米津玄師は巨大過ぎる金字塔「STRAY SHEEP」をどうを超えるのか?
「米津玄師の歌詞を因数分解して分かったこと」<第19章>
*プロローグと第1章〜18章は下記マガジンでご覧ください。
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昨年リリースされた「STRAY SHEEP」は半年以上経った今でも売れ続け、ありとあらゆる記録を塗り替え、世界の音楽シーンに届き、その受賞数はもはや総ナメと言っていいレベルである。
まさに頂点を極めた米津玄師だが、なぜか彼には「ピーク」という言葉が似合わない。もっと言えば、今後目指すのは「さらなる高み」ではないように思う。
こんな風に感じた理由が、米津の歌詞に潜んでいた。
高低次元の概念がない?
何かを目指す時、一般的には「ステップアップ」や「昇進」など、今いる場所との高低差でその達成度を表現することが多い。
だが、米津玄師の歌詞を分析中にあることに気づいた。
全88曲中のどこにも「高い」「低い」と言う言葉がないのだ。”高度(Altitude)”に関する言葉は、”翡翠の狼”に「高めの壁」が出てくるだけだ。
ディメンションの側面から見ると、1D(距離)から2D(平面)を表す「遠い」「近い」「彼方」などの言葉が34回使用されていた。そのうち、全体の3割にもあたる29曲に登場するのが「遠く」である。(遠方/遠いなど関連語を含む)
そして、3D(立体)では、関連語を含み「深い・深く」を10曲で使用している。「深い」は立脚点から下方に位置している。上方を意味する「高い」は前述の通りであるが、実は「低い」も1度も使っていない。次元が2Dか3Dかの判断が難しいが「奥」と言う言葉が13曲に出てくる。
つまり、米津玄師の方向感覚では、「高低」と言う概念が歌詞になっていないと言うことだ。この事実を発見した時、「向上心」や「上昇志向」のように、米津の向かう先は、「上」と言う一点の方向を目指す縦移動ではないのだと気づいた。
向上でも成長でも進化でもない
米津には「向上」「成長」と言う言葉すら似合わない。「進化」でさえ怪しい。2017年のCUTのインタビューで本人が言ったこの言葉が一番しっくりくる。
「俺にとって、自分を作り替えていくのが”生活する”ということなんです」
さらにナタリーのインタビューではこうも語っている。「何にでも染まれる軟体動物みたいな、アメーバみたいな存在でありたい」
きっと、彼の進む先は今より「上」ではないのだと思う。”STRAY SHEEP”の売上げを上回るとか、より多くの賞を取るなどの数的記録の更新など、少なくとも本人は興味がないのではないか?
STRAY SHEEPをどう超えるのか?
Lemon大ヒットの後、フラミンゴをリリースした時、今後のビジョンを問われ「何か未曾有なことがやりたい。今まで誰も見てこなかったようなところに辿り着きたい」と米津は答えた。
その2年後、皮肉にも世界中が未曾有の事態に喘ぐ中、STRAY SHEEPは世に放たれた。この大ヒットは米津にとっての「未曾有なこと」だったのだろうか?今まで誰も見てこなかった場所に辿り着いたと満足したのだろうか?
私は違うと思う。彼はまだ引き金を引かない。
Lemonの時のように、バケツ一杯の水を持って茫然と遠くの山火事を眺めていた米津玄師はもういない。
スペシャアワードでの受賞コメントに、よりタフになった米津のスタンスが端的に現れている。
「今はもう新しい音楽を作り始めているんで
STRAY SHEEPがどういうアルバムだったかあんまり覚えていない」
そう、”STRAY SHEEP”は超えるべき金字塔ではない。米津玄師は、さらに遠くへ行きそこに新たな金字塔を立てるだけのことだ。簡単ではない。だが、それをやってきたのが米津玄師という人間である。
遠く遠くの先はいったい何処なのか
「遠く」と言う歌詞も多いが、「行け」「行こう」「行きたい」と言う歌詞も多く19曲で使用されている。
どこでもいいから
遠くへ行きたいんだ
それだけなんだ
(LOSER)
遠くへ行けと
僕の中で誰かが歌う
(ピースサイン)
君のためならば
どこへでも行こう
(飛燕)
僕らと行こうぜ
ここではない遠くの方へ
(アンビリーバーズ )
行こう
花も咲かないうちに
(馬と鹿)
まだ行こう
誰も追いつけないほどの
スピードで
(感電)
さあ心の向こうへ
行こうぜ
(Wooden Doll)
一緒に行こう
あの光の方へ
(サンタマリア)
これらの行き先は何処なのだろうか?ワールドワイドでの活躍か?何十万人を動員するライブ会場か?あるいは音楽以外の新たな表現か?
可能性は無限に広がっているだろう。しかし、結局たどり着きたい場所は、たったひとつ。。。
ここではないだろうか?
「どこでもいいから、ほんの少しでもいいから、あなたの心の中に居場所がほしい」(2018年 Fogboundライブ 武道館のMCより)
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