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『ドラゴンエイジ: ヴェイルの守護者』クリア後感想 粗も穴もあるけど素晴らしい物語

結論。粗はある。看過できない穴もある。戦闘システムも好みではない。それでも素晴らしい作品だった。
世間ではDEI表現で変に槍玉に挙げられているが、そんなことで毀損されて良い作品では決してない。だが致命的な欠点として序盤〜中盤があんまり面白くないというのがある。
クリアまでの私の総プレイ時間は102時間。楽しくなって来たのは40時間過ぎてからだ。この欠点とDEI周りで燃えた結果、触った印象が良くないことになっているのは半分事故だろう(でも半分は作り込みの失敗だと思う)。

そんな感じで感想をまとめます。中盤まで(~50時間くらい)のネタバレを含みます。終盤の核心的なネタバレは避けますが、基本的にネタバレ感想文です。
先に断っておくが私はDragonAgeシリーズ信者だ。オリジンズからプレイしていて思い入れはめちゃくちゃある。なんで冷静な評価じゃないことは先に断っておきます。ここにあるのはソラスの物語に脳を焼かれた限界セダス民の墓標です。


丸くなって取っ付きやすくなったゲームシステム

コアゲームは今までの複雑なリアルタイムRPGシステムから、取っ付きやすいアクションになった。
なってしまった…
仲間は自動的に戦ってくれて、攻撃対象やスキル使用を指示するだけ。極めてシンプルで取っ付きやすく、動かしていて楽しいアクション。これは良いと思う。

魔道士での接近戦は楽しい

サブクラスに関係なく、最初から魔道士で接近戦ができるのも楽しい。魔道士は旧来の両手大杖を用いた遠距離スタイルと、オーブ+短剣による近距離スタイルを戦闘中いつでも切り替えられる。魔道士でがんがん接近して魔法剣でザクザク敵を切れるのは正直めっちゃ楽しかった。

ただ仲間との連携はシンプル過ぎて、どうしても物足りなさを覚える。クロスクラスコンボは戦士・ローグ・魔導士それぞれ1パターンしかなく、わかりやすいが深みがない。仲間も自動発動スキルは1種類持ってないので、戦術もワンパターンになりがちで多様性がない。私は旧作のRPGシステムの方が圧倒的に良かった。

補足。中盤以降できることが増えると結構楽しくなる。クリティカル条件(地味)と苦痛ダメージ(わかりにくい)を組み合わせて自分なりの戦術を組み立てていくのはだいぶ楽しい。爆発効果で出血を与える→出血を条件にしたクリティカル効果が発動→クリティカル効果でバフを得る→バフ効果で別のクリティカル条件が発動…と敵にデバフと自分にバフを積み積みにしてくのはかなり楽しい。とはいえ正規のコンボと違って敵が爆発する訳じゃないしクリティカル条件や効果も画面上は数字や文字が表示されるだけなのでクロスクラスコンボと比べると爽快感もあんまりない。やっぱり旧作のシステムの方が良くない…?

コア部分を直感的に操作できるアクションに変えて、パーティ人数も三人に減らして仲間は自動で動くようにして、シンプルに取っつきやすく変えた意図は理解できる。実際、触った印象は悪くないし、システムもシンプルゆえに理解しやすくコンボも決めやすい。これは10年ぶりのシリーズ後継作ということもありリブートの意味も込めて新規ユーザーの獲得を狙っていらしく、この点に限ればその試みは成功していると言って良いと思う。

が、後述の通り序盤のストーリー展開が難解過ぎる点と全く噛み合っていない。せっかく間口を広げてご新規さんに興味を持ってもらっても、これでは初心者バイバイである。とてもかなしい。

全然丸くなってない取っ付きにくい世界観

序盤の展開はスピーディで、チュートリアルも必要十分で、割と自由に動かせる。それは良いんだけどあまりにも世界観の説明が足りてないし、その上固有名詞をバンバン出してくるので正直付いていけない。

