高気圧に生まれ低気圧を愛する米津玄師
「米津玄師の歌詞を因数分解して分かったこと」<第24章>
*プロローグと第1章〜23章は下記マガジンでご覧ください。↓
米津玄師の歌詞を単語にバラして分析していると意外な発見に驚くことも多い。だが、今回テーマとして選んだ「天気・気象」に関して、最も多く使われた言葉は何か?とクイズを出したら、ほとんどの人が余裕で正解するだろう。
そう、答えは「雨」。
「天候・気象」に関する言葉は全体の43%に当たる38曲に登場し、語数は述べ66に及ぶ。
”雨宿り”や”雨晒し”などを含む雨関連ワードの登場回数は17回。曲数にすると13曲で、これは「風」と同数である。
”翡翠の狼”で「吹雪」が1回出てくるものの、1万曲以上の歌詞で使われている人気ワード「雪」を米津は1回も使用していない。
「雲」は2曲で使っているがどんな天気なのかは不明。「曇り」は”フラミンゴ”の「花曇り」1回のみ、J-POPにありがちな「虹」も”かいじゅうのマーチ”1曲だけである。
米津の歌詞はだいたい悪天候
”Loser”でも「幸先の空は悪天候」と歌っているように、米津の歌詞では低気圧が優位でだいたい天気が悪い。
数少ない高気圧でさえ「カンカン照り」(ひまわり)、「日照り」(海と山椒魚)と快適とは言い難い。”しとど晴天大迷惑”で繰り返される「いい天気」は、もうヤケクソとしか言いようがない。
”春雷”の「豊かなひだまり」も、片思いの切なさが強調されている。唯一、本当に心地いいのは「晴れた空に種を撒こう」「明日も晴れるかな」と歌う”パプリカ”くらいか?
荒天とぼんやりした視界
データでは「雷」に分類しているが「サンダーストーム」は「嵐」の一種であり「吹雪」もそこにまとめると、使用回数のトップ3が雨・風・嵐となる。
一般的に「天気が悪い」と気が滅入るものだ。しかし、米津は違う。
米津にとって雨が窓を叩く音は、胎内で聞く心音のような安らぎをもたらすのかもしれない。逆に曇ひとつないベタ塗りの晴天時、彼はどんな歌詞を書くのだろうか?
霧(きり)、靄(もや)、霞(かすみ)。いわゆるミスト系ワードが6曲の視界をぼやかしている。
「霧」「靄」は水蒸気の濃度で区別された気象用語であるのに対し、「霞」は水蒸気だけでなく煙や塵なども含む文学的表現である。
米津は「霧」1曲、「靄」2曲、そして「霞」を3曲で使用している。 英語だと、霧:FOG、靄:MIST、霞:HAZEと訳せる。
”HAZE”という単語そのものに「朦朧とする」という精神作用の意味が含まれている。
”BlackSheep”では、「霞掛かる声」が何を言っているかわからないということを、2行目の歌詞を歌わないことで表現している。意識がぶっ飛んでいるのは声の主ではなく本人の方だ。
”乾涸びたバスひとつ”は、バスごと海に沈んでいく安らかな絶望が、ゆっくりと間奏の叫びに覆われ、米津の声そのものが遠くに霞んでいく。
この似て非なる3つの言葉はそれぞれ異なる季節の季語でもある。
霧(きり) 秋
靄(もや) 冬
霞(かすみ)春
もし、米津がこの季語まで知っていて”まちがいさがし”を書いていたとしたら、「淡い靄の中」とは終わりかけの冬で「深い春の隅」が春分の頃。出会ってから2ヶ月後くらいを歌っているのかもしれない。
雷を「かみなり」とは歌わない
雷関連の言葉は7回出てくるが、それらは「雷鳴」「稲妻」「落雷」などであり「かみなり」とそのまま歌っている曲はひとつもない。
”amen”では「雷」を「いかずち」と歌っている。この語源は「厳つい霊」で、雷が恐ろしい神の力と信じられていた名残りである。まさに”amen”の世界観に合致する。米津はこの言葉をどこで覚えたのか?
ドラクエか?
STRAY SHEEPは気象アルバム?
最新アルバムSTRAY SHEEPは、全15曲中なんと12曲で述べ20回も何らかの天気・気象関連の言葉を使っている。逆に外に向かって出て行ったアルバム「Bremen」ではたった4曲(5回)でしか使われていない。自室にこもって制作した「diorama」よりも少ないのは意外だった。
雨の日が好きだと言っていた米津玄師。彼が生まれた日の徳島市は、降水量0.0mm、北東から木の葉をわずかに揺らす2.8m/sの軽風がそよぎ、最高気温は13.6度。
まるで天が祝福していたかのような晴天だった。
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