夫の目はこつぶ
夫の目は、本人曰く、小さい。
私はそれほどとは思っていないけれど、よくよく覗き込んでみると、やはり、決して大きくはない。
それに対して、私の目は大きい。
というか、でかい。
思春期以降、「でかっ」と言われることはしょっちゅうだったし、自転車に乗っている時に、虫が目に激突することも度々あった。(実は昨年の秋、しばらくぶりに自転車に乗った時も経験した。)
まぁ、この虫事件は、目のでかさに関係はないかもしれないが、少なくとも、夫は未経験だと言う。
「ぼくの目は小さいから、入るわけないよ。」と。
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毎日が日曜日の生活で、近所を「パトロール」と称して散歩する時、夫と私との目に入る光景は、どうやら違うようだ。
関心のあることの対象の相違もあるだろうけれど、そのことを加味したとしても、私の目の方が、多くをキャッチしている気がする。
パトロールの最中は、私は多弁だ。
「この前は小さかった月下美人の蕾が、こんなに大きくなっている!」
「ほら、あの芙蓉の花があんなに咲いた!」
「あの男の子は、あそこのお部屋のお坊ちゃん!」
(建築中の家の窓を見て)「あら、シャンデリアが付いた!」
目に入る新しい情報が嬉しくて、ついつい口から出てしまうのだ。
それに対し、夫は、「お、そうだね。」と認めることが80%。
(適当な相づちでないことを願う。)
「なんでそんなことに気が付くの?」と不思議そうなのが20%。
だって、私はでかい目で、しかも、そのでかさは面積だけでなくて、出っ張っている立体的な目で(幼い頃には、出目金とさんざん言われた)、キョロキョロしまくっているのだから。
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今日、お風呂上りの洗面所で、陸上の十種競技の話題になった。
「十種って何だろう?」と私。
夫は目を、いや、瞳を少し上に向け、そのまま眼球を左方向に(私からは右に)小さくゆっくり回した。
その瞳には、ほんの少しの変化があったのだと思う。
けれど、私は、その変化に気づかなかった。(悔しい)
「麻婆豆腐」と夫。
「海老チリ」と続く。
「はぁ?」
こつぶの目の中の瞳が、何食わぬ風に、ゆっくりと逆の右方向(私からは左に)回る。
眼球の奥は、しら~っという風が吹いている。(吹くか?)
中華料理かい。
くそぉ、やられた。。
真剣に陸上十種競技は、何かしら?
100メートル、走り高跳び、走り幅跳び、やり投げはあるよね?
あとは何だろう?
と真剣に考えていたのに、あほらし、私。
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夫のこつぶの目には、実は様々な表情がある。
普段は、眼鏡の奥にひっそりと、こっそりとしている。
何か出来事が勃発しても、しかも、その出来事が相当大きくても、ほとんど変化はない。(そこは、非常に癪でもある。一方で、カッケ~~♡!とも思う。)
中華料理の十種の時のように、くるりと目が左に回り、それから右に方向転換して回るときには、予想を反する、滑稽な反応が起こる。(今回は、その予兆を見逃した。)
何か、ある程度真剣な質問をすると、(私なりには真剣だけれども、生きるのに重要な質問ではない。)
「そうねぇ。」
と言って、眼球は一方方向に小回りする。
そして、言葉は続かない。
間があく。流れる。
ああ、あまり興味がわかない内容なのだろうと、(または、興味は他に向いているのだろうと)私は察して、ま、いっか、とフェイドアウトする。(大人だ)
めったにないことだけれど、ブラックジャックの目が、キラリ~ンとするように、そのこつぶの目の奥に、光が宿ることがある。
それは、ちょっと控えめの小さい光だけれど、まるで、眼球の奥の骨の奥から、脳みその凝縮したエネルギーが噴火したみたいに、強い。
その光が現れた後の夫は、全集中のスーパーマンに変わる。
(あれを見た、かつての部下の皆さんは、凍っただろうな。。)
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こつぶな夫の目の観察は、私の日々の楽しみのひとつだ。
そして、このことを夫は、恐らく知らない。
この文章を読んだ夫の目は、どんな変化をするのかな?
興味津々だ。
もう夫は眠ってしまっているので、明日の朝、私は夫の目と瞳を観察するのだ!(ウキウキ)
・・・・・ end ・・・・・
タイトル画像 : 夫の眼鏡と木製飛行機。
お気持ちありがとうございます!