ミンラーソスのビジュは最高

「物語の舞台はテヴィンター帝国の首都ミンラーソス!でも気づいたらエルヴィアンでアーラサンに来ていてソラスがヴェイルを切り裂いたらエヴァナリスのエルガナンとギランナンが飛び出てしまって俺はフェイドの中の灯台にいたぜ!」
いやマジでこんな感じ。初代オリジンズからやってる私ですらついていけなかった。正直くやしい。
悔しいので私は海外wikiをGoogle翻訳の力を借りて読み漁りギリギリ理解できたが、前作から10年開いた状態でこれをお出しされるのはあまりにもきつい。信者にすらキツイ。

とはいえこれはおそらく、リブートのためによく考えられた試みで
「ドラゴンエイジの魅力的で複雑な世界観は複雑なままに出す」
「その代わりゲームシステムはシンプルで取っ付きやすく」
というチャレンジなのだと思う。その気持ちはよくわかるが、結果的にはうまくいってない。初心者バイバイである。いっぱい悲しい。

ゲームが始まるといきなりスキンヘッド激ヤバテロリストエルフとの戦いが始まり、激ヤバエルフのせいで世界がやべえんだ!!という始まりはわかりやすい。わかりやすいんだけど肝心の世界観の説明が全部すっ飛ばさせれててその後も一切説明がない。これもおそらく意図的な試みだろう(そして失敗している)。

そのへんの世界観や固有名詞については、各自コーデックス(ゲーム内テキスト集)を読んでね!スタイルなんだけどこのコーデックスがそもそも難解で分かりづらい。「作品世界の中の著書」というスタイルで描かれてるせいで、そもそも世界観を把握してないと読解が難しい。卵が先か鶏が先か問題に首まで浸かっている。

テキスト表示範囲が狭すぎるコーデックス

加えていえばUIも良くない。デジタルなUIデザインが「作品世界の中の著書」という設定とか噛み合っていない。テキストの表示範囲が画面右端四分の一だけで読みづらいし、現在の階層がわかりづらいし、そもそも未読既読にバグがあるし表示もバグる。どうして…

例えば第一作オリジンズなんかは、主人公の視点を通して丁寧に少しずつ世界の姿が描かれたおかげで、世界観を理解できるしスッとコーデックスも頭に入って来た。全体が調和して没入感に寄与してた。が、今作のコーデックスは没入感に寄与しているというやり投げっぱなしで、シンプルに不親切に感じられる。

旧作のテキストスタイルを踏襲しようとして、結果噛み合っていない。ストーリーで世界観説明を飛ばすなら、わかりやすくまとまった世界観資料があるべきだし、そうでないならストーリー内で理解の導線を作るべきだった。ちゃんと「セダスとは」「この世界における魔法とは」「エルフとは」という端的な説明/用語集が欲しかった。一応申し訳程度に端的な用語集もあるにはあるが、Twitter以下の情報量で役に立たない。悲しい。

たぶんこの「取っつきやすくしたはずのアクション部分」と「絶望的に取っつきづらい序盤」の食い合わせで、新規・古参のどっちにも不満を持たれやすいというのが大きな欠点だと思う。二兎を追おうとして一兎を逃した形に見える。とても悲しい。

いまいち魅力に欠ける序盤~中盤のストーリー

序盤~中盤の展開はいまいち盛り上がらない。せっかく最序盤の導入をくっそスピーディにしたにもかかわらず、だ。

①各勢力・派閥間に対立や複雑な関係ストーリーがない

今作には六つの勢力が登場するが、いずれの勢力も独立していて、互いに複雑な関係性を持っていない。だから今ひとつ興味を引かれないし、「対立していた勢力が、巨大な敵を前に手を取り合う」といったカタルシスがない。

DragonAgeシリーズの魅力といえば、やっぱり魔道士とテンプル騎士団の対立に代表されるような「お互いの主張に一理あるが、歴史的にどうしようもなく対立する勢力の政治とぶつかり合い」だと思うんだけど、今作にはそれがなかったり、とても薄い。
もちろん旧作と違って魔道士の扱いがゆるい北セダスの話だし、そもそも時代的にテンプル騎士団も弱体化しているのはしょうがない。なんだけど、やっぱり全体的に六勢力ぜんぶ「正義の味方」過ぎて、葛藤も対立もないのは物足りなく感じてしまった。

