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加速する忍耐



時は西暦2189年。人類は宇宙の果てを目指し、銀河間航行技術の開発を進めていた。しかし、その研究は進展するほどに壁へと突き当たり、光速の壁を超えることは不可能だと結論づけられつつあった。

そんな中、天才科学者であり「前進と忍耐の探究者」として知られる一ノ瀬玲奈は、一つの理論を提唱した。

「前進とは単なる速度の問題ではなく、忍耐の濃度と加速度の問題である」

彼女の理論は奇抜だった。通常、忍耐とは時間と努力の蓄積によって成果を生むと考えられる。しかし、彼女はそれを量的な概念ではなく、加速する力として定義し直した。

「もし、忍耐を指数関数的に加速させることができれば、我々は光速の壁すら超えることができる」

彼女はこの考えに基づき、忍耐エネルギーを活用した新型推進機関「レジリエンス・ドライブ」を開発する。これは、パイロット自身の精神的忍耐力をエネルギーに変換し、前進の推進力とするものだった。

そしてついに、人類初のレジリエンス・ドライブ搭載船「テンペランス号」が完成する。しかし、この推進システムには一つの致命的な問題があった。それは、パイロットが持つ「忍耐の限界」が来た瞬間に推進力が失われ、宇宙の彼方で漂流するリスクがあることだった。

玲奈は自らテンペランス号のパイロットとなる決意をし、史上初の試験航行に挑む。

発進。最初は緩やかだった速度が、玲奈の「忍耐」によって加速度的に増していく。彼女は辛抱強く、目の前の星々を見つめ、前進への意志を強固にする。しかし、彼女の精神に限界が近づいた時、機体が振動し始める。

「だめ……このままでは…!」

玲奈の脳裏に過去の失敗や苦しみがフラッシュバックする。彼女の忍耐はすでに限界を迎え、テンペランス号は停止するかに見えた。

その瞬間——彼女は悟った。

「待て…忍耐を加速させるのではなく…“跳躍”させれば…!」

彼女は一瞬の閃きで、忍耐の蓄積ではなく、意識を「飛ばす」ことで突破口を開く方法を見つける。そして、彼女の意識が一点に集中した瞬間——テンペランス号は、光速を超えていた。

人類史上初の超光速航行。玲奈は未知の星々の間にいた。

その時、彼女の通信機が作動し、誰かの声が響いた。

「ようこそ、人類の最高峰へ——」

その声の主は、彼女自身だった。

そこには、無数の玲奈が存在していた。

彼女は、限界を超えるたびに無限の未来の可能性へ分岐し、進化し続ける存在となっていたのだ。

玲奈は気づく。

「前進とは、単なる速度ではなく、無限の可能性への飛躍だったのか…」

こうして、人類はついに光速の壁を超え、新たな次元へと進む第一歩を踏み出した。

しかし、それは始まりに過ぎなかった。

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