俳句の鑑賞《70》
季語:秋(三秋・時候)
上品で可愛らしい、お澄まし、という措辞。鰹と昆布の香りの透き通った汁に浸すのは、これまた可愛らしい、手毬麩です。
乾いた手毬麩を、澄んだ汁に入れてみれば、徐々に水分を含み出し、ひとまわり大きな、色つやの出た手鞠になります。恐らく、何かのお祝い事のような気がします。
季節は秋、身近な祝いは、七五三。
三歳にしろ、七歳にしろ、おすましをした女児と、それを祝う家族の笑みもまた見えて来るようです。
季語:柿(晩秋・植物)
日曜につづく祝日、仕事や学校が土曜日もおやすみの人にとっては、三連休となります。
そんな連休、作者は、ゆっくりと時間をすごしたに違いありません。眺めているたのは、庭に実っている柿の色。
土曜日より日曜日、日曜日より月曜日、徐々に柿の色が濃くなっていくのです。
普段の忙しない時の流れのなかでは気づかない、些細だけれと、大切な変化は、作者の心に沁みていったのでしょう。
季語:藪手鞠(初夏・植物)
高さ2m~6m、比較的高さのある木、水平に伸びた枝に上向きにつく真っ白な藪手鞠は、遠くから見ると、雪が降り積もっているかのような美しい景となります。(花そのものは、小ぶりの額紫陽花のよう)
作者は、雨が上がって間もない頃、進む道にあるぬかるみが、雲が薄くなったところからさす弱い日の光に、うっすらと照らされていることに気づきます。
そのうすい光は、同時に、この藪手鞠をも包んでいたに違いありません。
幻想的な景であります。
季語:莢蒾の花(初夏・植物)
上の句に続き、こちらも白さ際立つ花の句。
秋になると小さな赤い実をつける、莢蒾の花。季語としては、実の方が有名ですが、五、六月の初夏に小さな花をたくさん咲かせます。
私には、作者が、雨のなか、知人と一緒に歩いている景が浮かびました。
静かな会話、そして、近くにはお互いに寄り添うように咲いている莢蒾の花。そのどちらにも、雨粒の音がしっかりと降り注いでいます。
読者もまた、雨の音で満たされるようであります。
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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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