例えば帝国首都ミンラーソスで、奴隷解放活動をしている勢力「シャドウドラゴン」は、敵対するヴェナトリ教団とずっと戦ってる。このヴェナトリ教団が今作では完全なる悪の秘密結社で終始悪役ムーブをしてくれるので、シャドウドラゴンは一方的な正義の味方感がある(ある意味でストレスはないが…)。

ヴェナトリ教団さんによる人間椅子

それはそれとしてヴェナトリ教団が暗黒カルトじゃあく組織になったおかげで、アホみたいな悪役ムーブを連発しているのはちょっと面白い。ヴェナトリさんたち、プライベートだとガチで奴隷を人間椅子にしてその上でリラックスして談笑してたりする。体幹つよすぎだろ

他には大きく分けてグレイ・ウォーデン、ヴェイルの跳躍者、アンティヴァの黒カラス、モーンウォッチ、富の王という勢力があるが、皆互いに独立していてほとんど関係がないし、当然ながら対立もしていない。
もちろん各勢力ともに内部に問題を抱えているので、主人公勢力はそれらを解決して協力してもらう流れになるのだけれど、順当に問題解決するだけなのでいまいちテンションが上がらない。

②キャラが自分の心情を克明に語りすぎ問題

今作のキャラは、旧作と比べて全員圧倒的に物わかりが良く全体的に善人揃いだ。それぞれ癖はあるし面倒くささも備えているが、利他的な行動を取ると好感度が下がってパーティ離脱するやつとかいないし、主人公の選択でどちらか片方は絶対裏切って敵になる、みたいなやつもいない。皆話せばわかる良い子たちだ。

なんだが、物わかりが良すぎる。いや、勝手に好感度下がってパーティ離脱するシステムにして欲しいとかではない。各キャラ個別に掘り下げるストーリーの描写が好みじゃないしあんまり感情移入できない。各キャラともに、自分の悩みを言語化しすぎているし、そのせいで解決が早すぎる。
例えばミンラーソスの地元の英雄ナーブなんかは、個別ストーリーの中で「ヒーローゆえの孤独」に悩むシーンがある。良いよね、鋼のヒーローが実は孤独に悩むシーン…と思うんだがナーブは自分の口で明確に「私はこういう理由でこのように悩んでいる」と理路整然と説明し、その上で主人公カウンセリングを経て3分くらいで悩みが解決してしまうのである。シンプル過ぎるだろ。

キャラクター固有の悩みってさ…もっとこう、じっくりねっとり描くもんじゃないの???
それに悩みって、もっと行動や描写で見せるもんじゃないの???
そんな自分の悩みを明確に言語化できちゃってたらもう悩みは8割解決してませんか???(実際ナーブは爆速で解決しちゃったし)

口下手なターシュ以外のパーティは全員、言語化能力が異様に高いので上記の感じで自分の悩みを自分で言語化してしまうのである。別にそれ自体は悪いことじゃないと思うんだけど、そのせいで物語としてのアップダウンに乏しい。ダウン部分がすっ飛ばされている。そんなのひどい。俺はみんなが悩む姿が見たいんだよ!!!!

私はミンラーソスルートで進んだので、ルカニス曇らせ展開があったのだがこれも勿体ない。

このイケメン悪魔憑き最強アサシン紳士の曇らせをじっくりねっとり見たかったんだよ

ルカニスは故郷トレビソのことを本当に心から大事に思っているのだが、これも上記同様に言葉で語られるだけなので全然心に響かない。ルカニスの街の人々とのやり取りや仕草、コーヒーに対する語りなどから「どれだけ故郷を大事に想っているか」をじっくりねっとり描写して欲しかった。そういうのがあってこそ故郷トレビソをボコボコにされてガチ凹みするルカニスが映えるし感情移入できると思うのだ。

