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米津玄師「Pale Blue」とドラマ「リコカツ」のシナジー

 話題のTBSドラマ「リコカツ」の初回オンエアを観た。もちろん、米津玄師の新曲目当てである。

「リコカツ」のテーマは何か?

 「リコカツ」は思いの外よくできたドラマだった。デフォルメされたキャラと演技、現実味の薄い設定が苦手であまり連ドラは見ないのだが、そんな視聴者をもどれだけ感情移入させられるかがテレビドラマの力量というものだ。

「リコカツ」は、”普遍性”と各年代がそれぞれに抱える”今の時代性”を的確に捉えている。

・男女平等が当たり前の時代でも共働き夫婦がいまだに直面する問題
・結婚という形をとることによる弊害、取れないことへの焦燥
・急増する人生100年時代の熟年離婚
・後輩や部下に押し付けがちな古い価値観とハラスメント
・年齢に抗う滑稽さと切なさ、そして勇気
・こんな時代だからこその古き良き家族像、夫婦像への憧憬

 人を愛するということの本質は「理解」なのか「献身」なのか「信頼」なのか?結婚の意味とは何なのか?家族とは何なのか?を、主人公2人と元彼、さらに2組の両親を通じて問いかけてくるドラマになりそうだ。

Pale Blueは大人のラブソング

米津玄師の新曲「Pale Blue」を聞く前に、過去の米津のラブソングを分析した記事を書いた。

 ドラマで3分以上流れたもののこれでフルではないだろう。が、とりあえず上記の記事中にあるマトリックスにプロットするとしたら、メランコリーキッチンのやや右上、横ラインの線上あたりだろうか?

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 ドラマ第1話では「あなたのことが何より大切でした」と歌うほど2人の間に愛は感じられなかった。

 しかし、この曲がドラマにガッツリと寄り添い、最終回での響きが最大化するのだとしたら、離婚に向けて進んでいく中で知らずのうちに育まれた愛が「ずっとずっとずっと恋をしていた」から「ずっとずっとずっとずっとずっと恋をしている」に変わり、幸福度トップにある”ブルージャスミン”を凌ぐのかもしれない。

 大切なものは失ってから気づくと言うが、この曲では失う寸前に気づき”忘れられないくらいに抱きしめ合った”。

 きっとどんな夫婦でも多かれ少なかれ、PaleBlueの雨が降って地が固まるのだろう。

 聞き取れたところのみでしか言えないが、第一印象としては「わかりやすい」と思った。歌詞考察など不要なほど、西野カナでも書きそうなラブソング然としたプレーンな言葉を使っている。

あなたの腕 その胸の中 強く引き合う引力で
ありふれていたい 淡く青いメロディ
行かないで ここにいて
側で何も言わないままで
忘れられないくらいに抱きしめ合った

 その中で「ありふれていたい」とか「淡く青いメロディ」と言った言葉たちがポツポツと雨粒のように心を濡らす。

友達にすら戻れないから
私 空を見ていました

 「友達にすら戻れない」と言う類の歌詞もざっと検索しただけで30曲以上も出てくるフレーズであるが、米津の手に掛かると、その後に続くのが「私 空を見ていました」となる。これだけで涙を堪えていることがわかる。

「枯れたエーデルワイス」と言う歌詞も気になる。以前、米津の歌詞内の花を分析したとき(←クリックで当該記事へ)には出てこなかった花だ。
エーデルワイスの花言葉は「大切な思い出」だ

 さらに、名画「サウンドオブミュージック」で歌われる「エーデルワイス」と言う有名な曲をご存知だろうか。その歌詞には「あなたは私に会えて嬉しそうだ。雪の花よ、永遠に咲いていておくれ」とある。雪の中で夫役の紘一との出会いを待っていた主人公「咲」のことのようではないか。

You look happy to meet me.
Blossom of snow, may you bloom and grow,
bloom and grow forever.
Edelweiss, Edelweiss,
Bless my homeland forever.

「黒ずみ出す耳飾り」は、いつの間にか劣化してしまう2人の関係性を、硫化するシルバーのピアスで表現している。そして、これも以前の分析通り、アクセサリーは日本語だった。(←クリックで当該記事へ)

「淡く青いメロディ」とは、雨音のことではないか?主人公の幼少期の寂しさの象徴として、「雨」がこのドラマのモチーフとなっている。アー写からもペールブルーが水のイメージにリンクする。

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 そして、愛してると言わず「恋してる」と言う。これは”カナリヤ”の「見失うそのたびに恋をして」と同様に、一瞬一瞬の変化の肯定に繋がっていく。(フルを聞いたら「愛してる」と言ってるかもしれないがw)

女心を理解する難しさ

 この曲は女性目線で描かれているが、これには米津も相当苦労したのではないか?インスタライブでの「匂わせ」発言にそれが見え隠れする。

性の差による求めるものの違いっていうのはあるにはあるじゃないですか?(略)例えば自分は男だから女性の考えていることってのはある種、対岸の事実であって、その対岸に対してどうすればいいのかっていうのは絶対に対面しないとわからないですよね。

 インスタライブがあった3月初旬はこの曲の制作真っ最中だったはずだ。この発言は、まだ公にできないPaleBlue制作に行き詰まった末にぽろっと出たものだろう。彼はその後「女心」をどう咀嚼していったのだろうか?

曲調は壮麗でメロディアス、声は絶品

 ドラマ後半で「ずっと」と言う声が聞こえた瞬間、主題歌としていかがなものかと思うほどの求心力でセリフに集中していた全神経がその声に持っていかれた。おそらく坂東祐大によると思われるストリングスアレンジは、壮大にして軽やかだ。

 歌詞がストレートに近づいた分、曲の方は転調、転拍子もある複雑な変化球になっている。

 しかし、そのメロディは優しさと切なさが柔らかく肌に馴染む。特に8分の6拍子のメロディラインはラフマニノフのピアノ協奏曲2番ハ短調 第2楽章を彷彿とさせる優美ささえ漂う。(あなたの腕 その胸の中〜以降)

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 ボカロなどの身体性のない音楽が受容されスタンダードとなってきたことで、さらなる自身のディストネーションを探った答えが「PaleBlue」なのかもしれない。

 Pale Blueのメロディ、アレンジ、歌詞には品のいい甘さと高級感を感じる。そして、米津の声にはいつもの脆さや儚さに宿る色気とは違う、包容力にも似た「男の成熟」が薫る。大人のラブソングだ。

ドラマとの相乗効果はいかに?

 曲自体にも「成熟」を感じる。今までの米津の曲のようにちょっと考えながら聴いてしまうことがない。耳から脳を経由して心に届くのではなく、皮膚呼吸のように全身を蕩けさせる。

 結局「行かないで ここにいて」とか「ずっと」の連呼みたいな頭を使わない歌詞が一番グッとくるのは、ドラマのピースとして最高なのではないだろうか?

 Pale Blueはゆめうつつと両A面でリリースされるのだろうか?ものすごく売れると思う。カップリングには猛毒を仕込んでおいて欲しいが。

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