米津玄師の「また明日」につながる大切なこと
「米津玄師の歌詞を因数分解して分かったこと」<第7章>
*プロローグと第1章〜6章は下記マガジンでご覧ください。
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明日と言う言葉は、元を辿れば ”夕べの対義語”、つまり”朝”のことだ。英語の「Tomorrow」も語源は、"To + morrow(朝と言う意の古語)"で「朝に向かって」と言う意味である。
夜眠りにつく時、愛する人が「また明日」と言ってくれたら、文字通り朝に向かって、スキップでもしながら夢の中を進んで行けそうではないか?
米津玄師は「昨日」「今日」よりも「明日」と歌う。
米津の全88曲中(除:ゆめうつつ)21曲で「明日」と言う言葉を使用している。「今日」は12曲。「昨日」が使われているのは、わずか3曲しかない。「明後日」は2曲で、その先の未来はいきなり「千年後」まですっ飛んでしまう。
千年後の未来については、
「僕らは生きていない(迷える羊)」
「千年後に起こして(ララバイさよなら)」
「今後千年 草も生えない(砂の惑星)」
と奥底に期待を秘めた諦観を歌っている。
明日と言うすぐそこにある未来は、
今日の延長線上にあるのか?
それとも全く新しい1日なのだろうか?
”ブルージャスミン ”や”パプリカ”では、幸せな今日の継続としての「明日」を願い、”再上映”では悶々とする今日が続く「明日」を憂う。
一方で ”アリス”の「全てを明日に任せて 踊ろうぜもっと」のように、享楽的な夜から切り離された明日もある。
「明日」は誰にでもやってくるわけではない。
いつかネイティブアメリカンの聖地で夜明けを迎えたことがある。偉大な太陽が空を真っ赤に染めて現れた時、人間の存在など関係なく「明日は必ずやってくる」ことを知った。
それは希望でもあり、無常の厳しさを実感した瞬間でもある。しかし、
”確実にやって来る明日”は、誰にでも訪れるわけではない。
いつものように今日を終え、そのまま明日が来なかった人たちを何人も知っている。
夕陽を見送る時、どこか物悲しい気持ちになるのは、”明日が自分の元にやってくる確率” が何%か下がるからかもしれない。
「どうせ私も風になり消える」のだ。
そして、世界は続いていく。
米津の曲にも明日の存在が揺らいでいる歌詞がある。
「明日が来ないならどうしようか?(Nighthawks)」
「そんじゃまたね 明日ね
そんな風に今日を終えども
明日なんて見たこともないのにさ
(眼福)」
「また明日」と「See you tomorrow」と、、、
そんな米津が「また明日」と歌う曲は「ゆめうつつ」の他にも5曲ある。
その「また明日」は、再会を前提とした別れの挨拶「See you tomorrow」の意味だけではない。
例えば「夜は何度も泣いてまた明日(ゴーゴー幽霊船)」を英訳したら、どちらの意味になるのだろうか?
「I'll cry many times at night and see you tomorrow」
(直訳:夜はたくさん泣いちゃうから、また明日ね)
「I cry many times at night and tomorrow」
(直訳:夜も明日も何度も泣いてしまうよ)
また、歌詞カード記載のみで実際には歌っていないが、Black Sheepの
「また明日全てを解った気になるんだな」も句読点をどこで入れるかで意味が変わってくる。
「また、明日全てを解った気になるんだな」
「Tomorrow I'll feel like I know everything again.」
(直訳:明日また、僕は全てをわかった気になるんだ)
「また明日。全てを解った気になるんだな」
「I'll see you tomorrow. You'll think you know everything.」
(直訳:また明日ね。君は全てを知ってる気になるんだろう)
この歌詞の直前にある「知らなくていいし、知りたくもない」ことを、わかった気になるのは「自分」か「他の誰か」か?
日本語歌詞の解釈に迷った時、日本語よりも単純な言語である英語に訳してみると、意外と整理しやすくなるものだ。
明確に「See you tomorrow」だと思われるのは
「そんじゃまた明日ねバイバイバイ(ホラ吹き猫野郎)」
「今日はおやすみ また明日(amen)」
「そんじゃ またね 明日ね(眼福)」の3曲。
「ゆめうつつ」の「また明日」は果たして「See you tomorrow」の意味だけであろうか?
フルを聞くまでは誰にもわからない。
「明日」と言う言葉が「希望」と同義語だったらどんなにいいだろう。
「明るい日」と書く新しい1日が幸福に満ち溢れているとは限らない。むしろ今は不安や恐怖に苛まれることの方が多いかもしれない。
「また明日」と言う言葉をよりどころにする前に、大切にすべきことがある。
米津玄師が書いた詞の中で、「明日」の2倍以上頻出している言葉は、
「今」
である。
(約56%にあたる49曲で使用。「未来」は12曲、「過去」は8曲)
と言うわけで、私も小ぢんまりと研究を続けていきますw
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