紹介状の書き方・電話コンサルトのポイント(初期研修医向け、私信)

 紹介状もコンサルトも、カルテと同様医者が作成する文書であるから、
・医学的かつ論理的に分析し、
・それを簡潔で明瞭、論理的に記載する
ことは必要条件である。その上で、紹介状・コンサルトそれぞれの特徴を確認する。


1.紹介状の書き方


 まず、院外(他院)への紹介か、院内(他科)への紹介に場合分けする。

1-1.紹介先が院外か院内か

 一般的に院外が院内と異なるのは、
・(電子)カルテを共有していないので紹介状の情報がすべてである
・情報の伝達は文章のみでおこなわれる
・(研修医が)紹介先を怒らせると、紹介元の病院に苦情がいく
・紹介先とは顔見知りでないことが多い
などである。すなわち、過不足なく情報を記載し、より失礼の無いよう気をつける必要がある。

 一方院内の場合はカルテを共有できることから、紹介状はポイントを絞ってより簡潔に記すべきである。加えて、一見本質とずれるようだが、院内のやり取りなのだから紹介状よりもまず、直接先生のところに相談しにいく(電話ではない)のが初期研修医としては望ましい。文章でのやり取りよりも早いし、何より正確で質の高い議論が可能だからである。これができない場合、例えば先生が多忙で対応できないといった場合には「仕方なく」文章・紹介状を選択するのがよい。

1-2.紹介状のポイント

 逆説的に、イラッとくる紹介状のパターンを示す。
・医学的におかしい
・論理的でない
・紹介理由や文章が冗長・不明確・不明瞭・漠然としていて分かりにくい(分からない)
・臨床経過が時系列順になっていない
・日本語(敬語含む)がおかしい
・失礼(コピペ丸出しの文章、患者の「丸投げ」目的の紹介など)

 
なお、あくまで個人的な経験だが、最もよくみられる悪い紹介状は「表現は丁寧だが文章の内容がお粗末(わかりにくい・過不足がある)」というパターンである。

 社会人は往々にして「減点法」で評価される。紹介状も然り、上述の「イラッと」項目に当てはまる数・程度に応じて紹介元がマイナスの評価を受けるのはもちろん、一つでも当てはまれば文句を言われても仕方ない。
(*少しでも怒られようものなら不機嫌になったり逆ギレしたりという研修医が存在する。怒られることに慣れておらず人格攻撃と錯誤しているのか、先天性のものなのか知らないが、社会人・専門家である以上減点法で評価されるのは当然だし、若手が目上に感情を表出するなんて社会人としてNGだし、若手なんだから不完全であり指摘される余地が無いわけない。)

 上述の「イラッと」項目は、ほとんどが本記事・当ブログで形を変え、繰り返しコメントしてきた内容であるが、以下具体例を交え簡単に記す。

(1)
 紹介状以前に理系の書く文章というのは「明快・簡潔・論理的」でなければならない(以前の記事の通り)。私自身文章を書くのはむしろ苦手で偉そうに言うのはおこがましいのだが、文章・文書というのは相手に情報を伝達する手段なのだから、読み手にとってわかりやすいものでなければならない。初期研修医の悪い文章は上述した通り、丁寧にしよう、失礼の無いようにしようという意識が強くはたらくからか、回りくどく冗長になってしまい、かえって読み手をイラッとさせる。
 紹介状やサマリーに当てはまることとして、時系列順に書くのがわかりやすい。当たり前じゃないかと小生は思うのだが、なぜか時系列ばバラバラで記載されているものをみかけたので指摘しておく。なおProblemが複数ある場合、Problemごとに記載するという技があるので、単に時系列順に書きにくい時はこの技を使うのも検討されたい。
 言うまでもなく、正しい日本語・敬語を使用しなければならない。ら抜き言葉や「~になります」といったコンビニ敬語(バイト敬語)は勘弁いただきたい。意味は伝わるとしても、読み手は悪い印象を受ける。
 紹介状云々よりも一般的な内容がほとんどで恐縮だが、残念なことに最早文章の体をなしていないものが散見される。日本では作文教育をまともにされないので、初期研修医ができないのも無理はないのだが。

