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ある夏の日の魔法の国からの肖像【まほおん記事傑作選】

Maho onlineというサイトをご存知だろうか。2018年の夏の時期だけ稼働していたニュースサイトだ。

ただのニュースサイトではない。
Maho online通称”まほおん”は、「魔法の国のニュースサイト」である。
そこには、相互に独立した異なる世界から届く記事の数々が集積されていた。夏のある一時期だけ

”まほおん”は、秋の始まりと共に静かに更新を停止した。原因は定かではない。異界通信塔が破壊されたとか、呪術エンジンの出力が不安定になったとか、魔導糸電話が断線した等と囁かれているが、真実は闇の中だ。ただ我々のいる基底現実に異界からの通信が届かなくなったという事実だけが残された。

夏の間だけ稼働したMaho onlineは、「マンドレイク「抜いてみた」で青年3人重軽傷」や「『勇者を育てたかった』村を焼き続けた老人を逮捕」がバズるなどしたが、他にも魅力的な記事が多数、記録されている。閲覧数としてはそれほど伸びなかったものの、このまま埋もれるには惜しい記事も多い。

そこで、個人的に「これはマジで推せる」という記事を独断と偏見で選んで紹介していくので是非読んでみてほしい。マジで推せるから。

キマイラ販売において魔法生物省が注意喚起

しかし、近年では粗悪なキマイラが増えているという。キマイラにおける融合占有率は獅子50~60%、山羊20~30%、蛇10~30%とされ、この基準外の生物は別種の生物と認定され、正式な血統書を発行できないことになっている。違法業者によって融合占有率はバラバラで、悪質なものでは猫95%という報告も。

キマイラといえば、獅子と山羊と蛇の合成獣として有名だが、まさかの猫95%のキマイラまで出回っているというニュース。これは悪質だ。ゆるせん。

増加する虚空間。今後の対策は?

持ち主がいるがだれも住んでいないのが「空き家」ならば、「虚空間」とは「空間魔法の行使により、基底世界に孔を開ける形で作成されたものの何らかの理由により使用されなくなった空間」となる。
基底世界とは、通常我々が存在する空間であるとされているが、現在、ナハーヘム市が属するヴェルニダット地方上の基底世界だけでも500個以上の「虚空間」が存在するとされている。

相互に独立した各魔法世界は、魔法・魔術に関する原則そのものから異なっている。この基底世界においては「空間」そのものが魔法リソースの一種なのだ。スパイシーなSF風味が効いててすごく好きな世界だ。

「名付けの儀式」 原始の魔法忘れるべからず

人間たちは「よくわからないもの」を恐れた。それらが暗闇からにじり寄り、這いでてくることを恐れたのである。そこで行われたのが、恐れ…恐怖の正体への「名付けの儀式」、原始的な魔法のひとつだったのだ。

名前をつけることで、抽象的な恐怖を外形に閉じ込める。呪術の世界では「名前」は非常に重要な意味を持ち、そのために真名を隠すという風習もある。J・G・フレイザーの世界観だ。人類学の議論に片足を突っ込んだ極めてレベルの高い記事だ。記者は何者だ。

『星のささやき』解読に一歩前進

今から15年前、天体魔法研究者であるミチエール氏が、夜空の星々が極小の声を発していることを発見。50人余りのウンディーネたちと共に精製した水製の音増幅器を用い、『星のささやき』の存在を証明したことは我々の記憶にも新しい。

王立アトス大学が、「星のささやき」の言語的な観測に成功したという記事だ。なんともロマンチックな話である。同時に、比喩的な表現だった「星のささやき」を形而下に引きずり降ろすという、いかにも神をも畏れぬ魔法使いの所業を皮肉にも象徴している。

ちなみにではあるが、王立アトス大学は私が育てた。まほおん界では最も著名な概念であるといっても過言ではない。wikiまであるぞ。

番外編

”まほおん”には私も記事を投稿している。なのでここから先は私の自慢だ。
自慢するだけあってなかなか出来が良いので読んでみてほしい。お願いだから読んで。

増加する「留年スラム」 止まらない若者の浮世離れ

留年、失踪、転生──学部を4年間で卒業できる大学生が6割に満たないという統計がある。
特に留年した学生たちが地下のダンジョンに作りあげる「留年スラム」は、社会問題として近年注目を集めている。

魔法学園は時空が歪みやすく、気付いたら留年していた、みたいな悲しい事件が多発する。そんな魔法留年生たちが群生する留年スラムのルポだ。

この記事は「無間書房のラヂオ」で紹介された。フフフ。すごいぞ。

南部ハウザルで50年に一度の記録的な“女の子”降り(気象情報)

王立星読院は、ハウザル地方で記録的な“女の子”が確認されていることを発表しました。これほどの降下量は、元治世では初めて。アウストル城塞、アトス市、ダデ市、プラム村では女子警報が発表されています。

魔法世界では、雨や雪と同様に”女の子”が降る。そういう気象情報のニュースだ。

この記事を元に、なんとSS(ショート・ストーリー)を書いてもらった。

SSを書いてもらえるなんて冥利に尽きる。文章もたいへんエモいのでぜひ読んでみてほしい。えへへ。

まほおんよ永遠なれ

”まほおん”にはまだまだ魅力的な記事が眠っている。私はこれからもまだまだ遺された傑作を掘り進めるつもりだ。何か良い記事があれば、是非私にも教えて欲しい。共にまほおんの記念碑を立てよう。


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