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自分に期待しなくなった僕に、都市から社会を問う足場をくれた - ASIBA2期に参加して
4月からの3か月間、建築都市学生のためのインキュベーションプログラム「ASIBA」の第2期に参加してきた。応募した理由、プロジェクトの進捗、ASIBA2期を通じての学びと変化について振り返る。
応募するまで
留学から帰ってすぐの昨年8月、同居人・二瓶に誘われてASIBAの運営に入った。すぐにインキュベーション1期が始まり、その運営をする中で、毎週仮説検証を繰り返して解像度を上げていき、カンファレンスの舞台で心震えるピッチをした1期生達に刺激を受けた。この舞台に立たなければ見えない景色があると思い、2期への応募を決めた。
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提案したプロジェクトは、本郷の空き家を学生向けのシェアハウスにしていくこと。3年前に本郷のシェアハウス「おくのほそみち」に入居して以来、何度この家に人生を変えられてきたかわからない。シャワーと寝床さえあればよい若者が目一杯何かに打ち込めるためのインフラを作りたいと思った。
本郷の空き家のリノベーション、シェアハウス経営、コワーキングスペース作り等を通じて、本郷という街全体を学生にとっての家のようにしたい。家が安心できる場所、憩える場所だとするならば、ただこの街に住む学生を増やすだけでなく、昔懐かしいお店や建物を守りながら、学生と古くからの住人とのつながりを紡ぎつつ、いつでも誰かと時間を共有できる空間を作っていきたい。
東京大学では首都圏の進学校出身者増加に伴い、年々自宅から大学に通う学生が増えている。また本郷周辺の不動産価格の高騰に伴い、大学周辺に住むことはより難しくなっている。かつての学生運動が吉田寮や駒場寮を拠点としていたように、住むことを共有することが何かしらのカルチャーの醸成につながるならば、京大(大学周辺に多くの学生が住んでいる)と比較した時に感じる文化の希薄さはそこに由来するのかもしれない。
この時持っていた3つの問いは以下の通りだ。
1. 若者が住むことを共有すると何が起きるか。学生のカルチャーにどんな効果をもたらすか。
2. 近代的家族規範やnLDKという型を問い直す。若者としての時期を、家庭を持つ前ではなく、誰とでも自由に住める数少ない時間として捉え直し、そのための空間作りを考えられないか。
3. 空き家を減らすにはどうすればよいか、どこにボトルネックがあるのか。
このプロジェクトを始めた背景には、大学で学んできた都市計画への絶望感があったと思う。それまでは都市全体のシステムをデザインすればより良い街ができると思って学んできたのに、学科でのマスタープラン演習などを通じて、街に大きな変更を加えることが誰かの育ってきたライフスタイルを否定することになったり、今正しいと言われていることが未来でも正しいかなんてわからなかったりと、都市がより複雑に動いていることに気づかされた。都市というスケールは課題解決には大きすぎるし複雑すぎるから、まずは自分がよく知っている小さい範囲から、小さくても正しいと思えることを続けていって、少しずつ都市全体の解像度を上げていこうと思った。だからこそこのプロジェクトは徹底的に自分起点だったし、それが社会にどんな意味があるのかなど考えず、ただ自分が顔を見れる人たちにとって本郷がより良い街になればよかった。
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プロジェクトの進捗
ASIBA2期を通じて自分のプロジェクトがどう進んでいったのか振り返る。現在のビジョンや問いや以下の記事に譲る。
4/13 インキュ第1回 ゲスト:HUB&STOCK 豊田さん
【問い/コンセプト】
・見せていただいたハブスト創業時の事業資料と同じフレームを使ってビジネスモデルを組んでみた。
・本郷の不動産屋さん3軒に突撃した結果、賃貸物件を借りてサブリースするのは難しい(メリットが少ない)と分かった。都内でも屈指の人気エリア本郷では、市場に出てしまうと戦えないので、様々な理由で市場に出ていない空き家を掘り出すしかない。
【実践】
・ビジネスモデルをクリアにすべく、学生側の課題解決にフォーカスして約20人にヒアリングを行い、学生の住まい方に関するニーズを整理した。
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4/20 インキュ第2回 ゲスト:SORABITO 青木さん
【問い/コンセプト】
・豊田さんと同じく完成度の高い資料を見せていただき、より細かいフレームまでトレースしてビジネスモデルを検討した。
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【実践】
・学生へのヒアリングを継続し、顧客になりうる学生をセグメントで整理できるようになった。
