVER」から「Grace」まで、破格の才能をまざまざと見せつける楽曲と歌唱力、演奏力。さらにMVでの演技力やライブパフォーマンスも含めた総合的な表現力、どれをとっても異次元なのに。
スピッてない曲が聴きたい!
藤井風の既発曲は、サウンドのバリエーションは多彩だがメッセージは一貫していた。どれも煩悩や執着との闘い、己との葛藤、セルフラブ、手放していくこと、ワンネスの大切さが歌詞に込められている。
それにどれだけ多くの人が救われ、気づきを与えられたことだろう。私もその1人だ。
だが、飽き性な上に生粋の俗物を自認する私は「スピ系メッセージはもうお腹いっぱい、ベタなラブソングでも何でもいいから別テーマの曲が聴きたいわ」と密かに思っていた。
「死ぬのがいいわ」の世界的ブームの影で、彼自身も言っていたように「Grace」で全部言い切ってしまい「もしかしたら”燃え尽き症候群”に陥っているのでは?」とか、新曲のニュースが一向に出てこないことに、「藤井風はもう曲を作れなくなってしまったんじゃ?」と、余計な心配までしやがった自分を今、猛烈に恥じている。
藤井風は燃え尽き症候群どころか、LAで新たな燃料を得て、「燃えよ」よりさらに進化し燃えていた。
10ヶ月ぶりの新曲「WORKIN' HARD」の破壊力
待ちに待った新曲「WORKIN' HARD」がバスケットボールW杯のテーマソングであること。更にサウンドプロデューサーがDahi、ミックス・エンジニアはJeff Ellisで、マスタリングはDale Beckerと、ドレイクやケンドリック・ラマー、SZA、フランク・オーシャン、ドージャ・キャットなど超一流アーティストを手がける豪華過ぎる布陣であることに度肝を抜かれた。
今まで最高のコンビネーションだったアレンジャー”Yaffle”の名前がない。
そして、8月25日0時。満を持して公開されたMVがこれだ。
何なんだ?このサムネは。事前に部分的に公開されていた超クールな曲に鋭角パンチを浴びせるような麦わら帽子姿。
精神世界の内側で観念的な理想像を追い求めていた藤井風が、W杯で躍動する選ばれしアスリートだけじゃない、市井の人々の労働を全肯定していた。彼の信条がより具体性を持って表現され、フェーズが明らかに変わったように感じた。
そこには精神論だけではどうにもならない生きていくために汗水たらし、身を粉にして働かなければならない現実がある。それがユーモアとクールさの絶妙なバランスできっちりと描かれている。
おそらくTikTokでのバズを狙ったダンスもあり、プロモーション体制もパーフェクトだ 笑
スクラップ工場、スーパーマーケット、茶畑、ゴミ収集、青果店、、、洗濯物を干しながら笑顔で彼らを迎えるのは主婦(主夫)なのかもしれない。
様々な職場で黙々と働く人々の鼓動、確かな足音、小気味よい手際がこの曲の要となるずっしりとしたリズムに呼応している。
複雑に絡み合うキックとピアノ。抑えた低音の多重ヴォーカル。晴れやかに泣いているようなサックス。最後の超ロングトーンのカタルシス。この曲を構成する音のすべてが、「ワーーキン ハーッ!」の規則正しく力強いビートに合わせて腹に響く。心に届く。
仄暗いポジティブ、スタイリッシュな泥臭さ、絶望的なハピネス…。アンビバレントな音像と映像が融合する。そこでそうせざるを得ない者たちへの讃歌だ。
ノルマ、勝敗、KPI…常に結果を求められる世の中にNoを突きつける。
だが、藤井風はこの曲で働く全ての人々を鼓舞し応援しているわけではない。人々の働く姿に触発され、鼓舞され、応援されているのだ。
「頑張れ、頑張れ」と応援されるより、自分が日々人知れず頑張っていることが誰かの原動力になっているんだと知ること、すでに頑張ってることをずーっと見てくれてる人がいることで、どれだけの人が報われるだろうか?
厳しい労働環境も、おそらく安月給も、代わり映えしない日常も、逃げだしたい苦悩として否定していない。それぞれの仲間たちと、それぞれの暮らしを、地に足をつけて淡々と生きる”カッコよさ”を描いている。
長年チマチマと続けてきた自分の仕事も「You've been working hard」と褒められたような気がして、ちょっと泣いた。
世界中のすべての「WORK」を心から尊敬し称賛し感謝する「WORKIN' HARD」
今年から勤労感謝の日のオフィシャルソングにしろ!!
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