今更すぎる米津玄師「Flamingo」の考察
国民的大ヒット曲「Lemon」の次がもし「Flamingo」じゃなかったら、今の米津玄師はいなかったかもしれない。この曲はそれくらい大きな分水嶺だったように思う。
例えば「カナリヤ」とか「PaleBlue」のような”泣ける”壮大なバラードが続いたら、ヒットはしただろうが良くも悪くも米津玄師というアーティストのイメージが固定されてしまったのではないか?
自分の商品価値を毀損していきたい
安住の地を嫌い常に別の方向へと舵を切り続けてきたことが、デビュー10周年を振り返った時に”一本通ってきたこと”だと語る。インタビュアーの「逆張りポジティブ野郎(笑)」という返しに大笑いする米津は、「Flamingo」もゲラゲラ笑いながら作ったと言っている。
このハチ時代からの一貫した自称”あまのじゃく”な姿勢こそ、米津が常に鮮度を保ち、新規ファンを雪だるま式に増やし得る魅力であり強さだ。
ノンタイアップならではのパーソナルな曲
「Lemon」以降のシングル表題曲はすべてタイアップ付きの書き下ろしである。その中で「Flamingo」だけが唯一「深く考えずに自分のパーソナルな部分とかをガーンと出していった」曲だ。(NTV「ZIP!」インタビューより)
では、そのパーソナルな部分とは何だったのだろうか?
米津にとって「Lemon」は1つの終着点だったと言うが、世間からみたら、終着点どころか顔もよくわからない新星への興味関心が一気に噴き出した頃だ。彼を取り巻く環境は激変したに違いない。当然いいことばかりではなかっただろう。
そこで感じた怒りや苛立ちを含んだ”生意気”で”挑発的”で”チャランポラン”で”みっともない”自身の言動が、咳払いやカラ返事と言ったボイスサンプルとなって散りばめられている。(””内のワードは全て本人談)
フラミンゴとは何の比喩なのか?
米津がインタビュー出演したNTV「ZIP!」は「Flamingo」をこう紹介した。確かに和テイストの曲調や演歌っぽい節回し、古語を多用した歌詞から、遊郭の高嶺の花に恋をして相手にされなかったみっともなくも切ない男の歌にも聴こえる。
だが、この曲が生まれた背景を踏まえて歌詞を見返してみると、「あなた=フラミンゴ」と「あたし」はどちらも米津玄師のことのように思えてならない。
つまり「フラミンゴ」とは華やかなスポットライトと歓声を浴びる”ポップスター米津玄師”のことであり、「あたし」はパソコン前で音楽を作り続ける”妖怪イス座り”こと、地味なソングライター米津玄師。
米津は、フラミンゴという鳥を、”美しいものという意識があるが、よくよく見るとメチャクチャ気持ち悪い”ものとしてランウェイモデルに喩えている。
この発言は「自分がステージに立つことへの違和感があった」「自分の体型は奇妙」などの言葉とリンクし、米津玄師=フラミンゴという仮説を裏付けたような気がした。
歌詞に秘められたノンフィクション
「Flamingo」とは”米津玄師が、米津玄師を、皮肉と覚悟と愛を込めて見送った歌”として読み解くと悲恋ソングの皮膜が剥がれ落ちていく。
まず、冒頭から全てイ段で韻を踏んだ5文字の古めかしい言葉が並び、サウンドだけでなく歌詞がキャッチーで目眩し的な「音」として飛び込んでくる。
1コーラス目はお酒の席で感じる疎外感が漂う。立場が変わったことにより生じる友や仲間、昔のファン、そして自分自身との溝。嫉妬、軋轢、阿諛迎合…。一方で爆発的に増えた新規ファンと知名度。
自分と一体だった”米津玄師”が、パブリックな存在となり”薄ら寒い笑み”を浮かべ眩い光の中でフラフラと踊っている。
「次はもっと大事にして」は自分のことを大事にして欲しいのではなく、酒だか熱だかに侵されてフラフラしているポップスターに向かって「お大事に、ご自愛を」と言っているのではないか?
2コーラス目は立て続けに憧れの人たちに会えた嬉しさを指している。インタビューによると、それはBUMP OF CHICKENのメンバー、スタジオジブリの宮崎駿、鈴木敏夫、実況動画プレイヤーのジャック・オ・蘭たんのことらしい。
そんな喜びに浮かれていたいのに”たかりだす昼鳶”が煩わしい。マスコミや広告業界が新たな商売のネタに寄ってたかったことは想像に難くない。
それでもフラミンゴはフラフラとくだらないステージに浮かんで光っている。”そりゃないね もっとちゃんと話そうぜ”と言っても、はにかんで「さいなら」と去っていく。
残された米津はここで腹をくくるのだ。
あたしが右手に持つ”ねこじゃらし”とはマウスのことだろう。ソングライター、プロデューサーである米津玄師が真摯に音楽に向き合い、まだまだこんなもんじゃない、もっといい曲を作ろうと決意を新たにした。
間で漂うの間とは、大衆と自分との間であり、2人の米津玄師の間。魑魅魍魎の芸能界が地獄なら、閻魔様にポップスター米津玄師をよろしくとお願いし、「やったれ死ぬまで猿芝居」と彼の背中を力強く押している。
「Flamingo」から4年余り、その間の米津の実績は歴史的ヒットを記録したSTRAY SHEEPをはじめ、もはや王者の風格を纏うまでに至っている。
「昔の米津玄師、昔のハチに帰ってきて欲しいと言われても、もう帰れない」そう言った彼は、今、この瞬間もまだ誰にも見えていない音楽を描き、猿芝居ならぬポップソングの真髄を射抜こうとしているに違いない。
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