本当になりたいもの
特になりたい仕事が思いつかないまま中学高校大学へと進学し、とりあえずの職に就いた。
試験地獄で10年ほどのたうち回る間に、わたしは空想の世界に行かなくなっていた。
空虚な現実世界で、食べて働いて眠るを繰り返す大人になっていた。
そこそこに恵まれた生活をし、これが普通、これが当たり前と毎日の暮らしに変化を求めることなど思いもつかなかくなっていた。
それが。
「大きくなったら何になりたい?」
大人になったわたしに、ある時問いかけられたのだ。
はっとした。
新鮮な言葉に感じた。
今から何かになれるんだろうか。
今から何かになっていいんだろうか。
ちょっと考えよう。
わたしは何かになりたかったんだろうか?
わたしが本当になりたかったものはなんだったんだろう?
しがらみのない心の中を探ると何か見えてきた。
「魔女だ」
子どもの頃に見ていた魔女は箒で空を飛び、魔法の杖を振って思うがままに事象を操る存在だった。
あれは無理。
あれは無理だけど。
大人になったわたしには、あの頃には無かった知識がある。
イギリスには現代の魔女が存在しているという。
彼女たちはハーブや占いやまじないを使って訪れる人の心と体を癒すのだと。
あれだ。
己が能力を使って人の心を動かす力。
それが魔法なんだ。
ぱあっと目の前が明るくなった気がした。
わたしになりたいものが、今にして見つかった。
今なら言える。
私は魔女になりたい。