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俳句の鑑賞㉛


寝転べば草がそびえて南風

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.59

季語:南風(三夏・天文)

季語としての南風は、穏やかな晴天の日に吹く風です。
草原でふと寝転んでみた主人公は、周りに生えている草が「そびえて」いるように見えたのでしょう。
吹いているのは南風。青い草々もその風に揺れています。

読み人も、とても自由で穏やかな気持ちになり、小さな幸せに包まれます。


青梅のころがる留守を訪ひにけり

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.60

季語:青梅(仲夏・植物)

訪問先の呼び鈴を押してみたものの、応答はありません。恐らくお出かけ。
先に連絡をせずのお伺いなので、主人公は仕方ないか、と思いつつも残念。思案している目には、庭に転がっているたくさんの青梅が映ります。

留守を訪ふ、という措辞にはっといたしますし、下五の着地の後に、まざまざと青梅の景が目の前に広がるります。「けり」の効果のひとつなのだろうなあ、と思います。


金屏風話上手の人ばかり

津川絵理子句集「夜の水平線」P.78

季語:金屏風(三冬・生活)

現代は、金屏風が個人宅にあることはなかなかありません。
恐らく、芸事の発表の場、または、お祝いの席であるのでしょう。次々と舞台に上がる人たちの、なんとお話の上手なこと。主人公の笑顔と拍手が見えるようであります。


余寒なほビルにはりつくビルの名前

津川絵理子句集「夜の水平線」P.79

季語:余寒(初春・時候)

最近の高層ビルですと、これは何のビルだろうとその名前を探してしまったり、結局わからずじまいであったりいたしますが、ひと昔前に造られたビルですと、そのビルの入り口や、そう高くはない場所に「〇〇ビル」と名前がついていることがよくあります。
まだ寒さの残る街角。ビルの名前が「ビルにはりつく」との措辞、その景が見事に再現されます。
少々裏ぶれた様子も感じられます。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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