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メイン取引先がファンドに乗っ取られた話(1)

当社の業況拡大のきっかけになったエックス社が2度の出資を受けてファンドの支配下になってしまったという話です。多分にフェイクを入れていますので、フィクションとしてお楽しみください。

"占い師" 岸先生との邂逅

たいした能力がないくせに重職に据えられている社長お気に入りの佞臣(ねいしん:口先巧みに主君にへつらう心の邪な臣下)や経営者に心地良いことを囁いて高額報酬をもらっている経営コンサルタントってよくいませんか?

前職社長が定期的に通っている陶芸家もまさにそれで、「社長室という部署を作って秘書をおけば良いのでは」という助言をして気に入られていました。現場の声が届かなくなるガラスの王室なんて害しかないですが、本人は偉くなった気がして気持ち良くなったのでしょう。前職社長は陶芸家の作品を購入したりVIPが集まる教室に行って金を落としては、花瓶という名の「ちくわみたいな石」を作って共同展示会に飾っていました(そして展示会に足を運んで記帳していない従業員を後でチェックするという小物っぷりを発揮していました)。

当社の社長である銀さんや私はそのような人を"占い師"と呼んでいます。

米TVドラマ『Silicon Valley』巨大テック会社のCEOに侍るスピリチュアルアドバイザー


岸先生は法曹界のIT化を進める某政権のタスクフォースに参画していた某国立大学教授という経歴を持つ人です。政治家をはじめ方々に顔が広く、某政権が交代した後は教授職を辞めて某政権と親しかった会社などの顧問を複数掛け持っていました。顧問内容は法務とITを結びつけることでビジネス改善提案を行うということを得意としていたようです。

前職社長は権力や有名人などが大好物なこともあり、どこで知り合ったのか岸先生と繋がりがあり、前職の取締役であった銀さんも紹介を受けていました。

当社創業から間もなく、銀さんがIT技術に長けているのが使えると思ったのか「仕事をあげるよ」と岸先生から連絡があり、銀さんを顧問先会社に連れ回し始めました。

岸先生が顧問先会社にIT構想を話し、銀さんが具体策を示す。これがハマりにハマって、どんどん引き合いが入ってきました。

銀さん「弊社にはエンジニアと事務しかいません。私だけでは営業に限界があったので本当に助かります!」

岸先生「ほな、売上の20%を紹介料っちゅうことで頼むわ」

銀さん「粗利ではなく売上の20%ですか!? それだと弊社は利益どころか赤字になってしまいます」

岸先生「その分、高めに提示したらええんや。俺が紹介する会社は全部言い値で通すから安心しとき」

銀さん「わかりました・・」

ゼクシィ「横からすいません。先生の顧問先から受注して得た金銭の一部を先生にキックバックとしてお支払いすると、顧問先会社に水増し請求をして損害を与えたということで、先生も我々も詐欺罪の共同正犯になってしまうと思うのですが」

岸先生「何言うてんねん。顧問言うても、会社の名刺を作ってもうてるだけで顧問料なんか1円ももろてへんで。俺かてタダ働きっちゅうわけにはいかへんから、どこの会社にも俺が提案した業者から金もらうでって言うてあるわ。どれくらいもらうかは言うてへんけどな。それに案件が動き出したら俺も案件を管理せなあかんやろ。つまり、御社が顧問先会社から受注して、俺は御社の下請けになって働いて金をもらうっちゅうことや」

ゼクシィ「わかりました。それでは先生の会社と今回の経緯の内容を盛り込んだ業務委託契約書を締結するのと、顧問先会社に弊社が先生に業務委託を依頼することを了承得てから始動ということでお願いします」

岸先生「固いやっちゃなぁ」


銀さん「というわけで、このシステム構築には3名×3人月でお願いします。1人月〇〇円(ぼったくり価格)です」

顧問先会社「社長案件なので・・わかりました」

銀さん(即決で通った!?)

