米津玄師が1度も歌詞に使っていない言葉<Vol.2> ありそうでなかった歌詞編
「米津玄師の歌詞を因数分解して分かったこと 番外編Vol.2」
*<プロローグと第1章〜30章+番外編Vol.1>は下記マガジンでご覧ください。↓
前回の番外編Vol.1では、米津玄師の「歌詞になさそうで、本当になかった言葉」をピックアップした。
その記事がこちら↓
このVol.2では「ありそうなのに、実はなかった言葉」について考察したい。なお、「ありそう」の基準は筆者の主観であり「米津玄師が使いそう」と言う意味である。
*各単語の( )内の数字は、UtaNetの27万曲以上の歌詞データ検索による当該ワードの使用曲数。
情緒的な情景描写にありそうでなかった言葉
米津玄師の歌詞に対し、カナリヤMVをディレクションした是枝裕和監督は「曲の中に風が吹いているようだ」と言った。まさにその通りだと思う。米津の情景描写は、微かな空気の流れ、温度や匂いまで感じられるほど豊かな季節感に彩られている。
なぜかすっぽり抜けてる「秋」と言う季節
しかし、「季節(17348)」「四季(409)」と言う言葉はどこにも使っていない。春夏秋冬では、なぜか「秋(6362)」だけがない。それに付随して「枯れ葉」「夜長」「虫の音」など、秋らしい言葉も見当たらない。
唯一、秋の時候を表す言葉「薄ら寒い」を”フラミンゴ”で使用しているが、「薄ら寒い笑みに」は季節とは関係なさそうだ。ちなみに「寒い(3513)」、及び「涼しい」など「涼(1014)」関連も無かった。
実りの季節なのにどこか物悲しい秋を、米津が歌にするとどうなるのか興味深い。「白秋」「風祭り」「落葉」「冬隣」「幻月」「鬼灯」など秋にまつわる美しい日本語は、米津のメロディに合いそうな気がする。
季節の名前は”Bootleg”以降に集中している。
”Bootleg”は菅田将暉、DAOKO、池田エライザ、常田大希、辻本和彦など、より多くの他者と関わることによって生まれたアルバムだ。ずっと1人の部屋に篭っていた米津が、それまで書かなかった季節を書き始めたのは、彼が完全に外界に出た証と見るのはいささか深読みしすぎだろうか?
また、季節・自然情景で、日本語歌詞の多くに登場している「雪(11625)」「夕焼け(3118)」「桜(4720)」「三日月(1305)」「夕立(874)」も、ありそうだが実際はどの曲にも使われていない。
<追記>
「蕾」は「莟」と言う漢字で”ペトリコール”で使用していたため、削除した。
唯一具体的な地名は「東京」
米津が歌詞にした地名は、”amen”に出てくる「東京(3740)」のみ。
自分が歌詞に書いているのが想像の中にある風景だったし(略)「東京」のように具体的な地名や特定の場所を指す言葉は使いたくなかったんです。
(ナタリーインタビューより)
”実際自分が住んでいる社会とちゃんと関わって自分の現在地をしっかり出して行こうと思い、あえて「東京」と具体的な地名を入れた”そうだ。
しかし、これ以前も以後も「都会(4245)」と、その描写に使われそうな「雑踏(735)」「渋滞(756)」「騒音(144)」などの単語は一切使用していない。
米津の歌う都会には"Alice"のような歓楽街でのバカ騒ぎソングもあるが、不夜城に訪れる一瞬の静寂を切り取ったような”PaperFlower”も、いかにも東京らしい楽曲だ。だが「静寂*(せいじゃく)(1884)」と言う言葉はどの曲にも使われていない。
<追記>
*「しじま」は2曲で使用されているが漢字表記だと「静寂」「黙」である。
「ネオン(2417)」は歌詞には出てこないが、心が離れてしまった旧友への歌を”neon sign”と名付けている。それは同郷の友と別れたのがネオン輝く東京だったからかもしれない。
そして、米津の曲に「故郷(6055)」と言う歌詞はひとつもなかった。それでも、幼い頃の記憶、田舎の豊かな自然、鬱々とした青春期など、故郷を感じさせる楽曲が数多くある。
いかにもありそうなミュージシャンらしい言葉
「歌(38061)」は以前の記事でも書いたように40曲(+ゆめうつつ)と非常に多く使われているが、「曲」、さらに「詩・詞」は全く使われていない。
米津はギターで曲を作ることが多いらしいが、「エレキ(126)」はあっても「ギター(2784)」はなかった。これも意外である。
楽器は「ピアノ」「オルガン」「ラッパ」「笛」が出てくる。
さらに、ありそうでなかったのが
「旋律(1137)」
「リズム(6578)」
「奏でる(5015)」*活用含む
「弾く(1245)」*活用含む
「リフレイン(410)」
「マイク(1490)」
「スピーカー(459)」
「フレーズ(970)」
中でも意外だったのは、「メロディ(8262)」を2曲(TeenageRiot、PaleBlue)で使っているのに「旋律」がなかったことだ。また、「ビート(2911)」と「コード(1841)」はそれぞれ1曲に使用しているが「リズム」はない。いずれ出てきそうだ。
これから出てきそうな米津っぽい言葉
筆者が「え?これないの?」と一番驚いたの言葉が、「儚い・儚く(5965)」だ。
米津にはその細い身体や白い肌、繊細な佇まいから、フッと消え入りそうな儚い印象がある。危うい不安定さや刹那の美が淡く漂うような楽曲も多い。故に「儚い」は必ずどこかにあると思い込んでいた。さらに、「脆い・脆く(991)」も使っていなかった。
「儚い」「脆い」は、いつかは使いそうな言葉の筆頭だと勝手に思っている。
一方で「暴力」「銃」「殴られ」「爆破」「喧嘩」「罪」「敵」「責め苦」など物騒なワードも散見する。それを踏まえると、下記はまさに「ありそうでない」ワードではないだろうか。
「毒(2567)」
「破壊(672)」
「崩壊(544)」
「罰(1256)」
「奈落(425)」
「葬る・葬り(108)」
「呻く・呻き(68)」
「恐怖(1021)」
「悲鳴(817)
米津の曲には毒っ気のあるものが多いが「毒」と言う言葉は「中毒」を含め全く使われていない。”TOXIC BOY”と言うモロに「有毒・毒性」を意味するタイトルの曲に「あんたの持ってる錠剤頂戴」とかなりギリギリの歌詞もあるが。
さらに”BlackSheep”の歌詞カードにはないが、音源でやっと聞き取れる怪しい英語「I can blaze you」は「怒りの炎であんたを燃やせる」と言うような意味だが、「I can bleezie」とも聞こえる。これはマリファナを匂わす隠語でもある。洋楽によくある大麻のスラングに「SMOKE」があるが、米津は「煙(4926)」と言う言葉を「煙草の煙」とNeighbourhoodで1度だけ使っている。合法である。
良くも悪くも「毒」を含むものには言い知れぬ魅力があるものだ。米津は「毒」と言うワードを使わずしてリスナーを中毒にしている。
恐ろしい。
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次回も「ありそうでなかった言葉<人間関係・恋愛・色気編>」を予定していおります。お楽しみに!
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