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俳句の鑑賞《70》


お澄ましに手毬麩ひとつ沈む秋

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.148

季語:秋(三秋・時候)

上品で可愛らしい、お澄まし、という措辞。鰹と昆布の香りの透き通った汁に浸すのは、これまた可愛らしい、手毬麩です。
乾いた手毬麩を、澄んだ汁に入れてみれば、徐々に水分を含み出し、ひとまわり大きな、色つやの出た手鞠になります。恐らく、何かのお祝い事のような気がします。

季節は秋、身近な祝いは、七五三。
三歳にしろ、七歳にしろ、おすましをした女児と、それを祝う家族の笑みもまた見えて来るようです。


日曜につづく祝日柿に色

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.149

季語:柿(晩秋・植物)

日曜につづく祝日、仕事や学校が土曜日もおやすみの人にとっては、三連休となります。
そんな連休、作者は、ゆっくりと時間をすごしたに違いありません。眺めているたのは、庭に実っている柿の色。
土曜日より日曜日、日曜日より月曜日、徐々に柿の色が濃くなっていくのです。

普段の忙しない時の流れのなかでは気づかない、些細だけれと、大切な変化は、作者の心に沁みていったのでしょう。


ぬかるみのうすくひかりぬやぶでまり

津川絵理子句集「夜の水平線」P.172

季語:藪手鞠やぶでまり(初夏・植物)

高さ2m~6m、比較的高さのある木、水平に伸びた枝に上向きにつく真っ白な藪手鞠は、遠くから見ると、雪が降り積もっているかのような美しい景となります。(花そのものは、小ぶりの額紫陽花のよう)

藪手鞠

作者は、雨が上がって間もない頃、進む道にあるぬかるみが、雲が薄くなったところからさす弱い日の光に、うっすらと照らされていることに気づきます。
そのうすい光は、同時に、この藪手鞠をも包んでいたに違いありません。
幻想的な景であります。


がまずみの花やことばも雨の音

津川絵理子句集「夜の水平線」P.173

季語:莢蒾がまずみの花(初夏・植物)

上の句に続き、こちらも白さ際立つ花の句。

秋になると小さな赤い実をつける、莢蒾の花。季語としては、実の方が有名ですが、五、六月の初夏に小さな花をたくさん咲かせます。

初夏の莢蒾の花
晩秋の莢蒾の実

私には、作者が、雨のなか、知人と一緒に歩いている景が浮かびました。
静かな会話、そして、近くにはお互いに寄り添うように咲いている莢蒾の花。そのどちらにも、雨粒の音がしっかりと降り注いでいます。

読者もまた、雨の音で満たされるようであります。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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