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西村麒麟句集『鷗』を読む。

『鷗』より、好きな句、気になる句、三十句選。


手鞠唄影が濃くなり薄くなり

信楽の狸の向きを変へて春*

手で顔を触り蛙でありしこと

湯に映る百の椿や箱根山

亡き母のおでこが冷た春の風*

春風やほくほくとこれ母の骨*

汚れてはをらねど掃除彼岸寺

靴の上に置く靴下や磯遊び*

黒々と職員室のバナナかな

ぼうふらの世界にあまた誕生日*

武蔵野を余さず雨や桜桃忌*

どうしても何匹か死ぬ金魚かな

我が腕の冷たき秋の昼寝かな

迷子の子迷子のままに踊りけり*

足もとに山鳩のゐる良夜かな

宇津田姫鷗の中をすたすたと

紫陽花の一万株を抜けて海

べつたりと柱に夜や鮎の宿

虫売やすぐ死ぬ虫の説明も*

雛壇の鏡の中へ大きな目*

蠅叩松の間を抜け鶴の間へ*

なめくぢの雨を嫌がりつつ雨へ

枝豆やあつといふ間に馴染む人

秋の島蟹を避けつつ花を買ひ

針山に針豊かなる良夜かな*

洋梨や夜がどんどんこの部屋に*

松手入顔を斜めにして止まり*

顎を上げ蟻の見てゐる竜の玉

初泣きや地面を叩き枝を投げ

春障子船の近寄るたびに開け

港の人、『鷗』より抜粋




     ・・・・・

先週の金曜日(2024.9.20)、荻窪にある「鱗kokera」にて、西村麒麟先生の句集「鷗」の読書会がありました。

当日までに、自分の特選一句、並選九句、計十句を選び、読書会当日に、店主・茶鳥さんに提出。
参加者八名が選んだ、それぞれの句に対しての鑑賞。

その際に選んだものが、今回の三十句です。(うち、十句提出)


個人的には、麒麟先生のこれまでの句集、『鶉』『鴨』に続き、三冊目の句集を読んだことになります。
一見、非常に平易な言葉、文字を使い、さらりと詠まれている句の印象ですが(それは、麒麟先生が、講習などで「読み手に負担のかからない句」の推奨をなさっていることと関係があると、私は思っています)、なかなか、どうして、相当に計算された御句ばかりと思います。

茶鳥さん曰く、「真似をしたら、真似をした人が必ず怪我をする俳人」と。
ひゃ~、あぶないあぶない、であります。

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