全体的にこんなノリなので、いまいち仲間たちに感情移入しづらいし、ストーリー展開にも乗っていけない(とはいえ個別には出来の良い個別ストーリーもあるし、終盤はなんだかんだで皆好きになれる。後述)。

③今作のグレイウォーデンの描写が不遇

これは殊更個人的な好みが入っているかもしれない。とはいえ個人的だからこそ、シリーズファンとしてこれには正直がっかりした。

グレイウォーデンがダサい。無能に描かれている。より正確にいうとグレイウォーデンの最高指揮官「ファーストウォーデン」が、だ。
今作はセダス北部が舞台ということもあり、グレイウォーデンの本拠地ワイスハウプト要塞が登場し、総指揮官ファーストウォーデンも登場する。待望の正規グレイウォーデンの登場なのだが、このファーストウォーデンおじさんの描写がひどく、権威主義的で全然主人公の話聞かないし、部下の報告握り潰すし、ミンラーソスの政治に入り浸るしで「悪しき上司」の権化みたいな描き方をされている。

これはたぶん脚本都合でこうなっている(グレイウォーデンが早期に動き始めたら、アーチデーモン狩っちゃうから)のだと思うが、それにしたってやり方が雑過ぎる。
ファンからしたら待望のグレイウォーデンなのに、この描写にはガッカリだ。それにいくらなんでも不自然過ぎる。なんでダークスポーン対策の専門家のグレイウォーデンが、ダークスポーンの動きを見逃しまくってるんだ? グレイウォーデンが序盤中盤時点で動きづらい理由なら、ファーストウォーデンを無能にする以外にもいくらでも作れただろうに、どうして最高指揮官を集中的に無能にする描写を選んでしまったんだ。とても悲しい。

序盤~中盤のメインストーリー展開がゆっくりなのもあってやたらとファーストウォーデンの無能っぷりが目立つ。もちろんグレイウォーデン組にも良い人はいて、アントワンとエブカはガチで好きなペア(しかも超有能)なんだけど、アントワンとエブカにパワハラ上司するファーストウォーデンはもう見てられない。

④ワイスハウプト包囲戦と最悪のグループセラピー

物語のミッドポイントにあたる、ワイスハウプト要塞包囲戦はさすがに見応えがある。

やっぱダークスポーンの群れは最高だ!!!!

グレイウォーデンの要塞に襲いかかる無数のダークスポーンの群れは、オスタガーの戦いを彷彿とさせ胸にこみ上げるものあがる。そうそうこれが見たかったんだよこれが!!
…なんだけど、残念ながら前述の通りグレイウォーデンの総指揮官が残念キャラなので微妙に盛り上がらない。ファーストウォーデンがちゃんと主人公の話を聞いて備えていれば、いやせめて部下(アントワンとエブカ)の話を聞いて備えていればと思うと、グレイウォーデン半壊の展開も残当感を覚えてしまう。そんな訳でミッドポイントとしての急展開としても弱く見える。
(ファーストウォーデンが最初から有能で、ちゃんとグレイウォーデンも備えていたのに敵の方が上回っていた…という展開の方が絶望感あって個人的には好みだなぁ…)

一応、ファーストウォーデンが武人として最後の意地を見せるシーンはあるにはある。あるんだけど、これまでの描写が描写なので「武人ならば尚更今まで何してたんだ…?」と私は不思議に思ってしまった。

それにワイスハウプト包囲戦後のデブリーフィングは最悪だ
どうしてワイスハウプト戦で、敵の親玉を仕留め損なったのか。全員まとめて「個人的な悩みがあって、敵に集中できなかった…」「故郷のことが気になって…」とか言い出すのだ。なんだそれは。
世界の危機に立ち向かっている最中、最高のアサシンや帝国首都の英雄が急にIQの低いことを言い出すのだ。いやマジでなんだそれは。
ぶっちゃけこれは「各キャラの個別ストーリーを進めて、悩みを解決してあげてね」というゲームシステム的な誘導な訳だが、それにしたって台詞選びが酷すぎる。各キャラの魅力を完全に殺している。他の言い方もあっただろう「各勢力の問題を解決し、力を合わせて敵に立ち向かおう」とか。何でこんな頭の悪い会話になってしまったんだ…?