こんな感じで岸先生が紹介してくれる案件はどれも美味しく、岸先生が顧問先会社に「こうしたらええですよね。ちょっと高いですけど、この会社にやらせたら実現できますよ」と言うことが全てそのまま通りました。


エックス社と取引開始

岸先生「銀さんとこ、クラウドやったら何でもできるん?」

銀さん「AWS(Amazon Web Services)なら、だいたいのご要望を叶えられると思います」

岸先生「そうやんな。ちょっと話聞いてもらいたい会社があるんやけど」

と連れて来られたのがエックス社でした。エックス社は福岡で弁護士法人を経営する西口先生が新規事業を行うために設立した会社です。新規事業は事業会社の法務をクラウドシステムで支援するものであり、いわゆる"AI(人工知能)"の活用も見据えていました。ただ、システム開発に継続的に費用がかかることと、福岡で営業を行ってもなかなかスケールせず、複数の銀行からパンパンに借入を行っても資金が回らない状態になり、直近で卑弥呼アセットマネジメント(以下、「卑弥呼」)というファンドから1億円の出資を受けていました。今後、市場の大きい東京に進出する計画で調達したとのことです。

西口先生「はじめまして。こちらが岸先生の紹介会社ね。実はウチのエンジニアとこのシステムをGCP(Google Cloud Platform、現在はGoogle Cloud)で構築してもらいたかとよ。言語は〇〇でお願いしたいっちゃけど、なかなかできる会社がなかとよね」

当時、GCPは日本市場に本格参入して数年経過したとはいえ、AWSと比べるとかなりマイナーなクラウドサービスでした。〇〇言語もリリースされてからそれほど年月が経っておらず、受託開発で扱ったことがある会社は少なかったと思います。

銀さん「正直やったことがないのでわかりませんが・・弊社の最ベテランを2名充てて、キャッチアップ期間を2ヶ月見てもらってできるかどうか判断といったところですかね。ただ、弊社も創業したばかりで余裕がありませんので、キャッチアップ期間もお支払いを頂戴しないとできません」

西口先生「ええー・・」

岸先生「西口先生、他にできる会社ないですよね。大手に頼んでも結局彼らみたいなところが下請けで動くだけですわ。せやったら彼らんとこに直接3~4ヶ月やらせてみて、あかんかったら他を探すということにしましょうや」

西口先生「ばってん・・」

岸先生「はよ作って、はよ売らんと首が締まるんちゃいますか?(圧)」

西口先生「まぁ、岸先生が言うなら・・」

銀さん「2名×2人月で〇〇円(ぼったくり価格)になります」

西口先生「!?」

という具合でエックス社からの初受注が決まりました。当社は岸先生のおかげでどんどん稼働が埋まっていくどころか、そろそろ採用もしないと間に合わなくなりそうです。

ゼクシィ「先生、いつも案件を獲得いただいて本当にありがとうございます。おかげでフル稼働になりそうです。ところで先生は卑弥呼とはどういう関係なのですか?」

岸先生「顧問やがな」

ゼクシィ「エックス社とは?」

岸先生「顧問やがな」

ゼクシィ「つまりエックス社が出資を受けている卑弥呼の顧問である先生がエックス社に弊社を使えと言ってくれたということですか?」

岸先生「そうなるな」

ゼクシィ「それって優越的地位n」

岸先生「あー銀さん、エックス社はAIもあんねん。打ち合わせしよか」


-3ヵ月後-

西口先生「岸先生が紹介してくれた銀さんとこ、すごかね! ウチのエンジニアも絶賛しとって、もう全部任せてよかくらいって言いよったたい! ウチもはよ開発して東京で勝負したかとよ。増員ばお願いできんやろか?」

ということで、稼働2名が4名になり、6名になり、それでも足りないと言われ採用が必要になりました。採用はしばらく前から募集を行っていたものの、そもそも従業員が数人の小さな会社になかなか応募してくる人はおらず、応募があっても当社エンジニアのNGを食らい、ようやく内定を出しても入社まで至りませんでした。

零細企業で優秀なエンジニアを採用するのって『賭博破戒録カイジ』に出てくる人喰いパチンコ"沼"の3段クルーンより難しいんじゃないかと思う


おそらく、採用のボトルネックはオフィスにありました。オフィスは『創業期の綱渡り』に書いた通り、台東区にある築1970年代のオフィスビルの小さな一室(賃料15万円/月)です。

まだコロナ禍の前、採用面接となれば応募者はオフィスに来訪するのが当たり前で、当社のオフィスを見たら不安に感じてしまうのでしょう。応募者にオフィスを案内して引きつった顔をされたのは一度や二度ではありませんでした。とはいえ、当時はまだ資本金100万円、全員に給与を支払うだけで資金繰りはギリギリでした。

ゼクシィ「こんなオフィスじゃ誰も来てくれない。でもキラキラオフィスに引っ越すなんて絶対ムリだ。案件はあるのに・・どうしたら・・」

天の声(お前にウルトラCを叩きこむ好機を与えてやろう)

ゼクシィ「!?」


メイン取引先がファンドに乗っ取られた話(2)』に続く

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