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『過ぎゆきぬ』 「紙」連作二十句【秋ピリカグランプリ 2024 に寄せて】



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『過ぎゆきぬ』

秋ピリカグランプリ 2024」のテーマ「紙」の文字の詠みこみ、二十句を編みました。
少しだけ説明を添えます。

俳句では、「切れ」が大切であります。
「切れ」とは、簡単に言えば、そこで一旦「視点を変える働き」、それによって、景がぐんと広がる、という効果が期待できます。

以下、横書きで、私が「切れ」と意識した部分に「 / 」を入れてみましたので、参考にしてみてください。
そこで一呼吸、見える景や意味をゆっくり味わい、そして、次へといく感じです。
読点「、」を一回入れる、と解釈していただくことも可能です。

(中には、切れを敢えて作らず、音と意味の流れを意図した句もありますが、その句には、/ を入れていません)

また、俳句ですので、季語の働きは絶大です。
言い換えれば、季語のもつ意味合いを最大限に生かすのが、季語以外の措辞そじの役割でもあります。


過ぎゆきぬ

恋文を折りて祈るや / 紙雛
紙雛かみひいな(仲春・生活)

みくじ紙 / しづかにたたむ木の芽時
芽時めどき(三春・時候)

花鳥の届けてくれし手紙かな
花鳥はなどり(三春・動物)

ふたりして / 懐紙にのせる桜餅
桜餅(晩春・生活)

ソーダ水 / 紙ストローの触れ合へる
ソーダ水(三夏・生活)

紙香水 / シフォンスカートたおやかに
香水(三夏・生活)

うすもののたもとにそつと / 桜紙
うすもの(晩夏・生活)

永遠の愛を半紙に / 月下美人
月下美人(晩夏・植物)

秋雷や / あなたの胸のメモ用紙
秋雷(初秋・天文)

問ひただす紙破らるる野分かな
野分のわき(仲秋・天文)

鵙鳴くや / 愛と憎悪は紙一重
もず(三秋・動物)

婚約を白紙にもどす / 秋の暮
秋の暮(三秋・時候)

木枯におどけるピエロ / 紙芝居
木枯(初冬・天文)

カーボン紙 / 凍つる心を写す夜
つ(三冬・時候)

後悔は冴ゆる月へと / 紙吹雪
冴ゆる月(三冬・時候)

紙漉いて紙漉いて / 時過ぎゆきぬ
紙漉かみすき(三冬・生活)

絵手紙にピンクの絵の具 / 今朝の春
今朝の春(新年・時候)

紙ねんど / 子らとこねれば山笑ふ
山笑ふ(三春・地理)

パラフィン紙 / バレンタインの日の菓子を
バレンタインの日(初春・生活)

紙ふうせん息を吹き込み / 「だいじようぶ」
紙風船(三春・生活)


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連作二十句

春四句 → 夏四句 → 秋四句 → 冬四句 → 新年一句 → 春三句
季語の分類:時候 五句
      天文 三句
      地理 一句
      生活 八句
      行事 なし
      動物 二句
      植物 一句


俳句の連作は、基本的には、季語の季節はもちろん、季語の分類(七項目)もできるだけ満遍なく、を私としては目指すことが多いのですが、今回は、生活季語がとても多くなりました。

紙の文字を含む言葉が、そのまま季語になっているもの(紙雛、紙風船)、また、紙をつけての季語(紙香水)が、どれも生活季語だったせいもあります。

また、いつもでしたら得意な植物季語が、一句だけ、という珍しさ、でもありますが、花鳥、桜餅、桜紙、と、花の印象が強めの言葉を入れたので、まあ、それほど植物が少ない印象は免れたかもしれません。
いずれにせよ、良しとします。


今回は、普段、散文の創作を主としている方が多く集まる、「ピリカグランプリ参加者」がご覧になる機会の多い連作ですので、できるだけストーリー性を重視し、尚且つ、わかりやすい「恋愛もの仕立て」といたしました。

かなり甘い、というか、ベタな内容ですが、一句としては十七音しかない俳句でも、連作として、ストーリー性をもたせることはできるのだ、を知っていただけたらと思います。

最後まで、お目通しありがとうございました。


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そして、現在、各審査員、応募作品に真摯にむかいあっています。
また、今回は、ご家族の協力を得て、マスク審査(何方の作品かを伏せての審査)をなさっている方々もいます。

審査結果、楽しみにしていただけますと幸いです。

(連作二十句は、応募が始まる前に、完成させました。私自身、「紙」に向き合うことが目的でした)


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秋ピリカグランプリについては、こちらをご参照ください。
応募は既に締切、発表は11月2日(土)です
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百八十九もの作品のご応募がありました。本当にありがとうございます。
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私も、自分自身のぶれぬ思いを大切に、審査をしています。
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卯月紫乃
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