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俳句の鑑賞《69》


人去りしのちも泰山木の花

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.146

季語:泰山木の花(初夏・植物)

泰山木の花

泰山木の花といえば、樹木も葉も花もとにかく大きい。大抵の木が20m以上、そのために、しっかりと上を見上げないと花に気付かないほど。ただ、咲き初めの香りがとても強いので、どこかから濃厚な香りがするなあ、と不思議に思う方もいそうです。

このように、存在感の大きな泰山木の花を、作者は「人去りしのちも」そこにしっかりと存在する、と省略をきかせて詠んでいます。
人が去ったあとも、その場所で泰山木の花は、ますます堂々と咲いているのです。


みづからの葉音のなかの幹涼し

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.146

季語:涼し(三夏・時候)

木々に囲まれた場所で心を落ち着けていると、吹いている風の具合によって、葉々の触れ合う音が様々に聴こえてきます。
作者も、初めはそのような音に耳を傾け、全身で味わっていたに違いないのですが、感覚点を自分から、その音の元の木、そして、幹に移してみます。

するとどうでしょう、幹は、その風に吹かれて鳴っている音の「なか」にいることに気づきます。
さらさらと聞こえる「みづからの葉」の合唱。その葉たちは、暑い日差しから、自分を守ってもくれています。
涼しい素敵な時間です。


人力車連なり休む竹の秋

津川絵理子句集「夜の水平線」P.169

季語:竹の秋(晩春・植物)

日本の観光地は、浅草を始めとし、人力車が走っている場所が多くなりました。
休日で人出が多いときなどは、人力車の数も多くなり、町じゅうを威勢よく駆け巡ります。
ですが、ほんの一時、ふと人の流れが止み、道のひとところに人力車が連なることもあります。車夫たちも、ほっと一息、束の間の休憩。

周りを見れば、竹も色づき、さらさらと散っています。
夏ももうすぐそこです。


春風や弾力で立つ竹箒

津川絵理子句集「夜の水平線」P.171

季語:春風(三春・天文)

竹箒、昭和の時代には、個人宅でもよく見かけましたが、今の時代となると、お寺や神社、墓地、でしょうか。
長年使われたものですと、先がすり減って、短くなったり、硬くなったりもしますが、作者が見たのは、「弾力」のある竹箒。新し目のものは、確かにかなりの撓りがあります。

春風、時折、かなりの強風だったりもします。その中で、撓りつつも、しっかりと立っている竹箒。作者の観察眼の鋭さを感じます。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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