・本郷のまちの方々と一気につながり、実現手段が見えてきた。
・仲間集めのためにnoteを出して多くの反響をいただいた。
4/27 インキュ第3回 ゲスト:O株式会社 a春さん
【問い/コンセプト】
・学生の課題解決と同時に、本郷の街にどう入り込めるか、受け入れてもらえるかが焦点になっていった。
・同時にビジョンの整理も行った。当時は学生目線で考えていた。
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【実践】
・noteで興味を持ってくれたメンバーを加えてキックオフmtgを開催し、組織として動くための体制整備を行った。
・新しいメンバーを連れてまちあるき会や周辺のシェアハウスや協力してもらえそうな方々へのヒアリングなどを実施した。恐ろしいスピードでプロジェクトが動き始めた。
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5/11 インキュ第4回 ゲスト:株式会社SEN 各務太郎さん
【問い/コンセプト】
・各務さんから刺激的なレクチャーをいただいた。自分に「問い」のユニークネスはあるのだろうかと疑問に思い始めた。
・「アオイエ」や「街ing本郷」など先行事例を知る中で、この人たちができなくて自分にだけできることなんてあるのかと悩むように。
・自分にしか見えていない課題や問題提起がないよねとか、できることをやっているだけで何も変わってないよね(できないことにまっすぐ挑戦しなさい)とか、自分の視野が変わるような指摘を多くもらった。
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【実践】
・シェアハウス第1号になりそうな物件が出てきたり、街の中でも引き続き協力してくださる方が増えたりと、プロジェクトは順調に進んでいったものの、今思えば仮説検証が回っているわけではなかった。
5/25-26 インキュ第5回 中間合宿 @小川町 NESTo
【問い/コンセプト】
・合宿2日目の中間ピッチに向けてプロジェクト名やコンセプトを整理していった。コンセプトがまとまらない中で、いかに自分がプロジェクトを前に進めているだけで仮説検証できていなかったかに愕然とした。
・最終的にはジェントリフィケーションを主要な課題に設定し、本郷を学生街のプロトタイプとして、シェアハウスを目的ではなく解き方として位置づけ、大きな問題意識に対する実践としてのプロジェクトという示し方をした。
・中間ピッチではうまくストーリーがまとまり、2期生や運営の投票によるオーディエンス賞をいただいた。
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【実践】
・中間合宿後には既存のプロジェクトの延長線上での進捗はあったものの、コンセプトの迷いから動きが鈍くなってしまい、メンバーと1on1をしながらもう1度方向性を整理した。
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6/8 インキュ第6回 @COT-Lab 新橋
【問い/コンセプト】
・プロジェクトのアップデート版noteを書こうとするが、コンセプトへの腹落ち感がどんどんなくなってしまい、書けなかった。方向性に迷っていたため、メンバーに求めるコミットメントも下げていった。
・スケールするような何かよりも、特殊性の高いまちの中で強度の高い個別解を積み上げることにもう1度価値を見出そうとした。ASIBA FESが目前に迫りつつも、どの方向性に進めばよいのかわからず、身動きが取れなかった。
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【実践】
・本郷の老舗旅館・鳳明館とのつながりができ、新しい提案として動き始めた。シェアハウス2軒目の物件も目途が立ち始めた。
・知り合いになった区議会議員の方に、議会で取り組みを紹介していただく機会もあった。
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6/22 インキュ第7回 @清水建設 温故創新の森NOVARE
【問い/コンセプト】
・シェアハウスやホームシェアに関する既存事例をリストアップして方向性を探ったものの答えは出なかった。
・ASIBA FESが目前に迫る中で、開き直ってピッチを形にした。
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【実践】
シェアハウス1軒目のトライアル期間が開始した。また鳳明館で開催された下町サミットで登壇する時間をいただき、様々な提案をさせていただいた。
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7/6 ASIBA FES @清水建設 温故創新の森NOVARE
