俳句の鑑賞《75》
季語:花冷え(晩春・時候)
桜の花が咲き、もう十分に春、と思っていると、ふと戻って来る寒さ。それを、花冷え、といいます。(季語での「花」は、桜のこと)
そのような日に、作者は、改めて桜の木を見ます。花の奥、間、ではなく「かむさる」という措辞から、桜を見る視点は、ある程度離れたところからと推察。
曇天の景なのですが、下五での着地「しろし」がとても効いていて、桜のほのかな淡い紅色と、お互いを引き立て合い、美しい日本画を見ているような気持ちになります。
温度感、肌感、を纏っての「視覚の美」を掬いあげる感性、に憧れます。
季語:夏(三夏・時候)
「はためくもの多し」の言い切りに、とても躍動感を感じ、そこからの、「商店街に」の場所提示、そして、畳み掛けるように季語の「夏」。
破調の効果とも相まって、夏らしい力強さ、をとても感じます。
「氷」「ソフトクリーム」、休日なら「金魚すくい」など、いかにも夏な、のぼり旗や、「あさ市」「○○商店街」、今どきでしたら「ペイペイ使えます」の旗なども見えてまいります。
活気に満ちた商店街、そしてそこを吹き抜ける、夏の風であります。
季語:日の盛(晩夏・天文)
季語「日の盛」、夏の晴天の最も日差しの強い時間帯、正午から午後三時頃のこと。
本来ならば、歩いてゆこうとした道のりかもしれません。ですが、作者には、容赦なく夏の日差しが刺さります。
自らの健康のために、タクシーに乗る、もひとつの処世術。
顔に当たる日差しを遮るように、伸ばされた腕と手。外向きの掌に、吸い寄せられるように一台のタクシーが止まります。
あまり積極的に止めている感じのしない、不思議な余韻が残ります。暑さに疲れてしまっている作者、なのかもしれません。
季語:夏料理(三夏・生活)
恐らくは、結婚披露宴。微笑んでいる主賓の先には、新郎新婦が緊張の面持ちで座っています。
作者の視線は、その新郎新婦から主賓へ、そこでしばし止まり、その後、自分の目の前にある、夏料理へとぐぐっと寄ります。
「遠くに」の措辞が、読み手を、大胆なカメラワークへと誘うのです。
そしての「夏料理」の美味しそうなことといったら。美しい盛り付けも想像できます。もしかしたら、ガーデンウエディングなのかもしれない、そんな気もしてまいりました。
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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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