とはいえグレイウォーデンも中盤を超えたあたりでしっかり活躍して復権する。そうそうこれが見たかったんだよこれが!!
…なんかグレイウォーデンっていっつも壊滅してから強くなるよね。全員逆境特化型なの?

なんか様子がおかしいエムリックの個別ストーリーと、意外と素晴らしいターシュの王道成長譚

ハァハァハァハァ……なんか悪口ばっかりになってしまった。もちろん良いところもある。
エムリックの個別ストーリーは個性的で、めちゃくちゃ面白い。というかなんか一人だけノリが違う。

エムリック教授好き

ライバル枠として、なんかディズニーヴィランみたいなアンデッド婆ちゃんが出てくる。キャラが異様に濃い。

皆大好き強キャラババア

エムリックの旧友にして宿敵、ヘゼンコスおばあちゃんがキャラが濃いし好き勝手大暴れするしスケールがデカいし展開もアップダウンが激しくてめちゃくちゃおもしろい。そもそもこのヘゼンコス婆、「闇堕ちした旧友」「不死となった屍術師」「強キャラババア」等、属性がバカのハッピーセットみたいになってる。
ちゃんとヴィランとしてスケールのデカい悪事をバンバンやって暴れまわるし、クソ格好良いアンデッドを操るし、そもそも本人のデザインがクソ格好良いし、ヘゼンコス婆さんもう全部好き。

ヘゼンコスのキャラが濃すぎ感はあるが、エムリック自身の物語としても正直かなり魅力的だ。エムリックはパーティ内でも年長者の立場にあるので、自分の悩みを正確に言語化して話してくれても特に違和感はない。その上で、エムリック自身が強力な屍術師でありながら、死を恐れたり、死別した両親のことをずっと想っていたりと弱さを見せてくるのでもうめっちゃ惚れる。
ヘゼンコスという明確な敵がエムリックの悩みに直結しているのもホントに上手い作りだ。そりゃヘゼンコスほどの強敵が相手なら、主人公カウンセリング程度ではエムリックの問題は解決しない。なんか全体的にエムリックの個別ストーリーだけノリが違っていて、ちょっとしたアメコミヒーローみたいな感じになっているし、終盤に至ってはもうTitanfallだろ。もう全部好き。

まさかのターシュの個別ストーリーもすごく良い。

ノンバイナリーのターシュ

クナリ族の女性戦士で、ぶっちゃけブサイクと前評判散々だったターシュ。だけどプレイしていくうちにどんどん好きになった。

というのも、ターシュは口が悪くてぶっきらぼうな性格のおかげで「自分の悩みを全部言葉で説明しちゃう」問題がない。口が悪くてぶっきらぼうでパワー型の乱暴者、なんだけどちゃんと仲間想いなところが「行動で」示されているのがめちゃくちゃ良い。
例えば悪魔憑きのルカニスは度々意識を乗っ取られるが、その度にターシュは誰よりも先にルカニスの異常に気づき、そのデカい身体で通路をさりげなく塞いでルカニスが勝手にどこかに行かないようにしてくれる。それも毎回だ。ルカニスを正気に戻す作業は流石に主人公担当だとしても、ターシュの無言の気遣いの数々には胸が熱くなるものがある。

何より意外なほどターシュの個別ストーリーはド王道の成長物語だった。

くっそ気まずい母親との食卓(主人公がかわいそう)

ターシュはクナリ族の背教者(厳密にはちゃんと掟は守っているが…)で、リヴェイン人で、ノンバイナリーだ。若き戦士だ。
なので、厳しいクナリ族の掟の中で生きるべきか、自由なリヴェイン人として生きるか苦悩する。ジェンダーについても悩むが、軸足はあくまで「クナリ族として生きるか否か」にあり、加えて伝統を守って生きる母親との関係にある。ターシュがノンバイナリーであることの悩みも、性別で役割が固定されがちなクナリ族文化との兼ね合いの話にしっかり噛み合っている。

