米津玄師は歌の中でどんな歌を歌っているのか?
「米津玄師の歌詞を因数分解して分かったこと」<第21章>
*プロローグと第1章〜20章は下記マガジンでご覧ください。
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音楽と歌は似て非なるものだと思う。音楽は楽器のみでも成立するが、歌とは”音符にレイアウトされた言葉を声で表現”するものだ。
米津玄師が作る音楽は、まさに「歌」そのものだと思う。
インストオンリーよりも、歌詞が乗ることでパワーアップする”言葉の比重が大きい”音楽だ。そのことは米津も自覚しているらしく、Rockin'onJapanのインタビューで、”打ち上げ花火”制作時のことをこう語っている。
「自分は歌詞がないと曲が作れないなってことに気づいて(略)メロディラインだけを考えてきたんですけど、そこに情景とか言葉が乗ってないとどうもしっくりこない(略)自分は言葉がないとメロディも作れなかった」
「歌の中で歌を歌っている」のは40曲
そんな米津の歌の中には、まるで劇中劇のように「歌」(哀歌、子守歌等を含む)や「歌う」(活用形含む)と言う言葉が全体の45%に当たる40曲に登場する。今回のデータには加えていないが、新曲”ゆめうつつ”にも「その歌は誰かに夢に繋がるだろう」と言う歌詞がある。
では、いったいどんな歌を歌っているのか?
”歌”を形容している歌詞を下記に羅列してみた。( )内の楽曲の中に出てくる”歌”を具体的に脳内で再生できるだろうか?例えば、”迷える羊”の「最初で最後の歌」とはどんなメロディでどんな歌詞なのだろう?
混沌の夢みたいな歌(砂の惑星)
ヒーローになるための歌(ピースサイン)
夜の底に朝の淵にこそ響く歌(飛燕)
後悔の歌(アンビリーバーズ )
ソングフォーユー(ホープランド)
曖昧な歌(首なし閑古鳥)
哀しい歌(トイパトリオット)
カスみたいなだけど確かなバースデーソング(TeenageRiot)
誰より誰かに届く歌(TeenageRiot)
掻き毟って吹き荒び鳴る哀歌(ひまわり)
最初で最後の歌(迷える羊)
戦わない歌(KarmaCity)
掠れ立ちぬあの歌(海と山椒魚)
汚れることのない歌(サンタマリア )
馬鹿な歌(クランベリーとパンケーキ)
悲しい歌(雨の街路に夜光蟲)
子守歌(ゆめくいしょうじょ)
ララバイ(ララバイさよなら)
バーバラアレン(Neighbourhood)
「混沌の夢みたいな歌」(砂の惑星)は、数多のボカロ曲のことであろう。「ヒーローになるための歌」(ピースサイン)の歌詞が”遠くへ行け”であることはわかるが、そのメロディまではわからない。
逆にはっきりと具体性を持って聞こえる「歌」が3曲ある。
ひとつは「馬鹿な歌」だ。それは”クランベリーとパンケーキ”そのもののことだ。米津は公式YouTubeチャンネルでこの曲は最後の2行が大事と語っている。
「こんな馬鹿な歌ですいません
嗚呼毎度ありがたし」
本人曰く「二日酔いの最悪な気分そのままのパーソナルな歌」だそうだが、聴くものにとっては「馬鹿カッコよく、馬鹿エロく、馬鹿オシャレな歌」なのではないだろうか?馬鹿と言う言葉にはこんな意味もある。
”度が過ぎること。並はずれていること。”
2つ目は「ソングフォーユー」。”ホープランド”は優しい8分の6拍子のリズムに「いつでもここにおいでよね」と言う、これまた優しい歌詞が乗る救いの歌である一方で、実際は「ホープランドなどどこにもない」と言う身も蓋もないほど厳しい現実を突きつける歌でもある。
この曲の中に出てくる「ソングフォーユー」「そんな歌届いたら」「この街は君の歌を歌う」はすべて”ホープランド”と言う曲自体を指している。
3つ目は”Neighbourhood”で聞こえている「バーバラアレン」。バーバラアレンには様々なバージョンがあるが、Neighbourhoodの中で鳴っているのは、米津が一番好きだと言っていたこのバーバラアレンに違いない。
”ララバイさよなら”と”ゆめくいしょうじょ”に出てくる子守歌=ララバイは、同じだろうか?
”ララバイさよなら”における子守歌は、「永眠」を促すような皮肉を込め異様な明るさを纏った歌のような気がする。”ゆめくいしょうじょ”の子守歌は、後半に米津がギターのボディを叩きながらアカペラで歌うあのフレーズのことではないか?
こうして歌の中に出てくる”歌”を想像していると、その歌を実際に聞いてみたくなる。いつか「最初で最後の歌」と言う新曲が出たら面白い。合わせ鏡のようにキリがなくなりそうだがw
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