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「南風・十月号」を読む。

「南風・月号」より、好きな句、気になる句。
(句順は掲載順、*=特に好きな句)


村上主宰「鉾の鉦」十句より

鉾立の縄の微塵のただよへる*

くちびるの荒れたる鉾の稚児人形*

鉾の鉦氷のごとくひびきけり*

黄菅より出てきし蜂の貌と会ふ

蝉やみし大樹に風の流れをり



津川顧問「箱庭」十句より

鞍ほどの皮落とす椰子夏霞

ゲーム機の指紋発光さみだるる

楊梅や先反り返る鬼の舌*

心太むかし子供も放し飼ひ*

箱庭の無人島にて月を待つ*


「雪月集」より(敬称略)

描いている樹の息となる蝉時雨
 小野 怜

鵯鳴いて暑さきびしくなる予感
 中村君永

かなかなのこゑのをはりは風の音*
 岩渕晃三

酔へばすぐ亜紀の「舟唄」月見草
 井手千二

死真似か死んでゐるのかかなぶんぶん
 西野晴子

生臭き梅雨の日輪手術終ふ
 越智哲眞

魚捌く水音捌く宵祭
 藤川喜子

宵山や襖の奥も襖の間*
 阪本道子

湯上りを吹かれに出でぬ月見草
 上村昌美

打水の穂が吹き上げし土ぼこり
 大高松竹

熱帯夜窓をあければ隣の灯
 高原初子

看護師に付き添はれゐる巴里祭*
 志貴春彦

傘少し窄めて潜る茅の輪かな
 田村紀子

わが影のなで肩濡らす青葉雨
 福本葉子

茗荷汁脳内に風通りけり
 福山千代子

夏痩やまた裏返るペンダント*
 前田照子

滴りが森の木霊となる水面*
 稲井優樹

蝌蚪泳ぐ幼な子の抱く缶の中
 秋葉とし子

七月の歪みて赤き真夜の月*
 𠮷村冨恵

岩すべる水が風呼び河鹿笛*
 豊田麻佐子

風鈴の紐切れて落つ音の果*
歯を削る音の変調する晩夏
 赤川雅彦

葉脈に紫及ぶ茄子かな*
 新治 功


「風花集」より(敬省略)

花卯木鳥の骸を鳥がつつき*
 若林哲哉

七月を待つ六月のプールかな*
 原 隆三郎

残業の窓の高さに鉾頭 
 日野久子

山鉾より山鉾見えて細い空
 板倉ケンタ

半夏雨二日酔なる腕枕
 桑原規之

願い事書きたくない子星祭*
 浜口順子

餡蜜に安請合ひをしてしまふ
 太田美沙子

サングラスはづし確かむ雲の白
 澤木恭子

改札が海の入口夏帽子*
 館 ゑみ子

持て余す一人の時間かたつむり
 片岡智子

アマリリス地軸と同じ傾きに*
 越智佳代子

紫陽花の色にふくらむ雫かな*
 武田恵子

初秋の鮎泳ぐかに焼かれゐる
 織田佳子

旅人に木曽湧水の冷し瓜
 岡原美智子


「南風集」より(敬省略)

柴犬の伏せゆるぎなし夏木立
 堤 あこ

月鉾の立つころ雨の上がりけり
 横田朱鷺子

人形の置かれて空き家雲の峰*
 延平昌弥

肩揚げをすいと解けば雲の峰
 梅田実代

腕振れば脚が動くよサンドレス*
スカーフで髪を結ひたり巴里祭
 市原みお

酒売るに酒呑んでゐる汗拭
 東野礼豊

朝ぐもりエアプランツの癖毛かな
 ばんかおり

夏痩せの眼鏡の捩子のゆるびをり
 折戸 洋

茅の輪跳ぶ子にひかがみの白きかな
 両角鹿彦

チョコレート工場のある虹の端*
 山本こうし

大粒の雨が眼鏡に紫陽花に
 佐々木千賀子

向日葵やひとと会う日は早く起き
メヒルギの花やパドルを伝う水*
 五月ふみ

冷房の風のはじめの匂ひかな
 宇野悦耳

おとうとの畳にさらう平泳ぎ
 高田陽子

牛の眼に馬の眼に虹立ちにけり
 伊藤映雪

梅干の種こりこりと電話番
 水野大雅

蓑鳴けりじわじわ熱くなる星ぞ
 陰山 恵

噴水がメロンシロップ色の夜*
 野村茶鳥

プール出る人の形に水脱いで
 窪見れい

始まりは細胞一つ蝉しぐれ
 高橋明子

大暑なるメタセコイヤの揺れあえか
 坪倉千恵子

本心を吐きたる土用蜆かな
 河原鳥魚


「摘星集・兼題、茸」

松茸を割く指先のふるへけり
 佐々木千賀子

案内者の歩幅を追ひぬ茸山
 市原みお

茸焼く切なき音のしてゐたり
 磐田 小

天辺に罅ある茸罅深し
 堀内照美

これもまた踏まれてをりぬ煙茸*
 佐々木依子

教へ合ふ大きな声や毒茸
 堤あこ

木々のこゑ風のことばに茸育つ*
 伊藤映雪


     ・・・・・

卯月紫乃 載せていただいた句

「南風集」
片蔭に山羊と仔牛とマサイの子
夕焼けて手話の親子のシルエット
頭の上の籠やバナナの嵩高し
結葉の影を喰みたる麒麟かな

「摘星集・茸」
白神の森のみづより月夜茸
(美しく詠んでいるが、やや大づかみ。主宰評)
熊鈴の音とまりけり煙茸
(音で人の動きを描いているのには工夫がある。主宰評)

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