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俳句の鑑賞《71》


末枯や傘にあつまる雨の音

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.150

季語:末枯うらがれ(晩秋・植物)

うらとは、先端のこと。先の方から枯れてきている草や葉の、何とも哀し気な景が広がります。

その景の中、天から降って来る雨が、まるで自分の傘に集まってきているように感じる作者。
何か思い詰めていることでもあるのでしょうか。俯き加減で歩く足音が、雨の音とも重なるようであります。
いずれ雨が上がり、作者の心にも日が射すことを願うばかりです。


ひらきたる手のどんぐりに風吹けり

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.150

季語:団栗(晩秋・植物)

上の句と同じ頁にある、こちらの句。季節も同じ晩秋。
となると、もしかしたら、傘の柄を握っていない方の手の中には、団栗があったのかもしれません。

雨が止み、傘を閉じた作者。団栗を握っていた手をひらいてみます。
この季節には珍しい、湿り気を帯びた風が、やさしく団栗、そして作者に吹いてきます。ふと我に返り、少し明るくなってきた空を見上げたかもしれません。

もう一度、団栗を握りしめ、前を向いて歩き出す作者の姿も見えるようです。


自転車とつながる腕夏はじめ

津川絵理子句集「夜の水平線」P.174

季語:夏始(初夏・時候)

自転車のハンドルをしっかりと握っていると、まるでハンドルと自分の腕とが一体化しているような錯覚に陥ること、私も経験があります。
それを、自転車とつながるかひな、と表現した作者。その発想が面白く、ゆたか。

夏のはじめの弾けるような季節のなか、ぐんぐんと進む自転車、生命に満ち溢れています。


深緑や乗馬ズボンの尻ゆたか

津川絵理子句集「夜の水平線」P.174

季語:緑(初夏・植物)

そして、二句目もまた生き生きとした句。

乗馬ズボンのシルエットは、独特で、腰回りが緩やかです。それを「尻ゆたか」と表現したことで、面白味と、心のゆとりも感じられます。
馬や乗馬が好きな作者の、溌剌とした初夏であります。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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