米津玄師のように踊りながら生きて行こう
「米津玄師の歌詞を因数分解して分かったこと」<第12章>
*プロローグと第1章〜11章は下記マガジンでご覧ください。
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誰に教わったわけでもないのに、幼子が音楽に合わせ全身でビートを刻むのを見た時、”ダンス”はDNAにプリインストールされている本能の一部ではないかと思ったことがある。
踊るのは体だけではない。ワクワクと「心踊る」ことも、調子に乗って「舞い上がる」こともある。これは英語のDANCEでも同じである。
厳密に言うと「舞い」は旋回運動、「踊る」は跳躍運動を指すらしい。
米津玄師は14曲で23回「踊る」「舞う」関連の言葉を使用している。”アリス”や”春雷”のように身体運動としての「踊る」もあるが、注目したいのは広義での「踊る」を巧みに歌詞に変換していることだ。
LOSERの「踊り」とは人目も憚らず夢中になること
LOSERの歌詞に出てくる「踊り」「踊る」を、「血わき肉おどる」のような”気持ちが昂り活力が漲るほど夢中になること”と捉えると、この曲の核心に近づけるかも知れない。漢字にすれば「躍る」の方だ。
”いつでも僕らはこんな風に
ぼんくらな夜に飽き飽き
また踊り踊り出す明日に
出会うためにさよなら”
”踊る阿呆に見る阿呆
我らそれを端から笑う阿呆”
”ここいらでひとつ踊ってみようぜ
夜が明けるまで転がっていこうぜ
聞こえてんなら声出していこうぜ”
夢中になれる何かを探そうぜ。がむしゃらに打ち込む姿を嗤う人間はどこにでもいる。お前はその一員でいいのか?冷静になろうと務めるんじゃなくて、冷静じゃいられなくなることを楽しもうぜ!と、半ば挑発するように鼓舞する。
ちなみに「鼓舞」とは太鼓を打ち舞うことから転じて「人を励まし奮い立たせる」と言う意味になった。
初めて本名と自らの声を出した、デビューアルバム「diorama」発売の3ヵ月ほど前に、こんなツイートをしている。これは米津玄師の根幹を成す重要なファクターだ。
「踊り散らし、恥を振り撒く」ことで追う傷は少なくないだろう。「変なやつ」「バカみたい」と米津も散々バカにされ、貶され、茶化されてきたことだろう。
それでも踊り散らすことの意義を、”アンビリーバーズ”や”TeenageRiot”、”リビングデッドユース”などの歌詞にダイレクトに反映している。
しかし、恥辱的な揶揄は他人から浴びせられるよりも、自分の中から染み出してくるものの方がタチが悪い。
「お前、こんなことして何になるの?」
「こんな必死になってバカみたい」
多くの凡人は他者の目ではなく、この意地悪な自意識にヤラれて心が折れてしまう。自分自身を客観視しながらも、なおも信じ続ける強さを才能と呼ぶのかもしれない。
でしょましょの「ダンス/踊り」は諦観と傍観
「でしょましょ」は冒頭から「いかがでしょう?あたしのダンスダンスダンス」と歌われているが、このダンスもまた身体的な踊りではなさそうだ。
この曲は、理不尽で異常な世の中を憂いながらも、そこで生きていかなければならないのならば、できるだけ心穏やかにいきましょうやと言う、処世の諦観が漂っている。
”異常な世界で凡に生きるのがとても難しい
令月にして風和らぎ まあまあ踊りましょ”
悪意に満ちたSNS、凶悪犯罪や災害に滅入ってしまいそうになる”あたし”は、それらに背を向け独り心躍らせようとしている。
2019年の曲だが、コロナ禍の今を予期していたかのようだ。
私たちもただ、泣き笑い叫びながら蠢く人間の生々しい声をBGMに、見よう見まねのぎこちないダンスを踊るしかないのだ。
箱庭を出て夜の淵で踊る”笛吹けども踊らず”
「笛吹けども踊らず」は「あれこれと手を尽くして働きかけるのに誰もそれに応じようとしないこと」で、新約聖書の言葉である。
この曲では、ベロベロに酔っ払った自分だけが夜の淵で踊っている。
”ヘトヘトの目の人たちは昨日の夜のことばかり問う
俺は酒を呑んだんだ 夜の淵踊ったんだ”
箱庭から覚悟を持って外に踏み出したシングル「サンタマリア」のカップリングが、この「笛吹けども踊らず」かと思うといじらしくなる。独りよがりな自分や、変化を拒む者との決別の意と葛藤が不安定なサウンドに見え隠れする。
誰も悪くないだろうなあ なあ
円満で終わろうや 手を繋いでさ
笛吹けども踊らず
あの時、笛ふけども躍らなかった者たちはもう米津の船からは降りたのだろうか?自分の才能を信じて踊り散らし、遣る瀬無い世の中で自分の心を宥め心踊らせながら、遥か遠くにまで行った米津玄師。
そして今、”夜の淵で踊りましょ”と優しく誘いかけてくる。
一緒に踊ってみよう。がむしゃらに、穏やかに、ばかにされながら。そう踊れない誰かも誘って。
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