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俳句の鑑賞《58》


ぶらんこの空へそろひし靴の底

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.123

季語:ぶらんこ(三春・生活)

「ぶらんこ」を詠んだ先行句は数多あり、中でも、漕いでいる景は、特に詠みつくされた感があります。私も、過去に何度かトライはしてみたもののお手上げ状態。

ですが、「空へそろひし靴の底」!
思わず、ポンと手のひらを打つような気持ちになりました。

人は、ぶらんこを漕ぐときに、不思議と足が揃います。後方から、前方に向かってぐんと漕ぎ出す時、その靴の底は空へ。
景が見事に立ち上がります。


いちまいの筵の上の花の空

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.123

季語:花(晩春・植物)

桜の木の下に筵をひいての、花見の景が詠まれているのですが、その目線の動き、カメラワークが格別です。

「いちまいの」との、ひらがなの表記の効果で、ゆったりと句が始まり、筵を意識し、徐々に目線を上に向けます。そして、飛び込んできたのが、「花の空」。頭の上いっぱいに広がる満開の桜を、「空」と見立てたことに、感動いたします。
そして、その奥に、本物の青空も見え隠れするのであります。


食卓に置く来信や夕若葉

津川絵理子句集「夜の水平線」P.138

季語:若葉(初夏・植物)

若葉美しい初夏、出先から帰宅の作者は、郵便受けに入った郵便物の中から、自分宛の手紙を見つけます。
「来信」という措辞に、私は、心待ちにしていた手紙、という印象を持ちました。

少しでも早く見たい、読みたい、という気持ちを抑え、まずは夕食づくりに向かう作者の様子、が目に浮かびます。
食卓に置かれた手紙もまた、何となく楽しそうであります。


家中を夕風通る豆ごはん

津川絵理子句集「夜の水平線」P.138

季語:豆ごはん(初夏・生活)

上の一句目と同じページにある、こちらの二句目。
ふと、手紙を食卓に置いて作ったのは、「豆ごはん」なのかもしれない、と思いました。
(それが「句集」の味わい方の、醍醐味のひとつでもあります)

家中を通りぬける夕風は、若葉の香りを運びつつ、加えて、ほかほかに炊けた「豆ごはん」の匂いも運んでいるように感じられます。
緑豊かな初夏の夕べ、であります。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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