ピッチでは最初のプレゼンターとしての役割を全うしたし、ブースもプロジェクトメンバーの助けを借りてなんとか作り切ることができた。しかし、納得感があったというよりも何とか体裁を整えたという感覚の方が強かったので、貪欲に連携先を探すような動きをしなかった(できなかった)。いろいろな方々に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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ASIBA2期を通じての学びと変化
ASIBA2期に参加して、当然プロジェクトは進んだが、それ以上に他の2期生やメンターとの対話を通じて自分自身が揺れ動かされたことの方に価値があった。
プログラム期間中、自分にできることしかやってこなかった。自分にしか見えない課題意識も、妄想してきた世界観もなく、ただやった方が良くて自分が一番できそうなニッチを攻めただけだった。学生街の喪失やジェントリフィケーションという課題に対して、空き家活用のシェアハウスという解き方にユニークネスはなく、シェアハウスを増やす際の再現性もなければ事業としてのスケールも見込めない。社会への憤りとか絶対に変えたいものとかは確かにそこに重なっているけれども、自分が努力して救われるのは結局社会的には恵まれている東大生だったり、人口が増えて地価も上がっている文京区だったりすることに、納得できなかった。何より、どんな文化やムーブメント、日常の瞬間を作りたいのかに対する信念を持てなかったし、描き出せなかった。
よく考えればそんなことは最初から分かっていた。社会性(イシュー度合い)、ユニークネス、再現性、事業性なんてどうでもよいから、まずは自分にできることからをやってみようと思って、とにかくあの舞台に立たないと分からないことがあると思って、ASIBA2期に応募したのだった。自分は社会に何かを彫刻するなんてとてもできないと思っていたし、何かを作ることで誰かを否定したり誰かに否定されたくないという思いもあった。よりクリティカルに言えば、本郷というローカルな課題解決なら社会の本質を突く強度がなくても結果が出るし、地元に貢献できるからやりがいもある。失敗しないし立ち止まらなさそうだったから、このプロジェクトにしたのだと思う。
でもASIBA2期を通じてそれだけでは満足できなくなった。仮説検証を繰り返して自分の妄想する世界を形にしていった同期達や、社会に憤りつつも諦めることなんてできず本気で何かを変えようと仕掛け続けている人たちが目の前にいた。みんながデザインやクリエイティブの持つ力を信じていて、自分の実存を懸けた目線とか哲学とか怒りをベースに行動し、社会に落とし込んでいた。社会は意外なほどに流れと惰性で動いていて、30年後、50年後のことを本気で考えている人はほとんどいなくて、その未来が嫌なら自分で変えに行かないといけないと気づいた。自分に正しいことができるかは分からないけれど、社会に何かしら訴えかける実践をしていない自分にはきっと納得できないと思うようになった。自分への期待値が上がったというよりも、社会への解像度が上がり、思っているよりも自分が社会に対して責任を負っているなという感覚を持った。
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中間合宿が終わってからコンセプトが立たずに苦しんできたのは、自分自身への諦めとその背後にあった「自分が何もしなくても社会はそれなりに動いていく」という感覚がなくなり、社会に問いを投げかける実践をしなくてはいけないのに鋭さがない自分に焦ったり嫌悪したりしたからだった。ローカルな課題解決自体は大切だけど、自分が動く理由を「地元だから」でごまかすのではなくて、本当に社会の本質を突けているのか、他に影響を及ぼすような質の高い個別解たりえているのかを問わなくてはいけないし、そうでないなら自分がやる意味はないと感じるようになった。本郷に関わるのはライフワークにしたいから、それくらいの個別解を出せると思える日が来るまでは、とにかく街に関わり続けるという姿勢でいようと思う。
そもそも自分は建築の出身ではなく、クリエイティブとかデザインとか妄想に強みがあるわけではない。ASIBAの考え方は魅力的だし納得するけれど、そこに依拠しても自分は輝けないし、クリエイティブの弱さから自分の過ごしてきた時間そのものを否定してしまう。だから、自分で自分を否定してしまわないように、自分が依って立つ思想や武器を身に着けたい。自分が生き生きとなる場所で、何もかもが足りない状態からもがく時間を作りたい。自分で世界を区切ることができるアカデミアよりも、複雑性と他律的な価値基準にさらされる実務の方がもがけると思うから、どこかで1-2年修行したい。修士に行くのはそのあとで、自分が問いたいことが見つかってからで遅くない。何もかも稚拙で、濁流に流されることしかできないのに、この場所でもがきたいと思える感性こそが自分自身だ。
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