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『水原秋櫻子句集・群青』を読む。

『水原秋櫻子句集・群青』徳田千鶴子編 から、気になる好きな四十句。


来しかたや馬酔木あしび咲く野の日のひかり

鶯や前山ぜんざんいよよ雨の中

天平てんぴょうのをとめぞ立てるひいなかな

葭切よしきりのをちの鋭声とごえや朝ぐもり

やうやくに倦みし帰省や青葡萄あおぶどう

眠たさのうなじおとなし天花粉てんかふん

青春のすぎにしこころ苺喰ふ

白樺に月照りつつも馬柵ませの霧

啄木鳥きつつきや落葉をいそぐ牧の木々

むさしのの空真青なる落葉かな

天使魚もいさかひすなりさびしくて

白菊の白妙かめにあふれける

野の虹と春田の虹と空に合ふ

梅雨の花林にしろく野にしろし

夜を咳けば昼はねむりつ菊日和

吊橋や百歩の宙の秋の風

べたべたに田も菜の花も照りみだる

萩の風何かかるる何ならむ

野の風をなみと聞く日の玉椿

素朴なる卓に秋風の聖書あり

瀧落ちて群青ぐんじょう世界とどろけり

山の蛾はランプに舞はず月に舞ふ

雲海や樹頭一禽声なくて

居を移すこころ木犀もくせいの香を待てり

朱欒ざぼん売海を見てをり船出前

澄む日影照る月影や紫苑しおん咲く

紅葉せる中にも沙羅しゃらの夕紅葉

青雲に湧く瀧青き霧へ落つ

春の藻や胸りのぼる熱帯魚

傘を手に鬼灯ほおずき市の買上手

花と影ひとつに霧の水芭蕉

酔芙蓉白雨はくうたばしる中に酔ふ

はまぐりのひらけば椀にあまりけり

牧閉ぢて紫こぼす山葡萄

稚児の列蝶がみちびき蝶が追ふ

雨くらきわびしさに栗でてをり

百歩にて返す散歩や母子草

あきらめし旅ありすずり洗ひけり

耳老いて閻魔こほろぎを友とせり

朝顔の今朝もむらさき今朝も雨

ふらんす堂文庫「水原秋櫻子句集・群青」より抜粋



     ・・・・・

私が所属している「南風俳句会」の初代主宰である山口草堂先生は、1931年に「馬酔木」に入門し、水原秋櫻子に師事。
ということで、南風は水原秋櫻子の流れを汲んでいます。

南風は今年、創立九十周年を迎え、11月の結社誌では、これまでの南風の歴史や、歴代の主宰(山口草堂先生、鷲谷七菜子先生、山上樹実雄先生、津川絵理子先生、現・村上鞆彦主宰)のお言葉が記されています。

今回、私がじっくりと読んだ「水原秋櫻子句集・群青」は秋櫻子の孫にあたる徳田千鶴子氏の編集であり、この書に載っている秋櫻子の句は、どれも代表句といっても過言ではありません。
その中から、私が現時点で気になる四十句を上に抜粋いたしました。

先日、私は、村上主宰にすすめていただいた、飴山實句集「辛酉小雪」を読んだのですが、その経験を積んだのち、改めて秋櫻子のこの句集に向き合ってみると、ひとつひとつの句が非常にすんなりと私の中に入ってきて、以前読んだときよりも深く感動を得ることができました。
不思議なものであります。

そして、今後の自分自身の作句に生かしていけるヒントをたくさん得ることもできました。
ありがたいことです。

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卯月紫乃
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