ターシュが若く未熟な戦士であるからこそ、自分のアイデンティティをどこに置くかという問題が、クナリ族特有の(ある種厳しすぎる)掟を守る母親とぶつかり合うことで昇華されていく。まさにド直球でド王道の成長物語だった。それでいて、クナリ族というDragonAge世界に深く紐付く種族の文化や思考の話が関わっているので古くささもなく、世界観の掘り下げとしてもとっても魅力的だった。

にしても母親との関係がホントにすごく良い。
口では絶対に母親のことを大事なんて言わないし、対面すると喧嘩してばっかりだけど、ターシュが母親のことを本当に大切に想っていることは行動の節々から伝わってくる。そういう繊細な描写が本当に素晴らしい物語だった。

DEI表現は決して悪くはないが、無難で安牌気味

あんまり触れたくない話題だけど、DragonAgeシリーズを語る上で外すことはできないと思うので触れる。もともとDragonAgeシリーズは当然のように同性愛者がいたり、同性同士で恋愛できるゲームだし、私はそこも含めてDragonAgeシリーズを気に入っている。
とはいえ、今作に関していえば、決して悪くはないけど無難気味の描写に落ち着いているんじゃないかなぁというのが正直なところだ。

上述のターシュの物語に関しても、クナリ族として生きるか否かという問いに軸足があり、ジェンダーの問題はそれほど前景化していない。

ネットで話題の「ポリコレ説教」のシーン

ネットで玩具にされた「ポリコレ説教」シーンも、正直に言って取り上げ方が意地悪で、実際にはそれほどジェンダーを主題とした内容ではなかった。

ネットでは「プロナウン(代名詞)を間違えたキャラが腕立て伏せで反省させられる」シーンとして話題になっている。確かに、作中ではイザベラがノンバイナリーであるターシュを「彼女」と呼んでしまって反省するシーンになっている。
だが、実際には作中世界のイザベラは「富の王勢力では、何か失敗したら腕立て伏せで謝意を示す」という文化に従っているだけに過ぎず、後にターシュの食べ物を誤って食べてしまったベララも同様の流儀に従い謝意を示している。何もプロナウンを間違えただけの話でもなく、作中の文化に従っているシーンなだけ。その上、イザベラはそれをジェンダー周りでも敏感に律儀にやっている「こいつ変なところで律儀だな…」という意味のシーンである。確かにジェンダー問題を扱っているものの、そこだけが主題ではないし、世界観にもキャラにも合っているし殊更槍玉に上げるほどのものではないと思う。正直、タイミングが悪くネットの玩具にされてしまった感が否めない。

そしてこの「タイミングが悪かった」というのは、上述のDEI表現の無難さにも通底していると思う。今作のジェンダー表現はよく配慮されており、その上で決して押し付けがましくなく世界観にもよく馴染んでいるものの、反面目新しさや衝撃は特にない。でもこの新鮮味のなさは、どちらかといえば世の中の価値観の変化が早すぎたのではないかと思う。開発に何年もかかる大作だからこそ、若干時期を逸してしまった感があるし、逆に今だからこそネットの玩具にされてしまった感がある。悲しい。

ただ…

アジア系エルフ

モロにアジア系顔のエルフのベララ。この子に関してはよくわからない。
先に言っておくが、物語全体を通して私はベララも本当に好きになれた。欠かすことの出来ないパーティメンバーだ。

開発者のインタビューから察するに「アジア系のエルフを出して、アジア系の皆をエンパワメントしてあげるね」ということなんだと思うが…
もともと北ヨーロッパ系の神話にルーツを持つエルフ(アールヴ)に、わざわざアジア系を出されても、アジア系の人たちはちゃんとエンパワメントされるのだろうか。だってアジア系の人たちはもともと平気で洋ゲー遊んでるし、アジア系はアジア系で黒神話悟空とかStellar Bladeとか独自の素晴らしい作品作ってる訳だし…。それって欧米中心主義のパターナリズムなんじゃないの?という疑問がある。
ただもしかすると、北米在住のアジア系の人たちが本当に欲してる面があるのかもしれない。よくわからない。識者の解説が欲しいです。

