サー・テレンス・コンラン
東京駅丸の内北口にある東京ステーションギャラリーでテレンス・コンラン展が開催されています。
サー・テレンス・コンラン(イギリス人:1933ー2020)は東京や福岡に展開しているコンランショップのプロデューサーでブリティッシュ・モダン・デザイン界の重鎮。
日本で初めての回顧展でしたが、まさか、私自身がこんなにコンラン卿とご縁があったとは知らずに出かけたのでした。
私とコンランショップとの出会いは2000年頃、西新宿にある日本1号店へ仕事の合間にふらっと入り、その品揃えに感動。
元々現代建築が好きで、モダンアートやインテリアに興味があったので、ずっぽりハマってしまったのでした。
その後2002年に職場近くに開店した丸の内店はクール、機能的、唯一無二、かつわくわくさせてくれる商品が迎えてくれる、そんなお店でした。
ただし、当時はコンラン卿ご本人について全く知識なし。
ご本人に興味が芽生えたのは遅まきながら2023年。
その昔、ロンドン在住時に英国ヴィンテージに傾注した私たちが、ミッドウィンター社のヴィンテージ陶磁器に出会い、そのデザイナーとして卿を再認識したのでした。
「サー・テレンス・コンランは元々イラストデザイナーだったのか…」
そのデザインの原点は虫や植物、乗り物等をテーマにしたイラストから抽象的なパターンのテキスタイルに及びます。
ところが、今回の展覧会でコンラン卿との知らざる接点が続々と発覚!
①ミシュランビル(写真のリンク)
2007年、ロンドンに転勤した私は新居が見つかるまで数か月間、チェルシーのサービスアパートメント暮らし。
お隣のビルの1階にコンランショップが入っており、毎日前を徒歩で通勤、週末には時々店内物色と丸の内店と変わりない受け止めでした。
でもこの店舗が入居するビル、実はコンラン卿が改装とはいえ、デザイン、プロデュースした記念すべき初の建築物だったのでした!
派手なタイル調のファサードが気になっていましたが、まさか卿が初めてデザインした建物の隣に住んでいたとは…。
②レストラン
コンラン卿の活動範囲はテキスタイルからテーブルウェア、家具、インテリア、建築にまで拡大。そんな流れで飲食業もプロデュースしていたことは、今時のインテリアショップでは、さもありなんだと思います。
驚いたのは、私がロンドンにいた時点で開業していた数少ないコンラン系レストランの内、なんと3件が当時のお気に入りだったのです!
"Le Pont de la Tour"(ZAGAT2007でFood22 Deco24 Service20;各30満点)
観光名所のタワーブブリッジを臨むテムズ川岸のシーフードを中心としたフレンチ店。モダンでクールな内装に加え眺望が最高。
家族で初めて中心街の観光に行ったときに初訪問。
立地柄、日本からの来訪者のおもてなしに活躍したレストラン。
”Coq d'Argent"(同F20 D22 S18)
モダンでクールな内装のフレンチ店。職場至近にあったことから、主にに接客ランチに活躍。他の2店よりもリーゾナブル。
"Orrery"(同F26 D24 S24)
メリルボーンのヌーボフレンチ店で当時のロンドンで指折りにおいしいと評判。ここぞの切り札。
今、改めてZAGAT2007をめくってみると例えばOrreryの解説欄に"Proof that Sir Terence can produce a 'top of the pile' restaurant"と書いてあったのですが、当時は卿が手掛けたレストランとは全く意識しておらず。
どの店も味はさておき内装がとても気に入り、時々お世話になっていたのですが、実はコンランプロデュースだったからかと納得!
③デザインミュージアム
本展覧会でコンラン卿は英国のデザイン界の未来のために、教育と美術館が必須と考え、デザインミュージアムを設立していたことが判明。
当時、家族でタワーブリッジの旧デザインミュージアムを訪問し、ガジェットオタクの息子と一緒に興奮したことが懐かしく思い出されます。
彼はその時購入したミュージアムのポスターを成人しても部屋に掛けつづけ、プロダクトデザイナーの職を志望することに。
卿は英国のデザイン界の未来だけでなく、我が家の将来にも強く影響していたとは!
今回の展覧会で、私たちは知らないうちにコンラン卿からさまざまな恩恵を授けられていたことが判明しました。
しかしよくよく考えると、私が元々モダン建築やインテリアが好きで、かつロンドン在住を通して家族で週末ミュージアムやアンティークセンターを巡るなど、モダンアートやミッドセンチュリーヴィンテージに傾注していったことを思い返すると、ブリティッシュ・モダン・デザイン界の巨匠の影響を受けていることは、むしろ当然とも思えてきました。
卿は個人生活から都市開発まで多くの分野でデザイン変革をリード。
デザイン理念である”Plain, Simple, Usefulなデザインが生活の質を向上させる”に共感する信頼するパートナーを各分野に見出し、「まずはやってみて」と任せてきたことが飛躍の原動力だったのでしょう。
卿が亡くなる数年前にデザインミュージアムはホランドパークへ移転。
2023年に私が新ミュージアムを訪問した時にはミッドウィンター社のティーポットが展示されていました。
その作品は卿本人ではなく、同社専属デザイナーのジェシー・テイトの作品でしたが、今やっと卿の思いが垣間見えたような気がしました。