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俳句の鑑賞㉕


沖星に高さ加はる猫の恋

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.47

季語:猫の恋(初春・動物)

海岸近くから、沖に見える星を眺めています。
季節は季語からすると初春ですが、夜空に浮かぶ星はまだ冬の星座が主。南の空には、冬の大三角も見えるはず。北の空ですと、普通にカシオペヤや北斗七星でしょうか。
高さ加わる、の措辞から、そこそこ長い時間天体を見ていたに違いありません。気になる星座が天頂へと昇ってゆきます。

そして、その間、ずっと近くでは猫の声が。
若き猫の恋を耳にしながら、作者は何を想っているのでしょうか。そろそろ人が恋しくなっているのかもしれません。


万愚節パンをはみ出すレタスかな

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.47

季語:万愚節(仲春・生活)

万愚節、エイプリルフール。
目の前にあるパンからは、盛大にレタスがはみ出しています。(クロワッサンのサンドイッチを想像してしまいました)

誰かの悪戯でしょうか。何かトリックがあるのか、否か。
今日が万愚節と意識した作者が、はみ出したレタスに注目するところが滑稽です。


タランチュラなめらかに来る夜長かな

津川絵理子句集「夜の水平線」P.53

季語:夜長(仲秋・時候)

なんとタランチュラです。
そのタランチュラがなめらかに自分の方に向かってくるというのです。それを、じっと見つめている夜長。

どこまでが現実で、どこからが虚構なのか。夢うつつ。
不思議でありつつ、目が離せない御句であります。


胸に挿す造花の光十二月

津川絵理子句集「夜の水平線」P.55

季語:十二月(仲冬・時候)

いわゆる「コサージュ」が流行っていた時期がありました。少し改まった会やお式で、スーツやドレスの胸に輝きます。

美しくもあるけれど、あくまで造花、造られた花です。その光は独特。作者の心が見え隠れするようであります。
十二月、楽しいようで淋しいようで哀しいようで。

既出の、梅雨寒し造花いくつも蕾持ち の御句がすかさず思い出されました。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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