アニメ主題歌分析から読む、米津玄師「KICK BACK」のポテンシャル
世界を席巻する日本の漫画・アニメ
日本の漫画市場は出版不況にも関わらず、昨年は6759億円と過去最高を記録*した。北米でも2021年の総売上高は、20億7500万ドル(約2800億円)と前年比で62%増。 *デジタルコミック含む
絶好調の日本の漫画・アニメは、そのクオリティ・人気ともに世界に誇る輸出産業だ。
例えば、アメリカにおける書籍売上の最新データを見てもトップ20のうち、日本のコミック単行本が7作品18巻もランクイン。
グローバルメディアのANIME CORNERが行った”この秋最も期待するアニメ作品”調査でもトップ10はすべて日本の作品である。
中でも一番人気の「チェンソーマン 」は、初回放送直後からAmazonPrimeVideoなどで続々と配信が開始され、国内外のアニメファンを熱狂させている。
豪華アーティストが名を連ねるアニメ主題歌
「チェンソーマン 」は主題歌も話題沸騰。オープニング曲は米津玄師。エンディングはVaundyをはじめ旬のJ-POPアーティスト12人が週替わりで曲を提供する豪華な布陣だ。
ちなみに「チェンソーマン」と僅差で2位の「BLEACH」の主題歌はキタニタツヤの「スカー」(11/23リリース)。
3位のSPY×FAMILYはOP曲をBUMP OF CHICKENが、ED曲をyamaが歌い、一足先に国内チャート上位に登場している。
アニメ主題歌はヒットしやすいのか?
チェンソーマンOP曲「KICK BACK」は、米津玄師にとって5年8ヶ月ぶり3作目のTVアニメ主題歌となる。
既に配信初日で29,000DLを売上げ、オリコンDLランキングに堂々の1位初登場。さらに各種配信チャートで31冠を獲得。同曲をフィーチャーしたノンクレジットOP映像はわずか2日足らずで1146万回も再生され、あらゆる言語でのコメントで溢れている。
評価順で上位100コメントくらいを見たところ、KENSH YONEZU、あるいはKICK BACKに言及しているのはざっくり15%くらい。曲と映像とのマッチングや歌声への称賛がほとんどだ。
また、Spotifyが発表した2021年”海外で最も再生された日本の曲”トップ10のうち、アニメ関連曲が8割を占めている。
もはやMVやフィジカルのリリースを待たずとも記録的大ヒットは約束されたようなものだが、果たして実際はどうだろうか?
国内ヒットチャートにおけるアニメ主題歌の実績
2017年〜2021年の5年分+2022年上半期のBillboard Japan年間総合チャートを見てみよう。
色付きのセルは主題歌or挿入歌で、TVドラマはピンク、実写映画はグリーン。劇場用アニメはブルー、TVアニメはイエローで色分けした。
実写作品が14、アニメ作品が14と同数だが、社会現象化した鬼滅ブームが牽引したのか、2020年以降は実写作品よりもアニメ主題歌のヒットが目立つ。
次にアニメ関連曲に絞ったデータを一覧表にしてみた。劇場用アニメが31作品、TV・NETFLIX配信アニメが29とほぼ同数で、アーティスト別では下記の3組が強い。
「KICK BACK」が売れない理由が見当たらない
ここまで検証してきて「KICK BACK」のどこにも死角が見つからない。次週、当たり前のように総合チャート1位に君臨するだろう。
何よりも曲そのものが、共同プロデュース&アレンジをした常田大希とのタッグにより更にパワーアップしている。
主人公デンジが憑依したような歌詞。
米津らしいトリッキー且つキャッチーなメロディ。
それらを容赦なく蹂躙するベース、
地鳴りのようなキック、
いきり立つギター。
それこそデビルのように襲いかかる獰猛なサウンドに、ありったけのテストステロンを奔出させて立ち向かう米津の声。
才能と才能がぶつかり合う”しやわせ”な死闘。
唸りをあげるチェンソーのようなシャウトは、耳鼻咽喉科からドクターストップがかかりそうなほど痛々しくもあるが、米津はまるで新たな楽器を手に入れた子供のように心底楽しそうだ。
前曲「M八七」同様、いやそれ以上に”主題歌の悪魔”との評に値する「チェンソーマン」の血肉のような楽曲である。
ロングヒット曲「ピースサイン」超えのために
だが「KICK BACK」が「ピースサイン」のように長く愛される曲になるかは未知数だ。
「ピースサイン」のチャート成績
HOT100連続チャートイン 100回(CDリリース後)
HOT100延べチャートイン 115回
*Billboard Japanより
彼自身が描いた「KICK BACK」のジャケットで、チェンソーマンのスターターロープを引っ張っているのが、「ピースサイン」の時の米津に見える。
米津にとって超えるべきアニメ主題歌の金字塔は「ピースサイン」なのかもしれない。
課題は若年層からの支持拡大
人気アニメ主題歌だけでなく多くの楽曲が1年以上のロングヒットを連発する中、2021年以降の米津の曲は、CD /DLの売上げやスタートダッシュこそいいものの、わずか2〜3ヶ月でチャートから姿を消している。
様々な要因があるだろうが、ストリーミングの弱さとカラオケ人気の低さが大きく影響しているように思う。どちらも”音楽を所有しない”傾向にある”若年層からの支持が重要な指標だ。
一例として、ストリーミングに強いOfficial髭男dismの「ミックスナッツ」と「M八七」を比較してみると、その差は一目瞭然だ。
ストリーミング指標(M八七は14週で圏外)↓
カラオケ指標(M八七は1度もランクインせず)↓
総合HOT100(M八七は15週で圏外)↓
例えば、カラオケでピースサインをよく歌う人の割合を見てみると、今でも圧倒的に若者が多く、BIllboardJapanのカラオケ指標でもトップ100に145回もランクインしている。
これに対し、前曲の「M八七」は、どうやら、おじさん・おばさんの愛唱歌となっているようだ。初代ウルトラマン世代にウケた映画の主題歌なので当然と言えば当然かもしれない。
しかし、若い女性に人気だったと言うドラマ主題歌「Pale Blue」はさらに年齢層が上がっており、若者には不人気だ。
もっと言えば、2021年以降の曲はカラオケ指標のトップ100にも入っていない。(Pale Blueのみ4週ランクイン・最高70位)
また、MVの視聴回数も下がっているがこれについてはまた別の記事で。
フィジカルが売れるのは、ガッチリ課金してくれる固定ファン基盤の強さの表れでもあるが、一方でストリーミングがスタンダードになりつつある時代から取り残されていく懸念もある。
中高年層も含む固定ファンも大切にしつつ、コスパ/タイパを重視する移り気な若者とのタッチポイントを増やしていくことが、「ピースサインを」超えるロングヒットへとつながるのかもしれない。
「とりあえずTikTokのポスト増やした方がいいな」と思ってたら、すでにパンチのあるやつが投稿されていたw
「KICK BACK」は久しぶりのロングヒット曲となるか?!楽勝でなりそうだな。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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