素晴らしいソラスの物語と、感無量の終盤の展開

こんなはずではなかった…なんか良かったところより不満点の方が分厚くなってしまった。なんか悲しんでばっかりだな自分。けど大丈夫。終盤の展開は素晴らしいと断言できる。

ソラスを中心としたメインストーリーは本当に素晴らしい。

本当によぉ~ソラスはお前ずっとソラスだなぁお前本当によぉ~

ソラスは序盤からずっと出ずっぱりだ。ていうか主人公の頭の中に住んでいる。
Cyberpunk2077のキアヌみたいにずっと隣にいてくれる訳では全然なくて、基本的に要所要所でしか喋れないし当然パーティメンバーでもないけれど、とにかく最初から最後までソラスの物語だ。

序盤からガンガンソラスの過去の掘り下げがあるのも嬉しい。若い頃の(髪の毛のある!!)ソラスの姿が何度も見られるし、ソラス側勢力視点でソラスの過去譚を追体験できるのも嬉しい(フィールドの怪しい一角に行くと、唐突にソラスの過去ストーリーが始まるので脈絡がないといえば脈絡がないけど…)。
ソラスは過去でもあまりにもソラスだ。この顔の良いスキンヘッドエルフは本当に昔っから全然変わらず、自分の信じるもののために他人を騙し、利用し、それでいてソラス本人は本当に苦しそうな辛そうな顔をする。本当にゆるせない好漢で、それでいてつい感情移入したくなってしまう世紀の一大クソ野郎だ。昔っから一つも変わらないソラスの姿がきちんと丁寧に掘り下げられていくのは本当に素晴らしい。

そしてソラスを掘り下げるということは、セダスの神話を解体することと同義だ。初代DA:Oの頃から語られていたエルフの神話と教会が伝える神話の真実の開陳はめちゃくちゃ胸が踊る。まさか初代から語られていた神話「ダークスポーンは傲慢から生まれた」まで綺麗に回収されるとは思わなかった。
ただまぁ、この辺の話の八割くらいは実は前作inquisitionでやった内容の再話ではあるので、前作のプロット(というか退社した前任メインライターのプロット)の出来がめちゃくちゃ良かっただけなんじゃないか説をどうしても覚えてしまうが…

ソラスの表情が終始最高

いやまぁ細かいことはどうでも良い。とにかくソラスが良い。ソラスの表情が良い。あまりにソラス過ぎる。この自己陶酔的で、自分の使命に酔っていて、それでいて今の仲間たちに対する友情と愛情も本物で、世界と自然を愛していて、皆を傷つけるのが本当に辛くて、なのに他人は信じられなくて一人で戦うしかないと思い込んでるどうしようもないクソめんどくさおじさんのソラスの繊細過ぎる表情の数々はもはや顔芸と言って良い!!!!ソラスの素晴らしい顔芸の数々が堪能できる。それだけで100時間以上プレイする価値がある。あった。マジで本当にソラスの顔が良いんだよ…

ネタバレ感想はここでは書かないが、ソラスの物語の結末としてはこれ以上ない出来だと思う。加えて言えば、少なくとも開発側は次回作を作る気マンマンなのがわかったのも良かった。

次回作へ

という訳で、私の感想をまとめるとタイトル通り「粗も穴もあるが素晴らしい物語だった」に尽きる。
本当に…本当にもったいない。いろんな要素が悪い意味で噛み合って(あるいは噛み合わず)、非常に取っ付きづらい作品になっているとは思う。それでも、セダスの物語としては本当に素晴らしい作品であることは間違いない。

旧作ファンには、世間の評判に惑わされず是非プレイして欲しい。
私は次回作があれば絶対買います。信じてるぜ、Bioware……!!


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