癒しの力
これはまだ、コロナで生活が窮屈になる前のおハナシ。
わたしにできることは何かと探しているところに、カルチャーセンターのチラシで『ハンドマッサージの一日講座』というものを見つけた。
掌や指をマッサージして、体や心の不調を和らげることができるという。
災害を受けた地の避難所でボランティアが被災者にこんなマッサージをしているのを見たことがある。
他人に施すとなるとハードルが高いけれど、まずは自分や家族にできるならいいし、はじめの一歩としては適当ではないか、と勇気を出して受けてみることにした。
当日、会場には講師と助手がいて10人程が受講していた。
二人一組になり、指導を受けながらお互いに施術しあう。
講師は、このマッサージがどれ程素晴らしく効果があるかを熱く語った。
目に見える効果としては
「マッサージした片方の腕が伸びるんです!」と。
ちょっと眉唾だな、と思った。こっそり心の中で。
皆の反応が鈍かったせいか
「やって見せましょう!」となった。
で、あろうことか施術対象にわたしが指名されてしまったのだ。
講師がにこやかにわたしの手を取りマッサージをしてくれる。
「はい、じゃ両手を上げて」
わたしはなるべく公正を期すため心をフラットにして万歳をした。
皆がわたしの上方に注目する。
「・・・・・・・・・・・・」
しばらくの沈黙の後
「もう少しやりましょう」
今度は助手も加わって、片腕に二人がかりだ。
これはわたしにとって相当なプレッシャーだった。
二人はもちろん心底効果を信じているのだ。
「おかしいな」とか言っている。
もう降参だ。
次に腕を上げる時、わたしは心持ちそちらのほうを伸ばし気味にした。
「おおー」
感嘆の声がする。
あぁごめんなさい。
講師の人たちにも受講生にも本当に失礼なことをした。
どうか許してください。
あの時はあのまま何もせずに手を上げる勇気がわたしにはなかったのです。
もはや講師たちと目を合わせることもできず、いたたまれない気持ちで時間が過ぎるのを待ち、あいさつもそこそこにそそくさと逃げ帰ったのはいうまでもない。
結局、定期講習に参加することなどできるはずもなく。
わたしが指名された、あの時点が「試練」だったのだな。
今回の癒しの力を学ぶチャレンジは不発。
縁が無かったと思うことにする。