(2)
 上記に含まれる事柄とも言えるが、紹介状なのに紹介理由が不明確というのは論外である。焼肉弁当に焼肉が入っていないようなものである。当たり前のはずだが、この最重要ポイントができていない紹介状・コンサルトが少なくないので強調しておく。

(3)
 紹介状は医者が他の医者に送付するものであり、医学的に正しい記載をしなければならない。すなわち、正確な医学用語を用い、医学的に妥当な判断がされ、必要な情報は過不足なく記載しなければならない。カルテ・サマリーもそうなのだが、サマリーよりも簡潔で丁寧にすべきである。
 小生が初期研修をしていた時のオーベン(上級医・指導医)が、「研修医の実力は紹介状を見ればわかる。」と言っていたのには頷ける。文章での表現力はもちろん、患者の経過・状態を正確に把握し、そのポイントを見極める必要があるからだ。

(4)
 わざとではないのだろうが、初期研修医に紹介状を書かせると失礼な文章になっていることがある。上記(1)~(3)が不十分というだけでも「失礼」と言えるが、他のパターンとしてまず、コピペ丸出しを挙げる。コピペ自体は便利で電子カルテの利点であり、悪いことではない。しかし紹介状に用いる場合、大抵はいくらの改変が必要である。これを十分にせずカルテ記載や定型表現をコピペすると、文章として何らかの齟齬が生じ、そのために読み手は安易なコピペだなと気づくことがある。例えば、慢性期病院への転院なのに「精査加療のほどお願いします。」と書こうものなら丸わかりである。コピペ自体は上述の通り悪くないのだが、この「安易なコピペ」は手抜きと感じられ非常に印象が悪い。
 ところで「安易なコピペ」はカルテでも気をつけなければならない。あまりにこれが目立つと、訴訟になった際に原告が「この医者のカルテ記載は信用に値しない」と主張し、「不当な」判決を受けるおそれがある。
 さてもう一点指摘しておきたいのは、紹介という名の「丸投げ」は慎むべきということである。より正確に言えば、「自分でできる範囲のことはした上で、専門家の判断が必要なことに絞り、それを具体的に明示する」ということである。人にお願いをする時はなるべく迷惑・負担をかけないようにするのが、社会常識である。

 紹介状は、特に初期研修医が書く場合目上の人に「お願い」することになるわけで、テキトウに作成してはならない。また紹介先がカチンときた場合、院内だと自分が怒られるだけで済むが、院外だと自分の病院に迷惑をかけることになるのでなおさらである。


2.コンサルトのポイント


 ここでは救急外来などで、患者の入院が必要と判断でき諸々の対応を依頼する、ないし入院等緊急の対応が必要かどうかの判断を仰ぐため相談する、という場合を想定する。

 コンサルトと紹介状は、他の医師に情報を伝達する点では同じである。主に異なるのは、文書ではなく電話(口頭)でのやり取りという点である。ここで重要なのは、簡潔に述べるということである。口頭だと情報が多すぎては内容が頭に入ってこないからである。電話コンサルトではまず挨拶した後、結論を述べてから、重要・必要な情報に限って患者の経過や所見、それらから得られた臨床推論を述べるとよいだろう。逆に、ダラダラしていて何をしてほしいのかがわからない、というのはいけない。文書ではないが、これもまた「明快・簡潔・論理的」でなければならない。簡潔すぎるの気持ちでよいかもしれない。電話の場合、聞き手は不明な点を質問するなどその場で意思疎通ができるからである。
 有名ではあるが確認しておくと、最初に結論、すなわち何をお願いしたいのかを述べるべきである。発表でも紹介状でも同様である。起承転結とは言うが、基本的に先に結論から述べないと、聞き手は「コイツは何を言いたいのか」とイライラしながら類推しなければならないからである。


 以上、研修医向けの書籍にも書いているような内容を述べたまでである。もっとも、それにもかかわらずこれが出来ないハイポ研修医(しかも二年目)が実在するからこそ、記事にしたのであるが。
 

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